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未来の建築 ロボットが建築業界に革命を起こす!?

ロボットが建築したガンテンバイン・ワイナリーのファサード

ロボットが建築したガンテンバイン・ワイナリーのファサード

スイス東部の村フレーシュ近郊に広がるブドウ畑。その真ん中に、遠目にはブドウが詰まった巨大な籠のように見える一風変わった建築物がある。実はこの建物、ワインの貯蔵庫で、れんが造りのファサードはすべてロボットによって建設された。

 これは、2005年に世界初の建築ロボット工学研究所を連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)に設立したファビオ・グラマツィオ教授と、マティアス・コーラー教授の考案によるものだ。

 二人は、この分野の最先端を行く建築家として知られている。最近、著書「ロボティック・タッチ‐いかにロボットが建築を変えていくか」を出版し、その中で建築に関する全く新しい考察と実現化へのアプローチについて紹介している。

 「この本で一番伝えたいのは、ロボットはこれまでの建築という概念を根本的に覆し、建物の建設過程に多大な影響を与えるだろうということだ」とグラマツィオさん。

 

 「我々はロボット自体を製造しているわけではない。人間には不可能な作業を、ロボットが代わって実行するようにプログラミングするのが我々の研究目的だ」。二人の研究室があるETHZのヘンガーベルクキャンパスには、さまざまな建築素材を複雑な模様や形に積み重ねた「壁」の模型が並べられている。その間を歩きながら、グラマツィオさんは説明を続ける。

ワインとハイテク

 2006年に建設されたガンテンバイン・ワイナリーのファサードはその良い例だ。

(© Gramazio & Kohler in cooperation with Bearth & Deplazes Architekten, Chur/Zurich)

 「クライアントがリスクを承知でこの建築に同意してくれたことは、本当にラッキーだった」とグラマツィオさんは当時を振り返るが、ブドウの収穫までのたった5カ月の間に完成させなければならなかったという。

 「建設業界は保守的で複雑だが、時には研究成果をすぐに現場で試せることもある。それは、ロボットによる建設がもはや夢ではなく現実に行われるのを自分の目で確かめることができるようになったからだ」

 二人の研究成果は、例えば2008年のヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展で展示された蛇状の壁や、ニューヨークにある全長22メートルのれんがを使った建造物などにも見ることができる。

飛行ロボット

 中でも、フランスのオルレアンにあるFRACセンターで、飛行ロボットがれんが状の建築素材を次々と正確に積み上げて壁のような建造物を作り上げていく様子は圧巻だ。

 さらに、グラマツィオ&コーラーさんは、シンガポールに設立されたETHZの未来都市研究所において、ロボットによる高層ビルの設計および建設の可能性を探求中だ。

 本拠地スイスでは、ヘンガーベルクキャンパスの研究所で産業用ロボットを使った実験が進められている。そのひとつに、従来のやり方では不可能だとされている入り組んだコンクリートの構造物を、ロボットを使って作るというプロジェクトがある。

 産業用ロボットは1950年代にさまざまな分野に導入され、自動車製造業界はいまや完全にオートメーション化されている。

 しかし、建設業界では、まだロボットの完全導入を躊躇する傾向が見られる。現場の安全性を初めとする問題がいくつも残っているためだ。 

(© Gramazio & Kohler)

技術の相互補完

 また、ロボットの導入により建築家や建設業者が職を失うことになるのではないかと懸念する声も聞かれる。

 しかし、グラマツィオ&コー ラーさんはそうは思わない。ロボットは人に出来ないことを、人はロボットに出来ないことをやる。この技術の相互補完がうまく機能すれば、産業革命で失われてしまった職人の技を再度見直すきっかけにもなる。例えば、人はロボットの作業を単に監視するだけではなく、自らが持つ技術を活かし、ロボットの可能性を 高めるために更なる情報をインプットすることができる。

 そのためにも、建築家はコンピューターに精通する必要がある。グラマツィオ&コーラーさんは、10代でコンピューターのプログラミングに興味を持ち始めたという。

 設計とプログラミングは、対照的な作業であるように思われがちだ。しかし、二人はこの二つには多くの共通点があると確信し、2000年に共同で建築事務所を設立した。

パイオニア

 グラマツィオ&コーラーさんが、建築ロボット工学の分野のパイオニアであることは、二人をよく知る国際的に活躍する建築家たちも認めている。

(© Gramazio & Kohler, ETH Zurich)

 ミュンヘン工科大学のトーマス・ボック教授は「二人のアプローチは興味深く、非常に美しい作品を生みだすことにも成功している」と言い、ハーバード大学デザイン大学院のアントワン・ピコン教授も「(二人は)ロボットを利用した建築の普及に貢献した」と同意する。

 ただ、グラマツィオ&コー ラーさんのロボットは、建設現場用ではないという点で、二人の意見は一致している。ボックさんはこう言う。「自動車の生産に使われている規格化された産業用ロボットは、積載量が小さすぎるだけでなく、ロボット自体が重すぎるうえに、天気や埃にも弱い。したがって、建設現場もロボットにあったように改善されるべきで、今のままではだめだ。(だから、彼らのロボットは現在の現場には向かない)」 

未来

 またピコンさんは、グラマツィオ&コーラーさんの研究によって、設計の段階でこれまでとは全く違うアプローチが可能になり、今後、設計者の発想、そしてそのデザインに大きく影響するだろうと考える。

 グラマツィオ&コーラーさんの次の大きなプロジェクトは、ETHZのヘンガーベルクキャンパスに巨大な木造の屋根を作ることだ。グラマツィオさんによれば、4万5000個以上の(積み木のような小さな)構成単位が織り込まれた複雑な構造をした、自由な形の屋根を作るのだと言う。

 「現在進行中の研究を、大規模なプロジェクトで試すことができる。それは本当にワクワクすることだ」 

シンガポールでのプロジェクト

シンガポールの未来都市研究所におけるグラマツィオ&コーラーさんの狙いは、スイスでの従来の研究規模をそこでさらに拡大し、高層ビルや街全体の設計といった、大きな建設現場でデジタル化された建設の効果を追求することだ。

ほかのアジア諸都市同様、シンガポールでも土地不足による建物の高層化が見られる。次の建築ラッシュでは、生活レベルを維持しつつ、環境への考慮と更なる過密化を念頭に入れる必要がある。また、建設過程のデジタル化も課題の一つだ。

「シンガポールは、非常に面白い、いわば生きた実験所のような街だ。そこでは、スイスではありえないような知的な実験が可能だ。グローバルな観点から見れば非常に意義のある実験で、アジア全般で現在進められている開発や未来のそれの原型となるだろう」とグラマツィオさん。


(英語からの翻訳 徳田貴子、編集 swissinfo.ch), swissinfo.ch


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