クリスマスの楽しみ〜パネットーネ

今日はクリスマス・イブ。日本のクリスマスといえば、ケーキが必須だと思いませんか。今回はティチーノのクリスマスに欠かせない食べ物”パネットーネ” のご紹介です。
「今年はどこのを何個買う?」。スイスに移住してからというもの、右肩上がりの体重に怯えつつも、この季節に食べずにはいられないのがパネットーネです。パネットーネは、ふわふわのブリオッシュ生地に甘いシロップ漬けのドライフルーツを混ぜて焼いたパン菓子。高く膨らんだドーム型のフォルムで、イタリアのクリスマスの食べ物としてご存知の方も多いと思います。スイスのクリスマスは四つの公用語がある国らしく、地域によってさまざまです。フランス語圏では薪の形のビュッシュのケーキ、ドイツ語圏ではスパイスのきいたクリスマスクッキーが定番。中世ミラノ公国の支配下にあったイタリア語圏のティチーノ州では、クリスマスの伝統的な食べ物といえばパネットーネです。

パネットーネは地味な外見に反して甘くやわらかな口あたりで、その繊細な味わいを知ってしまったら、やみつきになってしまいます。本来はクリスマスや、年末年始のランチやディナーのデザートとして食べるものですが、実際は11月後半ころから店頭にたくさん並び、朝食に、おやつに、ちょっとした集まりに「今日はあそこのお店のを買ってみたわ」なんて言いながら、毎日のように食べます。伝統的なドライフルーツ入りのものだけでなく、チョコレートにマロングラッセ、杏ジャム、お酒好きにはリモンチェッロ(イタリアの食後酒)やプロセッコ(イタリアの発泡性ワイン)のクリーム入りなどなど。その上、お店によって味わいが違うのですから、毎年あれもこれもと試したくなってしまうというものです。

パネットーネはスーパーで量産品を買うこともできますが、パン屋さんやお菓子屋さんの手作り品は別格の美味しさです。ルガーノでは毎年パネットーネの試食会が催されていて、いろんなお店の味を試すことができます。もちろん私も毎年試食に行くのですが、今年この会場で知り合ったブルマーナさんは、スイスのパンや菓子の品評会「スイス・ベーカリー・トロフィー」で8年間、パネットーネ部門で金メダルを受賞している名人でした。 明るく気さくな方で、わが家が工房の近所だと知ると、パネットーネ作りを見においでと招いてくれました。

パネットーネは生地の仕込みだけで36時間もかかる大仕事で、生地のこね始めから数時間おきに、バターや砂糖などを数回に分けて混ぜ込みます。ブルマーナさんの工房では生地の練り作業は機械で行いますが、でき上がった生地を成形して型に入れるところは人の手で行っています。機械任せにすると生地が固くなってしまい、また一つ一つ重さを正確に測らないと、均一な焼き上がりにならないのだとか。特に味の命ともいえるパネットーネ種の最初の発酵作業は、ブルマーナさんと、信頼する1人のお弟子さん以外には絶対に任せません。パネットーネ種は非常にデリケートで特殊なパン種で、最適な味に導くには細心の注意が必要なのだそうです。

ブルマーナさんのパネットーネは、まさに正統派という言葉がぴったりです。生地はしっとりとやわらかく、高品質なスイスバターの風味がたっぷり。厳選された素材は噛むほどに深い味わいが広がります。「特別なことはしていないよ」と言いますが、一つ一つ人の手を通し、丹誠を込めたパネットーネは、まさにスイスで一番の称号にふさわしい味です。

パネットーネは保存期間が長く、保存料を使っていなくても2〜3ヶ月は食べられますが、やはりできたてほどやわらかで風味がよく美味しいものです。地域色も季節感も薄れ行く昨今、パネットーネもほぼ年中、スイス中で買えるようになりました。商品の回転の早い今時期はフレッシュなものに当たる可能性大。機会がありましたらぜひお試しください。ただし、バターたっぷりハイカロリーなのをお忘れなく・・・。
奥山久美子
神奈川県生まれ、福岡県育ち。都内の大学を卒業後、料理や栄養学を扱う出版社に就職。雑誌、書籍の編集業務に携わる。夫の転職に伴い、2012年からイタリア語圏ティチーノ州に住む。日本人の夫、思春期の息子2人の4人家族(+日本から連れてきた猫1匹)。趣味は旅行、読書、美味しいものを見つけること。

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