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第61回 国連人権委員会がジュネーブで開期中

世界中で投獄されているジャーナリストが人権委員会の構成メンバー国にいると訴えるNGO(RSF)。 Keystone

北朝鮮の拉致問題なども含めて世界の人権侵害を討議する、第61回国連人権委員会(UN Commission on Human Rights)が開幕した。今年も、北朝鮮に対する度目の非難決議案が採決される見込みだ。

毎年、多くのNGOから国連人権委員会の有効性が問われているが、今年は各国代表団からも、今後の人権委員会の具体的な改革案が出されている。

14日に開幕して以来、まずは各国代表のスピーチが行われており、討議の採決は会期の最後に行われる予定。これまでのところ、日本を含めた多くの代表団が今後の国連改革の一環としての人権委員会のシステム改革に言及した。

信頼性を問われる人権委員会

 これまでも、大国が政治的手腕で決議案を回避できたり、議長国が人権を守っていない国(昨年はリビア)が受け持ったりするなど各国の「ダブル・スタンダード(ご都合主義)」を多くのNGOが疑問視してきた。

 また、人権侵害が起こっているとして人権保護団体などから糾弾されているネパール、ジンバブエ、コンゴ共和国、キューバ、ロシア、中国や米国などといったが国々がメンバーになれることなどが「信頼性を下げる」と問題になっていた。

 しかし、NGOなど関係者の間では「もし、構成メンバーに選出されるのに基準を設けた場合には参加国の数が激減するためかえって有効性を失うだろう」との見方も多い。

事務総長も改革の方向

 コフィ・アナン国連事務総長も人権委員会のメンバー選出方法について近々、修正案を提案すると発表した。これは有識者(ハイレベルパネル)が行った国連改革についての提案レポートに基づいたものと見られる。レポートは「人権委員会はここ数年、信頼性を失っている。その理由としてメンバーが世界で起こっている人権侵害を告発するよりも、自国が告発されないように奮闘しているからだ」といった内容だ。

スイスの斬新な改革案

 スイスのミシュリン・カルミ・レ外相は開幕時のスピーチで人権委員会の改革の必要性を強調し、「メンバー国は自主的に自国の人権改善への取り組みを報告してはどうだろうか。メンバーになる基準を設けることは建設的なアプローチではないが、メンバーになることに対しては責任が伴わなければならない」と提案した。また、人権委員会が補助機関としてでなく、安全保障理事会と同様、独立した機関として一年中、人権侵害について討議できる場となるべきだと主張した。

 なお、日本は具体的な改革案についての立場を表明していない。

北朝鮮の特別報告者のレポート

 昨年の人権委員会の対北朝鮮非難決議を受けて、同年7月にタイのウィティット・ムンタボーン教授が特別報告官に任命されたため、今年は初めて報告書が提出される。

 レポートは北朝鮮の全般的な人権侵害を指摘するだけでなく、同国による日本人拉致被害者にも言及している個所がある。これには北朝鮮が日本人を拉致したことを認め、幾つかの件は解決したものの、他の件ではもっと明快な答えと解決が必要だとしている。また、2004年末に北朝鮮が死亡したとして送って来た拉致被害者の遺骨がDNA鑑定で複数の別人のものであったことが日本社会に驚愕を与えたと記している。


swissinfo  屋山明乃(ややまあけの

今春の第61回国連人権委員会がジュネーブの欧州国連本部で3月14日から4月22日まで会期は6週間。各討議の採決は会期の最後に行われる。

<国連人権委員会とは?>

- 毎年、ジュネーブで春に6週間にわたって世界の人権侵害状況を課題別、国別に討議し、各国へ政治的圧力をかけて人権問題の改善を図るのが目的。ただし、法的拘束力はない。

- 個人や民間団体の告発を受けて国連の作業部会や小委員会が審査し、調査を行った上で特別報告官が任命される。特別報告官は該当国の同意に基づき現地に調査に行き、状況改善が行われているかを報告する。

- 特定国の非難決議案(去年は15カ国が審査対象)のほか、拷問、強制拘留、強制的失踪、人種差別など26項目にわたる幅広い範囲での人権侵害が対象に討議される。

- 現在、人権委員会が審査の対象にしている国は、アフガニスタン、ハイチ、リベリア、ミャンマー、ソマリア、カンボジア、コンゴ民主共和国など。

- 国連人権委員会は国連経済社会理事会の補助機関。日本を含む53国の各国代表で構成され、加盟国は地域別に3年ごとに選出される。

- 北朝鮮の日本人拉致問題は「強制的失踪に関する作業部会」で取り上げられ、これまでも拉致家族被害者家族がジュネーブに陳情に訪れた。

- 北朝鮮の非難決議案は2003年から採決されている。今年は初めて、昨年任命された北朝鮮問題担当のウィティット特別報告官によるレポートが討議される。しかし、ウィティット特別報告官は北朝鮮が入国を認めなかったため、現地調査はできずに日本、韓国、中国などで非政府組織(NGO)や国連機関から聞き取り調査を行った。

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