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外国人受刑者の本国送還をようやく開始

Keystone

スイスで欧州会議の政策がようやく施行された。今後これによって、スイス国内の刑務所に収容されている外国人受刑者が減少することになる。

スイスは2004年に受刑者の移送に関する欧州会議の議定書を採択した。このほど、この議定書に従い、有罪判決を受けた3人の外国人犯罪者が本国で刑期を務めるために送還された。

 欧州会議 ( The Council of Europe ) の議定書は、1983年に締結された「受刑者移送に関する欧州会議協定 ( The Council of Europe Convention on the Transfer of Sentenced Persons) 」を補足するものだ。この議定書を批准した国は、受刑者の刑期が6カ月以上の場合、本人の同意が無くとも受刑者を本国へ強制送還することができるが、議定書の目的は、受刑者を帰国させることによって、自国で出所した後の社会復帰を促進することだ。これは、外国で罪を犯し、強制退去命令を受けた人々を新たな対象としている。

「過密状態の緩和」

 連邦司法警察省 ( EJPD/DFJP ) によると、2004年の議定書は、批准後すぐにスイスの法律として成立したものの、実際に施行することは困難だった。司法警察省のフォルコ・ガリィ氏は、同省内の移民局と連邦検察との間の連携が欠如していると批判し、人権問題のある国に必ずしも受刑者を送り返せるわけではないと語った。

 また、受刑者の強制送還には受け入れ国の同意が必要だが、欧州会議協定を批准していない国が多いこともあり、強制送還には限界がある。
「これらの理由で、議定書が批准された当初の非常に楽観的な予測の通りにはならず、むしろ乏しい結果となっています」
 とガリィ氏は語った。

 司法警察省は、議定書の施行に際し、明確に特定の目標を立てているわけではないが、長期的には刑務所内の外国人受刑者が減り、「過密状態の緩和」に役立つことを期待している。

 1990年代初め以来、スイス国内の刑務所の被収容者数の約70%が外国人で占められている。近隣諸国における最近の数字は、ドイツで28%、フランスで22%となっている。2006年のヨーロッパの統計では、スイスの刑務所には5888人が収容されており、そのうち4062人は外国人だった。

受刑者の利益

議定書の効果的な適用について研究するための特別調査委員会がスイス政府内に設立された。この特別調査委員会は、移民局と連邦検察との間の連携の向上を主要提案とする推奨案を両組織に提出した。

一方、政府が1月に採択した法律によって、受刑者のスイスにおける在留資格というグレー・ゾーンが明確になったとガリィ氏は述べる。これは長らく移民局にとっての重要問題だったが、外国人が法律を犯した場合、在留資格が再審査されることを決定した。

 欧州会議の議定書は、受刑者を本国へ移送し、そこで刑期を終わらせることが受刑者の更生に役立つと提唱する。アムネスティ・インターナショナルのスイス支部のアラン・ボヴァール氏も、議定書によってメリットを得る受刑者もいると述べる。
「この解決法は、当事者の帰国の可能性を増やすだけでなく、帰国させることによって、家族との面会を増やし、母国語を話す人々との定期的なコンタクトを可能になるので、コミュニケーションを増やすことができます」
とボヴァール氏は語った。

「いずれにせよ、スイスから出国しなければならない人々をスイスの刑務所内に置いておくことは理にかないません。議定書は、受刑者の社会復帰を促進するという目標を達成するために作られました。外国の刑務所を出てから帰国するという状況では、服役中に本国での社会復帰の準備をすることが難しくなります」
 とガリィ氏は説明した。

swissinfo、ジェシカ・ダセ 笠原浩美 ( かさはら ひろみ ) 訳

欧州会議によると、2006年には5888人がスイスの刑務所に収容されていた。そのうち69%は、居住者、旅行者、亡命者、短期滞在者などの外国人。

外国人による犯罪への取り組みは、連邦司法警察省 ( EJPD/DFJP ) の2008年から2011年の目標の1つだ。

エヴェリン・ヴィトマー・シュルンプフ法相は、この問題のために新しい法律を作成する必要はなく、既存の法律を厳格に施行するべきだと発言した。ヴィトマー・シュルンプフ法相は、政府は「外国人の法律違反は、本人の在留資格に大きな影響を与える」というメッセージを伝えようとしていると述べた。

1983年3月21日に、欧州会議の全加盟国が「受刑者移送についての協定 ( the Council of Europe Convention on the Transfer of Sentenced Person ) 」を批准した。

この協定では、受刑者は刑期の残りを務めるために、本人と当事国の同意がある場合のみにおいて、本国のみに移送される可能性がある。

1997年に追加された議定書では、本人の同意が無くとも、特定の状況の下で受刑者を本国へ移送することを認めているが、この議定書を採択していない加盟国もある。

この議定書では、受刑者は裁判の前に、聴聞会の機会を与えられなければならず、移送について異議を唱えることができる。そしてまた、本国への引渡しについて異議を申し立て、スイス連邦最高裁へ訴えることができる。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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