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ノルウェーの種子バンク「ノアの箱舟」にスイスの種子を保存

日の出の中のスバールバル国際種子貯蔵室の入口 Keystone

戦争や自然災害から農作物の種子を守るため、ノルウェー政府が北極点の近くに国際的な種子保管室を設立した

この施設は、はるか北極のスバールバル群島の山の奥深くに、約1000万ドル ( 約10億4800万円 ) を 投じて造られた。およそ100カ国が保存用種子を送る予定だが、スイスもその1つである。

 「生物の多様性は自然の力と人間の活動の脅威にさらされています。これは将来の世代のために、生物の多様性を守っていく『ノアの箱舟』なのです」
と保管室の開会式でノルウェーのイェンス・ストルテンベルク首相は語った。

長期的なプロジェクト

 「地球最後の日の保管庫」と称されるこのスバールバル国際種子保管室は、北極点からわずか1000キロメートルに位置し、世界各国で自国の植物の種子を保存している約1400の種子バンクが、自然災害、経済崩壊、戦争、または気候変動などの被害を受けた時のための予備として機能する。例えば、イラク、アフガニスタン、アンゴラでは戦争によって、そしてフィリピンでは2006年の台風に伴う水害によってそれらの国の種子バンクが壊滅した。

 スバールバルの保管室は、約4500万の種子標本を保管することができるが、これは世界中の種子バンクから送られてくる予定数の約2倍に当たる。

 スバールバルは凍りつくように寒いところだ。また、地下120メートルにある保管室は、巨大な温度調節機によって摂氏マイナス18度以下で冷凍されている。専門家の多くがこの温度でなら約1000年間は種子の保存が可能と言う。世界的な温暖化という最悪のシナリオや温度調節機の故障が起きたとしても、外気から遮断されたこの保管室は約200年間冷凍状態に保たれる。
「このように遠く離れた場所でこそ、こうした長期的なプロジェクトに必要な安定性が得られるのです」
とスバールバルの保管室を運営する「世界作物多様性トラスト ( the Global Crop Diversity Trust )」 のトップであるカリー・フォウラー氏は言う。

 ノルウェー政府が設立したこの種子保管室は、銀行の金庫のように運営される。この種子バンクはノルウェー政府の所有だが、種子を預ける国は必要に応じて無料で保管庫を使用できる。

スイスの種子

 スイスはスバールバルの種子バンクプロジェクトにずっと注目してきたが、今後1万近くの作物の種子サンプルを送る計画だ。それらの種子は主に小麦、スペルト小麦、大麦、ライ麦、トウモロコシなどの穀物の種子で、ヴォー州の街、ニヨン ( Nyon ) の近くのシャンジャン ( Changins ) にあるアグロスコープ連邦農業研究所 ( ACW )内の種子銀行から送られる。

 ACWの種子バンクのトップであるゲールト・クレイェール氏は、スバールバルの種子保管室は、世界中のすべての予備の種子を1つの遺伝子バンクに集める方法として、コスト面で最も有効な「唯一の解決法」と言う。
「世界のすべての種子バンクがどこかに安全な保管庫を持たねばなりません。われわれはニヨンに非常に良い施設を持っていますが、火事や洪水などが起きたら、保存してあるものを失うリスクは常にあるのです」
とクレイェール氏は言う。

 究極の目的は、種子の保存によって遺伝子の継承を確保することだ。それによって、もしシャンジャンの種子バンクで問題が起きたとしても、スイスはスバールバルに貯蔵してある種子のサンプルから遺伝子のストックを回復できる。
「遺伝子資源は世界の、特に発展途上国の食糧確保と供給の柱です。種子の安全な保存を確保できる場所が本当に必要なのです」
とスイス連邦開発協力局 ( DEZA/DDC ) の天然資源・環境部のカタリナ・イェニー氏は付け加えた。

swissinfo、サイモン・ブラッドレー 笠原浩美 ( かさはら ひろみ ) 訳

スイスで栽培されたさまざまな植物の種子は、ヴォー州の街、ニヨン ( Nyon ) の近くのシャンジャン ( Changins ) にあるアグロスコープ連邦農業研究所 ( ACW ) 内の種子銀行に保存されている。

1900年から保存されているそれらの種子コレクションは、約1万種のさまざまな穀物、果実、野菜の種子から成り、プライベート・コレクションによって補足されている。
それらの種子コレクションの目的は、農家が顧みない地元の品種の保存と、必要時のための予備種子の備蓄の2点。
種子の保存可能期間は個々の特性によるが、小麦は約50年、インゲン豆、エンドウ豆、大豆は約15年と異なる。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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