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ブログ「もっと知りたい!スイス生活」 「開放感と、人生に対する肯定感を音に乗せて」 - ヴィオラ組曲「スイス」

欧米を中心に活躍する現代音楽作曲家、浅野浩司さんがスイスを題材にして作曲したヴィオラ組曲が、佐々木真史さんと栗原正和さんの演奏でレコーディングされ8月に発売された。三都市の印象を表現したこの組曲を、私はいち早く耳にする事になり、こうしてご紹介する事になった。

ヴィオラ組曲「スイス」

ヴィオラ組曲「スイス」

(写真提供:浅野浩司)

 高校時代、私は都立高校で合唱部に所属していた。同じクラブで二年先輩だった栗原正和さん他のサイトへは、後にピアニストになり、一学年下の佐々木真史さんはヴィオリストになった。私の通っていたのは音楽の専門的な教育はしていないごく普通の高校だったから、二人のクラッシック演奏家となった方々とそれぞれ面識があったという事自体滅多にない偶然だったと思う。

 その栗原さんから、佐々木さんと一緒に「スイス」という題名のヴィオラ組曲を録音する事になったという報せを受け取った。私がスイス在住だという事を知っていて教えてくださったのだ。

浅野浩司(作曲)

( © Kimmo Kauko )

 作曲した浅野浩司さん他のサイトへは、欧米を中心に活躍している現代音楽作家で、楽器やスタイルにとらわれない自由な作風が好評を博している。 2001年と2004年にスイスでツアーライブを行った時の印象を元に、「1.ジュネーブ(Geneva)」「2.ローザンヌ(Lausanne)」「3.ベルン(Bern)」と名付けた3曲からなるヴィオラ組曲「スイス」(Viola Suites "Switzerland")を作曲した。

 形式にとらわれず印象を自由に表現するコンテンポラリーの作風と、ヴィオラ、ピアノというクラッシック音楽で使われる楽器のコンビネーションは、まさに私の感じているあるがままのスイスの印象と重なる。

 15世紀に建てられた家に今でも普通に住んでいるのが珍しくない村の生活でも、機能的な現代のインフラが完璧に整っているのが普通のスイス。昔から変わらない風景の中に、とても前衛的な建築や彫刻を作ってしまう大胆さもある。今では、その共存こそがスイスの特徴だと思うのだが、暮らしはじめた当初はとても驚いたものだ。

 カテゴリーに縛られない音づかいでありながら、どこか懐かしく心地いい響きのこの組曲は、そんな私のスイスの印象にぴったりだと感じた。

大噴水ジェッドーはジュネーブの象徴的存在

大噴水ジェッドーはジュネーブの象徴的存在

(swissinfo.ch)

 一曲目の「ジュネーブ」からは、都会を感じる。歴史ある古いものと機能的な新しいものが同居する世界であると同時に、活発で忙しく人びとが行き来する国際都市ジュネーブ他のサイトへ(Genève)は、世界でも有数の富豪たちの住む優雅な地域と、暗い裏道や多少荒んだ綺麗ごとだけではない地域の両方を内包するのが都会だ。

レマン湖沿いに最高級ホテルの立ち並ぶジュネーブ

レマン湖沿いに最高級ホテルの立ち並ぶジュネーブ

(swissinfo.ch)

佐々木真史(ヴィオラ)

(写真提供:佐々木真史)

 ヴィオラとピアノが掛け合う一曲目「ジュネーブ」は、三曲の中で一番長い。「レマン湖のほとりのカフェで、コーヒーとよく冷えたスパークリング・ウオーターを交互に飲みながら、青空に放たれるジェッドー(大噴水)の大量の水を眺めていると、なんとも言えない開放感と、なんというか、人生に対する肯定感にあふれました」浅野さんは、このジュネーブの印象を曲にしようと思ったときに、ヴィオリストの佐々木さんを思い浮かべたという。

 「深みから淀みなく沸き上がり、空中に分解した粒子が思い思いに多方向に広がっていき、それらのうちのいくつかはきれいな虹を作ったり、いくつかは風に乗せられて空高くとんでいってしまったり、あるものは水中にもどりまた循環していく、そんなイメージが佐々木さんのヴィオラと重なり、この曲が生まれました」浅野さんはそう語る。

 鐘が鳴るように静かに始まる二曲目の「ローザンヌ」も、この町に抱く私の印象とぴったり合った。

 やはりレマン湖に面したローザンヌ他のサイトへ(Lausanne)は、同じフランス語圏の都会ながら、ジュネーブに比べると落ち着いた町だと私は感じている。坂道の多い旧市街は中世の面影を残していて、かつても現在も学問の町であり、連邦裁判所が置かれスイス司法の都でもあることから、知的で落ち着いているというイメージがある。

栗原正和(ピアノ)

(写真提供:栗原正和)

 曲からは、すぐ近くのレマン湖に面した葡萄畑で作られた香り豊かなワインを楽しむ人びとの姿も目に浮かんできた。レマン湖に反射する陽光の穏やかな煌めきを眺めつつ、なんという事もないおしゃべりをゆったりと楽しむ人びとの姿は、かつてこの地を訪れた私に強い印象を残した。

 浅野さんは、「栗原氏のピアノを聴いていた時、バランスのとれた世界平和を願う演奏がこの曲にぴったりで、スイスにいるかのような感覚になり、このヴィオラ組曲『スイス』にはこの人しかいない、と感じました」と、この曲を録音するにあたって、佐々木さんから紹介された栗原さんにピアノ演奏を依頼する事になったきっかけについて語ってくれた。

 「バランスの取れた中立性」は、歴史的にも、現実でもスイスを表現する言葉だと思う。

 三曲目の「ベルン」には、その緑豊かで、少しユーモラスで、小さくきちんとまとまったベルン(Bern)他のサイトへの町の感じがよく表れている。この曲は、組曲の中で一番短い。簡潔でそして聴き終わった時に余韻が残る。

 ベルンは、スイス連邦の首都。湾曲するアーレ川に囲まれた土地に12世紀に建設された旧市街は、ユネスコの世界文化遺産に登録されているとても美しい街だ。

アーレ川沿いの美しい街ベルンはユネスコ世界遺産

アーレ川沿いの美しい街ベルンはユネスコ世界遺産

(swissinfo.ch)

 大都会であるジュネーブと比較すると小さくて落ち着いているイメージがある。公園や庭園が多く、自然を身近に感じられる都会でもある。かつて丘の上にあるバラ公園から旧市街を見た時、同じ色の屋根瓦で統一された美しい光景に「この中世のような街が現代国家の首都でもあるんだ」と感慨を持ったが、そこがとてもスイス的だと思うようになった。摩天楼ではなく、中世のアーケードを持つ街に、近代的都市の機能がコンパクトに収まっている。

ベルン旧市街、13世紀に建てられた城門にある天文時計。動く仕掛け時計は必見

(swissinfo.ch)

 三曲を通して、陽光の煌めきと、風を感じる。たぶんこれは、私が普段スイスでよく感じている事だからだ。どんな都会にでも溢れる緑と、湖水や川の流れの水の煌めきが、この国の爽やかな印象を強くしているように思う。

 浅野さんは、二人の演奏家についてこう語る。「おふたりの解釈によるこのアルバムの演奏は、お互いのやりとりが目に見えてわかり、自由さと、清々しさ、そして間合いを聴いていると人生に対するとてつもない肯定感があり、曲を通して彼らなりのストーリーが語られていると思います。作曲した本人としては、曲はあくまで土台というか建材のようなものであり、それらをどう組み立ててどんな建物を作り上げるかは演奏者の自由で、今回お二人が作り上げた建造物はいろんな角度から楽しめるものだと私は感じています」

 浅野さんの言葉は、二人の演奏家に対する深い信頼の表れであろう。ある時その場に居て感じたスイスという国の印象を、作曲という形で世界に発信する。それを二人の演奏家が受け取り、明るい光の煌めきと、作曲家がここで感じた開放感と人生に対する強い肯定の想いを表現して聴くものの耳に届けてくる。

 深みから天上まで自由に飛び回る、佐々木さんの軽快ながらもしっかりとしたヴィオラの音、そして、クリアーでありつつとてもロマンティックな音で答える栗原さんのピアノが、とても自然にスイスに対する私の印象と一つになる。これがスイスではなく、3人の日本人によって日本で作り出された事を忘れてしまうくらいに。

 ヴィオラ組曲「スイス」は、AppleのiTunesストアなどを通して配信販売されている。この曲がスイスを愛する世界の多くの方の耳に届く事を願って止まない。

ソリーヴァ江口葵

ヴィオラ組曲「スイス」の配信先はこちら他のサイトへ


浅野浩司(作曲)

1993 年ロンドン、1994-1998年東京、1999年-2004年バルセロナを拠点に、20ヵ国以上で電子音楽のライブ活動を行う一方、ヨーロッパのオーケストラやアンサンブルからの委嘱など現代作曲家としての作品提供も多い。音楽カテゴリーの枠など感じさせない多作ぶりは「世界で最も想像力豊かな作曲家のひとり」 (All Music Guide,アメリカ)と評されている。

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栗原正和(ピアノ)

東京都世田谷区出身。玉川大学工学部電子工学科卒業。ピアノを雁部一浩氏に師事。第2回日本クラシック音楽コンクール特別賞及び安藤賞受賞。世界の名器による音の響宴(名古屋/ザ・コンサートホール)に全国オーディションにより選出され出演。第3回 P.I.A.Japanピアノコンクール広岡淑生賞受賞。バロックから現代作品まで幅広いレパートリーを持ち、ソロ活動の他、声楽の伴奏や室内楽においてもその才能を高く評価され、著名演奏家の信頼も厚い。また、唯一の自主企画である「ティータイム・コンサート」では、演奏曲目の解説など、わかりやすく軽妙なトークも人気を博し、多くのファンを獲得している。エンジニア→調律師→ピアニストという特異なキャリアから、レクチャーコンサートや講演なども多く、それぞれ好評を得ている。

佐々木真史(ヴィオラ)

1993年、東京芸術大学卒業。1999年まで東京芸術大学管弦楽研究部講師を務める。その間、各地のオーケストラで客演首席奏者を務める。1998年、彦根市文化プラザの主催によりソロリサイタルを行う。1999年、ハンブルクにて研修し深井硯章氏に師事。帰国後仙台フィルハーモニー管弦楽団首席奏者に就任する。2002年仙台と東京においてピアノの國谷尊之氏とデュオリサイタルを開催する。2003、2004年、セレーノ弦楽四重奏団のメンバーとして、松尾財団音楽助成を受ける。2003年、原村音楽セミナーにて緑の風音楽賞を受章。またソリストとして仙台フィルの定期演奏会等に出演している。これまでにヴァイオリンを鈴木嵯峨子氏。ヴィオラを小国英樹、浅妻文樹、川崎和憲の各氏に師事。室内楽を岡山潔氏に師事。綵弦楽四重奏団メンバー、バッハ協会管弦楽団首席奏者。2011年3月、仙台フィルハーモニー管弦楽団を退団し、東京を拠点にフリーのヴィオラ奏者として、全国各地のオーケストラの客演首席奏者や、室内楽奏者として活動している。

プロフィール:ソリーヴァ江口葵

東京都出身。2001年よりグラウビュンデン州ドムレシュク谷のシルス村に在住。夫と二人暮らしで、職業はプログラマー。趣味は旅行と音楽鑑賞。自然が好きで、静かな田舎の村暮らしを楽しんでいます。

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