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天高く「鹿」肥ゆる秋

10月に入るや、肉屋さんのショーウインドーも狩の飾りつけ一色になる。この店では10月、11月の2カ月間がジビエを扱う時期 swissinfo.ch

ぶどうが熟し、森にきのこが顔を出す頃、「さて、鹿もそろそろ食べ頃か」と鉄砲を磨き始める人たちが、ヨーロッパにはかなりいる。

一方、「あの柔らかい鹿肉、いつ肉屋の店頭に出てくるかしら」と心待ちにする奥様方もかなりいて、特にスイスには多いという。

狩猟による鳥獣肉をフランス語でジビエ ( gibier ) 、ドイツ語でヴィルト ( Wild ) と呼ぶ。古来より狩猟民族であったヨーロッパ人にとって、秋はこのジビエが食べられる待ちに待った季節。「スイス人は本当にジビエが好きです。フランス人よりもっと好きなようです。特にジュネーブっ子は、秋に少なくとも1~2回は家庭で、1回はレストランで、ジビエを楽しみます」とモラール広場の肉屋の店長、フランク・ロレさん。

 ジビエには鳥類と獣類がある。鳥類は山シギ, きじ、真鴨など、獣類は、野うさぎ、鹿、イノシシなどが代表的。「各々、特産地があって、きじ、真鴨、野うさぎは、フランスのもの。鹿はなんといってもオースリアのもの。そして山シギはスコットランドのものが一番です」とロレさん。輸入してでも、季節の最高のものをスイス人は食べるのだ。

 狩猟には、解禁時期があって、ヨーロッパ全体では、9月中旬から2月末の間。国や、狩猟するものの種類によって、時期が少しずつ、ずれる。「雪が降った日は、動物の足跡が残り、捕まえるのがあまりにも簡単なので、狩は禁止です。捕りすぎてもいけないのです」とロレさんは狩にも詳しい。

 この肉屋では、鳥類の山シギ、真鴨は野生。きじだけが、半分飼育されたもの。また、獣類の野うさぎ、イノシシ、そして鹿はすべて野生。こうしてみると、飼育もあると聞くが、かなりの鳥獣類が本当に狩で捕まえられているのだ。でも、どうやってこんなに大量の肉を狩猟でまかなうのだろう。
 
 「オーストリアでは、狩の日を決めると、趣味のハンターたちが、20~30人集まって、一度に鹿を50頭位捕まえるのです。うちのお客にも、オーストリアまで鹿狩りに行く人が何人かいますよ」とフランクさんの説明。こうして手にした鹿肉を、ハンターたちは、家族や友人に一部もって帰り、残りが肉屋に流れる仕組み。

鹿肉のレシピ2種

 「先週は、鹿肉をステーキ風に焼いて、焼き汁をワインと、すのきの実 ( 狩の肉料理には欠かせない、木の実 ) のジャムで溶いてソースにしたの。柔らかくておいしさのあまり、舌がとろけそうだったわ」と、今日は鹿肉のテリーヌを買いに来た中年の女性。春はアスパラガス、秋は鹿肉が出回るのを楽しみにしているという。

 この女性のレシピは、近くのレストラン「ル・シャ・ボテ」の自慢のメニューに似ている。「鹿肉は、出始めは、柔らかくさっぱりしているので、オーブンやフライパンで好みの焼き方をして食べるのが一番です。ソースは、焼き汁に、まずコニャックを入れ、少々の水で、すのきの実のジャムを溶かして加え、バター少々と、つや出しにココアの粉を少量加えます」と、シェフ。

 口に入れると驚くほど柔らかく、かすかに野生の香りのする肉に、甘いすのきの実とコニャックのトロッとしたソースが調和し、なんともいえないハーモニーをかもし出す。ジビエには、こうした木の実や、季節の果物の甘酸っぱい味がとてもよく合う。

 でも鹿肉には、なんといっても、「シベェ」という煮込み料理が定番。狩の料理といえば、皆まずこれを思い浮かべる。赤ワインの中に、人参、玉ねぎ、リンゴを切って入れ、タイム、月桂樹の葉、ローズマリーの葉、丁子 ( ちょうじ ) 、塩、胡椒を加える。この中に最低1晩、鹿肉を漬け込む ( 硬い肉は、3日漬け込む )。料理前に肉を取り出し、汁気を切って、小麦粉をまぶし、油で炒め、横に置いておく。玉ねぎのみじん切りとベーコンを同じ鍋で炒め、そこへ漬け汁を加え、炒めた肉を加え、2時間近く煮込む。最後にクリームや場合によっては、豚の血を少々たらすという。

 これに、赤キャベツをリンゴで煮込んだものとシュペッツリー ( クレープの硬めの生地をお湯にポトポト落として茹でたパスタのようなもので、もともとドイツ、アルザス地方の料理 ) を添えて食べる。同じお皿に、洋ナシや、リンゴのシロップ煮と、すのきの実のジャムが載る。

 デザートは、やはりこの季節のいちじくや、栗のいろいろなお菓子がうれしい。

swissinfo、 里信邦子 ( さとのぶ くにこ )

すのきの実とねずの実すのきの実 ( フランス語でairelle ) は、小さな赤い実。狩の肉料理には欠かせない。ジャムにして、そのまま肉にあわせて食べたり、ジャムを溶かしてソースに使う。ねずの実 ( フランス語でgenievre ) は、暗紫色の小さな実。高い山にはえるひのき科の植物。これも、狩の料理には欠かせない。シベェに入れることもある。ジンの香り付けに使われ、狩の鳥は焼いて、ジンをかけるのが合うは、このねずの実が臭いを消すからという。胃腸にもいいといわれる。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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