スイスの視点を10言語で

待ち遠しいホームラン第1号

2010年に完成するチューリヒの野球場。周りにはサッカー場がひしめく www.stadt-zuerich.ch

「野球を知っていますか?」。こんな質問をされたら、日本人は「何言ってるの?」と思うかもしれない。しかし、ここスイスでは、こんな質問もおかしくないくらい野球は未知のスポーツなのだ。

サッカー場はスイス中どこへ行っても見かけるが、正式な野球場はまだ1つもない。だが、それも来年まで。2009年には公認野球規則にのっとったスイス初の野球場が完成する。そして翌2010年には、観客席のある大きな野球場がチューリヒに開設される。

サッカー場で野球

 「スイス野球・ソフトボール連盟 ( SBSF ) 」のマルコ・イテン会長 ( 34歳 ) によると、現在スイスにある、多少なりとも野球場らしいグラウンドは10カ所程度だ。内野はあるが外野がなかったり、あっても距離が足りなかったりして、特別なルールを適用しながらプレーしているという。スイスには21の野球クラブと60近い野球チームがある。連盟に加入するにはグラウンドを持つことが条件だが、実際はサッカー場や公園で行われる試合も多いそうだ。

 それでも野球リーグは存在する。Aリーグは8チーム、Bリーグは5チーム。週に1、2回練習をし、公式戦は4月半ばに始まって10月に終わる。プロではないので、試合が行われるのはいつも週末だ。

 スイス野球・ソフトボール連盟が把握するスイスの野球人口はおよそ900人。
「日本やアメリカでは少し走るとすぐに野球場が目につく。うらやましい限りだ」
 と言うイテン氏は、今では現役を退いている。だが、
「スポーツと戦略が組み合わされたゲーム展開が野球の醍醐味 ( だいごみ ) 。ルールが複雑で見ていてつまらないと言う人が多いが、野球は精神面でも体力面でも多くを要求されるスポーツ」
 と話に熱が入る。

スイス初の正式な野球場

 以前、イテン氏がプレーしていたヒューネンベルク ( Hühnenberg ) 村のチーム「ユニコーン ( Unicorn ) 」のホームスタジアムは、現在工事中だ。2009年にスイス初の正式な野球場として再オープンする。昨年、創立20周年を迎えたユニコーンは、監督や役員も含めて総勢約70人。根気よく自治体に働きかけた成果が実り、ようやく正規のホームランが打てるグラウンドが造られることになった。

 スイス野球・ソフトボール連盟は、1981年の創立当初から野球やソフトボールの知名度を高めようとさまざまな努力を続けているが、
「スイスで野球をやっていることは、ほとんど知られていない」
 クラブに加入している人数も少ないため、野球場を作るのはたいへん難しいという。
「人気のサッカーの場合、新しいチームが結成されるとあっという間に100人以上が集まり、自治体もサッカー場の建設にすぐに同意するのだが」
 とイテン氏は残念そうだ。

 しかし、来年開設するヒューネンベルク野球場に続いて、2010年にはチューリヒにももっと大規模な野球場が完成する。この野球場はヘーレンシュルリ ( Heerenschürli ) スポーツ施設の中にあり、ここでは2008年7月から、およそ5000万フラン ( 約50億円 ) をかけて複数あるサッカー場など古い施設の一部リニューアルが始まった。チューリヒには3つの野球クラブがあるため、これを機に、以前から使っていた野球場を400人収容の観客席も備わる国際的なスタンダードに沿う規模に拡大することになった。野球場の改築費は、サッカー選手と共同で使用する更衣室と合わせておよそ400万フラン ( 約4億円 ) だ。

 イテン氏は
「この野球場が完成すれば、チューリヒがスイス野球界の中心になる。また、公認野球規則にのっとった野球場が2つあれば、スイスで欧州選手権を開催することも可能だ。国内でこのような大きな国際試合を開催すれば、もっと多くの人に野球について知ってもらえるようになるだろう」
 と期待する。

swissinfo、小山千早 ( こやま ちはや ) ヒューネンベルク ( ツーク州 ) にて

ヨーロッパでは、野球はあまり盛んではない。

ヨーロッパの中で強いのはオランダ、イタリア、ベルギーなど。スイスは中くらい。

2009年9月には、ドイツ、イタリア、オランダ、ロシア、スウェーデン、スペイン、チェコの共催で世界選手権が開催される。スイス代表は予選を通過できなかった。

スイス野球・ソフトボール連盟は1981年に創立された。

現在の加入クラブ数は21、加入人数はおよそ900人。野球チームはすべてのリーグを合わせて26チーム。そのほかソフトボールが8チーム、青少年チームが16チーム、草野球が7チームある。

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部