スイスの視点を10言語で

猛暑対策 植物の壁とフリー・クーリングで

Mur de plantes swissinfo.ch

スイスでは2050年までに秋、冬、春でおよそ2度、夏でおよそ3度まで温度が上昇するといわれている。

このため、猛暑の夏には、まだ一般化していない冷房の設置が都会のビルには必要になるだろうという。しかし、同時に冷房装置の電気消費量を節約するため、夜間の冷気を利用するフリー・クーリングなどの方法も推薦されている。一方、植物で建物の壁を覆う革新的な方法も登場した。

植物の壁

「鉢植えを壁に吊るすようなプロジェクトは存在していた。これは見た目にはきれいだが高価で、毎年取り替える手間がいる。シンプルで安価、かつ環境にやさしい植物の壁はできないのかと考えた」
 と建物の外壁を植物で埋め尽くすプロジェクトを完成させた1人、ナタリー・モンジュ氏は言う。

 ジュネーブの「建築、造園、技術高等専門学校 ( hepia )」の各分野の専門家に陶芸家が加わり、2年かけて立ち上げた同プロジェクトは、都会の建物をターゲットにしている。都会こそ、空気汚染や温暖化で緑を必要としているからだ。実際壁面を埋め尽くす植物は、二酸化炭素 ( CO2 ) を吸収し、根が生える部分の空気層が音を吸収し、さらに植物の生えている表面の温度は、何もない壁の温度より5度低いという実験結果もある。
 
「今後、温暖化に向け猛暑の都会で活用してほしい。壁があればどこでも取り付けられる。『植物の壁』は幅が厚いので、朝の冷気が建物の内部にそのまま保たれる上、外部では周囲の温度を下げてくれる。また心も癒される」
 とモンジュ氏。

 構造は、一番下が厚さ1センチメートルのセラミックまたはコンクリートの板。その上に7センチメートルの土の層があり、さらに上を海綿状の多孔質セラミックの厚さ2.5センチメートルのプレートで覆う。この上に植物の種を蒔く。

 この植物、陶器のプレート、土、板からなるサンドイッチ状の、ほぼ厚さ10センチメートルの「植物の壁」が垂直に建物の壁に取り付けられる仕組みだ。

カナダ式井戸

 自然の冷気を温度を下げるために使う「フリー・クーリング( free cooling ) 」も将来有望な方法だ。これは「気候変動調査機関 ( BOFK / OcCC ) 」の報告書「温暖化と2050年のスイス」が、猛暑に向け推薦する対策で、実際、温暖化問題では主役的な立場にある「世界気象機関 ( WMO ) 」の建物が利用している。

 「こういう機関だからこそ、エネルギーを節約し、CO2排出量を極力抑えた建物にした」
 と世界気象機関のエネルギー管理責任者マヌットシャー・ハッジ氏は言う。ここで使われるフリー・クーリング法には「カナダ式井戸」と、直接夜間の冷気を取り込む二つの方法がある。

 「カナダ式井戸」は、地下5階の駐車場の両脇の壁に沿って延びるパイプに外気を取り込み、この外気を地盤中の数本のパイプに通した後、オフイス空間に送り込む方法だ。地下18メートルの深さでは、温度がほぼ11度に安定しているため、熱い外気の場合はパイプを通過する際に、この11度の温度に触れることでより冷たくなり、反対に冷たい外気はより暖かくなる。こうして約4度の温度差が生まれる。

 例えば外気が32度だと28度まで冷やされる。28度だとそのままオフイスに流されるが、28度を超えるとガスを使用した機械で冷却される。というのもオフイスの理想温度は20度から28度までとされているからだ。

夜間の冷気

 もう一つは、夏に夜間の数時間、冷気を直接オフイスに取り込む方法だ。世界気象機関の外枠は2重構造で二つの透明なガラス壁の間に外気が絶えず入り込んでいる。この外気とオフイス内の温度差が夜間2、3度になった場合、オフイスの窓が自動的に開き外気が中に入り込む仕掛けだ。

「外気で冷やすという原理は簡単だが、応用はかなり複雑だ。夜間、照明が全て消えているのを機械が自動的に確認した上で窓が開く。蚊などの虫がオフイス内に入り込まない配慮が必要だ」
 とハッジ氏。

 普通の冷房では、オフイス内の温度は外気より極端に低いが、それに比べるとこれら二つを組み合わせた方法は、温度を少し下げるだけの、体にもやさしく、かつエネルギー消費が少ないものだ。またこの建物は、エネルギー消費削減に全力投球し、余分なものにお金をかけずに建設したため、この手の建物の建設費としては安く上がったという。
 
 「チューリヒで2、3同じような方法を使った例があるが、大型の規模でのフリー・クーリング法を使用した建物は、恐らくスイスではここが初めてだ。今後もっとこのような建物が建設されれば、温暖化対策に役立つ」
 とハッジ氏は期待している。というのも10年経過した今、この建物のオフイス空間は絶えず快適で、自動機械類はすべて順調に働いているからだという。

里信邦子( さとのぶ くにこ) 、swissinfo.ch

「気候変動調査機関 ( BOFK / OcCC ) 」の報告書「温暖化と2050年のスイス」によれば、スイスでは、2050年までに秋、冬、春でおよそ2度、夏でおよそ3度まで温度が上昇するという。
降雨量は冬で約10%増加し 、夏 は反対に20%減少すると予想されている。
集中豪雨も起こりやすく、冬でも洪水が考えられる。夏は全般に乾燥し、猛暑の夏が多くなるが、一方で集中豪雨も起こりうる。
こうした結果により、同報告書は冬の暖房エネルギーは少なくて済むが、夏の冷房にはエネルギーがより必要になり、また消費エネルギーは化石燃料から電気へと移行するという。
さらにこの電気消費量を減少させるため、効率の良い冷房装置や、夜間の冷気を日中に使用する「フリー・クーリング ( free cooling ) 」などを大いに活用すべきだと推薦し、建築基準法も将来の温暖化に向け改正するべきだと主張している。

気象観測所の国際ネットワーク構築や気象情報の国際交換、航空、航海、防災、農業、水問題などへの気象・気候情報の提供など、気象に関するさまざまな国際的な活動を展開する国連の専門機関の一つ。温暖化に関する世界の科学者の知見を取りまとめる政府間機構「気候変動に関する政府間パネル( IPCC )」を、国連環境計画(UNEP)とともに1988年創設。IPCCの2007年度の報告は、人間の化石燃料の使用が温暖化の主因であることを明言した。

建築、造園学校などが統合され、2年前ジュネーブに誕生した高等専門学校。統合時の基本概念として、建築、造園、技術の分野を網羅し、セクター間を超えるような教育を目指している。また、プロジェクトは環境を考慮した持続可能なものが中心。こういう意味で、「植物の壁」は各分野が協力した代表的企画となった。

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部