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スイスの連邦制 創設のモデルはインディアン

イロコイ連邦はスイス連邦創設のモデルにされた
インディアンの五つの部族は1570年頃、現在の米国で初となる連邦制度「イロコイ連邦」を築いた。その統治範囲は現在のニューヨーク州からカナダに及ぶ。イロコイ連邦はスイス連邦創設のモデルにされた akg-images / Science Source

世界中どこを見渡しても、米国とスイスほど国民が政治に直接参加できる国はない。だが両国には大きな違いがある。米国ではこれまで、連邦レベルで直接参政権が認められたことがないのだ。

 「ニューヨーク州で憲法会議の開催を」、「メイン州のすべての人にオバマケアを」、「オハイオの市民に安価な薬を」。米国の九つの州では7日、これら三つを含む27の案件の是非が住民投票で問われる。

 住民投票が行われる理由は、州憲法のいかなる改正も住民投票に付さなくてはならないという制度があるからだ(デラウェア州を除く)。また、全50州のうち半数の州には住民発議とレファレンダム(住民投票)の制度があり、さらにローカルなレベルでも直接参政権が保証されている。「市民が共同決定することは、この国の民主主義の要だ」と話すのは、南カリフォルニア大学直接民主制研究所外部リンクのデイン・ウォーターズ所長だ。同氏は「現在医療制度、大麻の合法化、動物保護が住民投票の重要なテーマになっている」と付け加える。

生まれてすぐ引き離された双子

 住民発議やレファレンダムに代表される「現代の直接民主制」が、日々の政治に深く浸透している国は米国以外ほとんどない。しかしスイスだけは例外だ。

 これは偶然ではない。似ていない両国だが、歴史的には互いに影響しあってきた。「スイスと米国は、生まれた直後から別々の家族の元で育ったが緊密に連絡を取りあってきた双子のようなもの」と、スイス人政治学者のアンドレアス・グロス氏は言う。

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 私が同氏と会ったのは、首都ワシントンのウィルソン・センター外部リンクだ。ペンシルヴァニア通りに面し、ホワイトハウスの目と鼻の先にあるこのセンターは、1913~21年まで米大統領を務めたウッドロー・ウィルソンを記念して建てられた。

 民主制の専門家であるグロス氏は研究目的でワシントンに滞在中。研究のテーマはまさに「米国・スイス間におけるインスピレーションとアイデアの伝達について」で、チューリヒ大学欧州研究所の助成金を元に本を執筆する予定だという。「スイスと米国は互いから非常に多くのことを学べる」と、チューリヒから下院議員に当選した経験を持つグロス氏は語る。「ここは歴代大統領や、直接参政権の支持者たちの図書館だ。ここなら研究テーマに関するあらゆる書物がある」

イロコイ人からの発想

 歴史を紐解くと、スイスは米国の連邦制を模倣し、米国もまたスイスの直接民主制を取り入れたことが分かる。「連邦制も直接民主制も、今では両国の重要な政治制度だが、この制度の発案者は米国人でもスイス人でもない」とグロス氏は説明する。

 米国の建国の父の一人、ベンジャミン・フランクリンは、初の米国連邦憲法を草案する際、インディアンの部族が築いたイロコイ連邦からヒントを得ていたことが分かっている。

フランスから輸出された民主主義

 一方、直接参政権という概念は、連邦制とは別の経緯でスイスと米国に伝わった。この概念を発案したフランスの博学者ニコラ・ド・コンドルセは1792年、国民公会でこう宣言した。「この共和国は、活発で個人的な関与を惜しまない市民を前提とする」

 そしてコンドルセは国民発議という権利を提案したが、フランスではその後混乱が続き、このアイデアはコンドルセ同様、短命に終わった。そのためフランスでは今も、この最強の参政権は憲法に記載されていない。

 だがコンドルセが打ち出したアイデアは、隣国スイスで実を結ぶことになった。スイスではまず、国民発議とレファレンダム(国民の拒否権)がほぼ全州に導入され、次いで1891年には連邦憲法に盛り込まれた。

スイスで民主主義を視察

 19世紀末の米国の記者たちは「現代の民主主義」がスイスで平和的に発展したことに興味を抱き、民主主義を学ぶためにスイスに赴いた。

 レポーターのJ.W.サリヴァンが新聞や本に書いた「スイス・モデル」は多くの関心を集め、直接民主制というテーマが米国で政治改革論議の中心となった。「私たちは、議論による政府を望む」と、保守派の政治家ネイサン・クリーは1892年に記し、米国で連邦レベルの直接参政権導入を求めた。

ワシントンでの米スイス討論会

 直接参政権の導入は、3億2千万人以上の米国人が今もなお待ち望んでいる。「もし連邦レベルで国民が政治に直接参加できるようになれば、ドナルド・トランプ氏が出馬した大統領選挙で見られたような抗議票は無用になるだろう」と、ウォーター氏は確信する。

 ウォーター氏は10月中旬、在ワシントン・スイス大使館で行われた公開討論にグロス氏と共に参加した。公開討論のタイトルは「直接民主制と参加型民主主義は本当に米国を変えるか?」

 駐米スイス大使のマルティン・ダーヒンデン氏は「スイス流の直接民主制は輸出には向かないが外部リンク、インスピレーションにはなるだろう」と話す。

 討論に参加した動物保護団体ヒューマン・ソサエティ外部リンクのウェイン・ペイセル氏は、直接参政権の導入を大いに歓迎。「この国はその一歩を踏み出す時期にいると思う」と語る。

 ただ、実現までの道のりは長い。果てしなく長い。なぜなら米国はスイスとは違い、憲法改正にはまず連邦議会の両院で3分の2以上の賛成を得なければならないからだ。さらに第2の関門として、全50州のうち少なくとも38州の承認を得なければならないのだ。

(独語からの翻訳・鹿島田芙美)

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