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常に存在する極右翼

スイスではかなり有名なバーゼル大学の教育学者、カシス氏は40人の極右翼の青年たちを3年間に渡って調査してきた. Universität Basel

「底の厚いブーツとジャンパーをたんすに隠しても、極右翼の考えを変えることは非常に難しい」という結論をスイスのバーゼル大学の研究者、ヴァシリス・カシス氏が出した。

カシス氏と同僚の研究者の3人で行われたこの調査で、様々な「顔」の極右翼の存在も明らかになった。

 服装を変えても根本的な極右翼としての思想を変えることは難しい。また変えなくても学校、会社などでなんの支障もないという驚くべき結論がこの程まとめられた。それは、極右翼を取り巻く我々の責任であり、我々の中の隠れた「極右翼性」のせいなのだという。バーゼル大学のこの分野でのエキスパート、カシス氏に話を聞いた。

swissinfo : 青年たちが極右翼のグループから離れる要因は何ですか?  

カシス : 同じ研究をしている同僚と出した結論では、彼らがグループと距離を取るには、6つ要因があると思います。1つは、明らかに社会に対する自分の立場を変えた場合です。

他の5つは、同じことの繰り返し、それほど有効な活動をしない、厳し過ぎるといった極右翼グループの特徴のせいで、本人がいらついたり、嫌気が差したり、時には神経衰弱に陥ったりするといった要因があるかと思います。

swissinfo : ということは、極右翼の青年たちは、考え方を根本的に変えることなくグループから離れるということですか?

カシス : ほとんどの場合そうです。考えを変えるような圧力、圧迫を全然感じないというのを聞くと、驚くし、また恐ろしくもなります。つまり、暴力に訴えたり、これみよがしの服を身につけることを我々の社会が容認しているのです。

極右翼的考え方をすることを恥じるどころか、かえって「誇り」に思っています。それは学校でも、隣人、友人の間でも、何の障害にもならない。誰も迷惑に感じてないということです。

swissinfo : 彼らはどのように自分たちの考えを表現しますか? 

カシス : 差別的、民族主義的表現をよく使います。またスイスの優越性を楯に取って、移民に対しての暴力を正当化します。極端な男女差別もやります。

swissinfo : そういう人はかなりいますね。ということは、極右翼は様々な顔をしているということですか? 

カシス : その通りです。今回の研究で分かったことの1つがそれです。底の厚いブーツを履いて、頭を剃り、ジャンパーを着ている者だけが、極右翼ではないのです。

極右翼は若返っただけでなく、様々な顔、服装、在り方をしているということが分かりました。

swissinfo : 今回、14歳から34歳を対象に研究されていますが、歳をとった極右翼はいないのですか?

カシス : もちろん歳をとった極右翼もいますが、今回の研究は若者をターゲットにしていますので。しかし、極右翼から離れるか否かは年齢と関係がありません。

グループから離れるには、外部からの助けに支えられたプロセスを踏まなければなりません。1人では不可能です。外部からの圧力、本人の内的意思、そしてこの離脱のプロセスを助ける親しい人の援助が必要なのです。

swissinfo : しかし、その外部の圧力は存在しないのですか? 例えば、仕事場で、人種差別的な言動を取ると、うまくいかないといった圧力があるでしょう? 

カシス : それがむしろ反対で、きちんと仕事をこなしているのですから、そのことにかえって驚かされます。

ジャンパーを着ず頭さえ剃っていなければ、仕事のキャリア、日常生活に何の支障もないのです。

それどころか極右翼の若者は、本当は心の底で思っていても口にする勇気のない人たちの代弁者として、声高らかに語ってあげていると感じています。

swissinfo : ということは、極右翼は社会の構成要素の1つという結論ですか?

カシス :  その通りです。極右翼を問題視することだけで解決しません。我々が「彼らとどう対処しているか」を見る必要があるのです。

swissinfo : 極右翼は新しい現象ですか?

カシス :  1927年以来、極右翼の動きは社会の中にいつもありました。野蛮な言動が今日、新しく生まれたのでも、さらに強化されたのでもないと思います。

しかし、ある種の政治家は、新しく選挙権を得る人たちをこの思想で「うまく釣ろう」としていることは確かです。

聞き手 swissinfo、アリアンヌ・ギニョン・ボーマン 里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 意訳 

連邦政府の国内安全対策の調査によると、スイスには極右翼と見なされる人が、凡およそ1800人いる。

今回のバーゼル大学の研究は、「PNR40+」という国の極右翼に関しての調査である。

3人の研究者が、14歳から34歳の青少年40人 ( 内5人が女性 ) を対象に調査した。3年間に渡って、5回の面接が行われた。

40人の内、25人が極右翼から離脱したと宣言したが、実質的に思想まで変えたのは10人だけだった。

研究者はまた、極右翼の在り方の多様性も挙げている。

12歳以降の青少年は構造が明確でない極右翼に入りやすく、20歳から30歳の青年はエリート的で、秘密結社的なものに入りやすい。

「良い家庭」の子弟は、国粋主義的なものに入りやすい。しかし、彼らは政治的活動をすることがなく、むしろ目立たない。

ある青少年のグループは、家庭の問題、個人の問題などの埋め合わせに極右翼に入ることがあるが、こうした場合は長く続かない。

野心に燃えて入る青少年のグループは、極右翼に入っている期間は長い。またこうしたグループは青少年に限らない。

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