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風光明媚なスイスで「信仰の旅」

シュヴィーツ州のアインジーデルン(Einsiedeln)修道院の絵を大きなキャンバスに描く男性 Keystone

山、湖、大聖堂。定番の観光名所に加えて、スピリチュアルな名所にも観光客を呼び寄せようとスイスの聖職者が奮闘している。

スイス各地の教会代表者が政府観光局と共同で、ウェブサイト「スイスの宗教的風景(Switzerland’s Religious Landscape)」を立ち上げた。狙いは、スイスにある宗教的遺産を国内外の観光客に紹介することだ。

 このウェブサイトがスタートしたのは2011年暮れ。今のところ英語とドイツ語の二つの言語でスイスの宗教事情を紹介している。スイスにどんな宗教があるのかはもちろんのこと、宗教の歴史や神聖な建物、巡礼地などに関する情報も載せている。

 ウェブサイトを立ち上げた「巡礼者のための観光・レジャー・パストラルケア委員会(Commission on Tourism, Leisure and Pastoral Care for Pilgrims)」の神父ロレンツ・モーザー氏によれば、このサイトは国内外を問わず、すべての観光客を対象にしたものだ。「観光客が宗教関係の情報を得られることは大事だ。もちろん、これは我々聖職者の活動の一部でもある」

 「信仰の旅はスイスの隙間市場として面白い」。そう話すのはスイス政府観光局北アメリカ部長のアレックス・ヘルマン氏だ。例えば宗教的建造物ではアインジーデルン(Einsiedeln)の修道院やザンクト・ガレンの大聖堂、巡礼地ではフリュエリ・ランフト(Flüeli-Ranft)やスイスを北東から西へと横断するサンティアゴ・デ・コンポステラ巡礼路の一部など、スイスには宗教的名所が多いという。

 ただ、こうした宗教関連の旅行が市場としてどれくらいの規模となるのかを把握するのは難しいと付け加える。

都市観光

 ヘルマン氏はさらに、「例えば、ヨーロッパの宗教革命で重要な役割を果たしたカルヴァンはジュネーブ、ツヴィングリはチューリヒというように、スイスには特定の聖人と深い結びつきのある街もいくつかある」と話す。

 また、ヨーロッパを巡る信仰の旅に参加し、途中で立ち寄ったスイスでスピリチュアルな名所と通常の観光地を組み合わせたいと思う旅行者も多い。「観光客が見たいのは宗教関連の名所だけに限らない。そうした場所に加えて、人気のある観光地に行ったり、ハイキングなどのアクティビティをする人は多い」

 アメリカの旅行会社「リフォーメーション・ツアーズ(Reformation Tours)」はスイス・ツアーを年に5回から10回企画、販売している。副社長のロウェナ・ドリンクハウス氏はスイスの魅力を次のように語る。

 「ツアーでは主にジュネーブとチューリヒを観光する。ベルナーオーバーラント(Berner Oberland)地方のグリンデルヴァルト(Grindelwald)に行くこともある。今後、スイスへの団体旅行を増やす予定だ。スイスは本当に美しく、キリスト教の遺産が数多く残っている。車でも電車でも旅行するにはうってつけの国だ」

キリスト教がメインの理由

 「スイスの宗教的風景」のサイトは、ローマ・カトリック教会、スイス・プロテスタント教会連盟、スイス政府観光局が協力して立ち上げた。だが、今のところキリスト教がメインとなっており、サイトの内容が若干偏っている感がある。

 神父のモーザー氏は「このサイトのコンセプトは、スイスにあるさまざまな宗教を、できるだけ中立的な立場で概観することだ」と話し、キリスト教以外の教会や宗教団体からも情報提供を呼びかけている。「これを機に、さまざまな宗教団体が自分たちの情報を世間に伝えることができる。しかしプロテスタント教会を除けば、興味を示している宗教団体はまだ一つもない」

 それに対し、スイス・ユダヤ教連盟は「このサイトを知らなかった」と冷めた反応を見せる。ユダヤ教の信者数はスイスで5番目と、数ではさほど多くはない。最多はキリスト教で、次にイスラム教、ヒンドゥー教、仏教が続く。だがユダヤ教はスイスで長い歴史を持っている。

スイスのユダヤ教

 スイス・ユダヤ教連盟のヨナサン・クロイトナー氏は次のように語る。「観光情報を提供するつもりはない。だが、スイスのユダヤ教に関する情報は我々のウェブサイトに載せている。当連盟はスイスのユダヤ教コミュニティをまとめる団体で、問い合わせがあれば該当するコミュニティを紹介している」

 クロイトナー氏によれば、スイスにはユダヤ教にまつわる歴史的な名所が数多く存在するという。北スイスのアールガウ州エンディンゲン(Endingen)にあるユダヤ教会堂がその例の一つだ。「ユダヤ教徒が住むのを許された場所は、19世紀末までエンディンゲンとレングナウ(Lengnau)だけだった」。そのため、エンディンゲン-レングナウ間にはユダヤ教文化街道(Jüdischer Kulturweg)がある。

 また、チューリヒやジュネーブにはユダヤ教コミュニティが多く、歴史的建造物も数多い。さらに、教育関連団体が提供するチューリヒ観光ツアーには「ユダヤ教とチューリヒ(Jewish Zurich)」というユダヤ教をテーマにしたツアーもある。

見えない反響

 「スイスの宗教的風景」は開設から数カ月しかたっていない。そのため、観光客の間でどれほど反響があるのかはまだ不明だ。

 サイトの訪問者数はまだはっきり分かってはいないが、神父のモーザー氏はやや悲観的だ。「このサイトはスイス政府観光局サイト内に埋もれているため、なかなか人目につかない」

 このような不満に対し、スイス政府観光局のヴェロニク・カネル氏はこう答える。「巡礼者のための観光・レジャー・パストラルケア委員会と話し合った結果、サイトはスイス政府観光局ホームページ内に置くこととなった。サイトへのリンクは文化関連の記事の外部関連リンクに載せてある。また、プレス・リリースを出して、サイトがメディアに注目されるよう努めた」

 そうしたなか、前出の北アメリカ局長ヘルマン氏は、宗教ツーリズムは成長の可能性が大きいとみている。「宗教がテーマの旅行では、特にアメリカの中西部などこれまでターゲットにしてこなかった客層を取り込むことができるだろう」

キリスト教:79.27%

イスラム教:4.26%

ヒンドゥー教:0.38%

仏教:0.29%

ユダヤ教:0.25%

その他の宗教:0.11%

無宗教:11.11%

不明:4.33%

(英語からの翻訳・編集、鹿島田芙美)

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