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ローザンヌ連邦裁判所でモサド機関員の裁判始まる

イスラエル情報機関員の裁判が、3日ローザンヌの連邦裁判所で始まる。(写真:モサド要員が侵入を謀ったベルン郊外の集合住宅)

イスラエル情報機関員の裁判が、3日ローザンヌの連邦裁判所で始まる。(写真:モサド要員が侵入を謀ったベルン郊外の集合住宅)

モサド機関員逮捕の一件は、スイス、イスラエル両国にとって、大変微妙な問題だ。1998年2月の深夜、5人のイスラエル国民(男性3人、女性2人)が、ベルン郊外の集合住宅で逮捕された。5人は当初、住居不法侵入および強盗の容疑をかけられた。5人はベルン州警察の容疑をそらすため、懸命の大芝居をうった。男性1人は心臓発作の振りをし、残る4人の男女は「情熱的な一夜の最中に中断を余儀無くされた」振りをした。芝居は最初うまくいき、警察は4人を釈放した。

が、すぐに、イスラエル人たちがベルンで特殊任務についていた事が判明した。留置所に1人残った心臓発作の男性が、盗聴器、数個の偽造パスポートの入ったブリーフケースを持っていたのだ。スイス連邦警察も、州警察に、5人が逮捕された集合住宅には、ヒズボラと関わりがあると見られるレバノン系スイス人の男性が住んでいるという情報を伝えた。モサドのメンバーと見られるイスラエル人たちは、この男性の家に侵入し盗聴器を仕掛けようとしていた。

スイス当局はイスラエル政府に対し公式謝罪を要求し、イスラエル政府は不承不承にも謝罪した。が、スイスは怒りを露にしすぎないように心掛けていた。この時期、ホロコースト犠牲者の保有するスイス銀行の睡眠口座問題で、スイスは世界的な批判に直面していたのだ。スイス政府とスイス銀行は、世界ユダヤ人委員会と金銭的な和解交渉をしており、連邦政府はイスラエル政府と事を荒立てたくなかった。

警察はモサドの男性機関員を65日間拘留し、釈放した。イスラエルは300万スイスフランの保釈金を支払い、男性をスイスの裁判には必ず出頭させると確約した。

裁判開始にあたっても、多くの事が謎のままだ。この男性の本名が、まだ明かされていない。司法当局すら、本名を知らされておらず、イサーク・ベントルという偽名のまま裁判が行われる。また、イスラエルは「ベントル」を裁判のためにスイスに送り返すと確約したが、スイス国境警備隊は、偽名の身分証明書を持つ人物を入国させてもよいものかという、問題を抱えるはめになった。また、もしモサド要員の男性がスイスで外交官の免除特権を主張したら、裁判は不可能になる。

一方、この件は、スイスの多様な警察が有効に協同するにはどうすればいいかという問題も引き起こした。他の4人のモサド要員を早く釈放しすぎた責任は誰にあるのかは、いまだに明らかになっていない。連邦警察の高官が、イスラエルとの対決をさけるため、ベルン州警察に釈放するよう命じたという噂がある。が、連邦警察が4人の本当の身元など正確な情報を州警察に渡すのが遅かったため、州警察は4人の釈放を余儀無くされたという訴えもある。

もし、裁判が順調に進めば、これらの疑問のいくつかは、答えが出されるだろう。が、本名と事件の背景は、明かされそうにない。スパイ行為の標的となっていたレバノン系スイス人の男性が告訴を取り下げたため、イサーク・ベントルは外国での違法行為と偽造身分証明書保持の罪だけを問われることになる。

ベントルがベルン郊外の集合住宅で何をしていたのか、なぜしていたのかは、明かされそうになく、イスラエル秘密情報機関内部に関して知りたいオブザーバーにとっては、失望する結果となりそうだ。



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