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大規模公開オンライン講座 スイスの大学も時流に乗る

Keystone

米国では、大学の大規模オンライン講座「MOOCs(ムークス)」が人気を博しており、世界でも急速に広がりをみせている。スイスでは連邦工科大学ローザンヌ校(ETHL/EPFL)を筆頭にいくつかの大学で試みが始まっているが、これは新しいマーケティング戦略だとの批判もある。

 MOOCsはMassive Open Online Coursesの略語で、インターネットがあれば世界中のどこからでも受講できるのが特徴。昨年は高等教育で取り入れるところが増え、オンライン講座は爆発的に広がった。

 MOOCsはCoursera(コーセラ)やUdacity(ユーダシティ)などのプラットフォーム・プロバイダーで提供されており、こうしたプロバイダーに参加する世界の有名大学が急増している。また、edX(エデックス)やFuturelearn(フューチャーラーン)といった独自のプラットフォームを設立する大学も現れた。

 連邦工科大学ローザンヌ校は昨年6月、30以上の大学が参加するCourseraに参加。プログラミング言語Scala(スカラ)の公開オンライン講義を開設し、同校の在籍者数の5倍を上回る5万3000人が受講する。

 この講座を監督するカール・アベラーさんは言う。「MOOCsが大学の授業を根本的に変えるのは確実。キャンパスに大講堂はもう必要ないという声もある」

 同大学では他にも、今春からコンピューター数学講座やJAVA(ジャバ)のプログラミング講座などを英語やフランス語で提供する予定。また、今年秋にはさらに10講座を増やす計画だという。

流行に乗る

 スイスの他の大学も動き出した。連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ/EPFZ)は今年の秋からMOOCsを導入するか検討中だが、実施までに2年の期間を見積もっている。

 国際化、少数のエリート大学の再編などの最近の傾向をMOOCsは映し出していると、ジュネーブ大学のパブロ・アチャード副学長は言う。同大学はCourseraかedXで講座を開設する予定で、来月には公式発表をするという。「MOOCsへの関心は確実に高まっている。米国では特にそうだ。ただ、これが一時的な流行なのか、それとも高等教育における重大な変化なのかはまだ分からないが」

 同様のことは他大学からも聞かれる。ベルン大学はMOOCsが授業改善に役立つとみているが、その実施は優先課題ではないという。チューリヒ大学とバーゼル大学は特に関心を示していない。

 ローザンヌ大学は2009年、米アップル社のオンラインプラットフォーム「iTunes U(アイチューンズ・ユー)」と提携を組んだ。このプラットフォームでは、米国のイエール大学、マサチューセッツ工科大学、バークレー大学などの高等教育機関や高校など数百校が数千もの講座を提供している。

大規模オンライン講座MOOCs(Massive Open Online Courses、ムークス)は2012年から世界中で急速に広がり始めた。オンライン・プラットフォームのCoursera(コーセラ)やUdacity(ユーダシティ)、edX(エデックス)が同年に開設されたことがきっかけだ。

Courseraで初の無料大学講座が開始された4カ月後の2012年8月、同プラットフォームには190カ国以上から100万人が登録。現在の登録者数は250万人。Courseraは33校のエリート大学と提携しており、登録者はこうした大学が提供する215の講座を受講できる。

大抵のMOOCsは無料で、大学からの単位認定はない。インタラクティブなクイズやゲームなどの娯楽要素を盛り込んだり、ソーシャル・ネットワーキングを利用したりするものもある。

受講者は短い動画を見るなどして自分のペースで学習ができ、巨大なオンライン・コミュニティで情報交換することができる。宿題や最終試験を課す講座もいくつかある。

動機

 多くの大学がMOOCsに関心を示す背景には、経済的な理由や生産性向上に対するプレッシャーがある。連邦工科大学ローザンヌ校のパトリック・エビッシャー学長は今年、MOOCsに集中するため6カ月の休暇を取り、ボストン、サンフランシスコ、アフリカを見て回る。こうした新しいオンライン講座が高等教育の発展に貢献すると考えるからだ。

 エビッシャー学長はまたフランス語圏の日刊紙ル・タン(Le Temps)に対し、フランス語圏の大学は世界2億2000万人のフランス語話者に一定の責任を負っていると語る。フランス語を話す人の数(大半はアフリカ)は2050年には7億5000万人に増加が予想されている。

それほど画期的でもない

 しかし、MOOCsは単にマーケティング手法だと見なす人もいる。現在のMOOCsはこれといって画期的ではなく、10年ほど前からあるeラーニング製品(情報技術を使った学習教材)の方が全般的に質がいいと、連邦工科大学チューリヒ校で教育開発・技術研究所のコンラード・オスターヴァルダー所長は考える。

 「MOOCsはただ埋めるだけのフォーマット。受講者の良し悪しは関係ない。真珠のように優れた講座を見つけるよりも、質の悪い講座を見つける方が格段に易しい」

 ただ、他の受講者と一緒に学んだり、大多数の参加者から新しい情報を大量に得たりできるという点で、MOOCsは興味深いとオスターヴァルダー所長は語る。

収入と単位

 MOOCsのプラットフォームはこれまで多額の投機資金を生み出したが、これに参加する大学がどのような形で金銭を得るかが課題となっている。案としてライセンス使用料や修了証書発行手数料などが考えられる。

 授業料など大学の事情が米国とは大幅に異なるスイスでは、MOOCsにかける期待もまたさまざまだ。「巨額の収入を得るのが目的ではない。学術の世界では知名度が重要。優秀な学生を集められれば、大学の質も上がり、スポンサーも増える」と、アベラーさんは言う。

 MOOCsが抱える問題は金銭面のほかに、単位認定の問題がある。米国では単位認定制度の導入が進められているが、大半の講座に単位は認められていない。アベラーさんによれば、所定の試験センターを設立したり、監視付きオンライン試験を実施して単位を認めることが今後考えられるという。また、各大学が試験を実施することも選択肢の一つとなっている。

 連邦工科大学チューリヒ校のオスターヴァルダーさんは言う。「我々はMOOCsを単位認定するつもりは全くない。MOOCsを単位として認めてもらいたいならば、同校に入学する必要がある。しかし、プラットフォームが今後も発展していけば、単位認定が問題になり、同校もこの問題に真剣に取り組まざるを得なくなる。だが今の状況ではこれについて議論をすることは難しく、ほとんどの大学は単位認定をまじめに考えてはいない」

(英語からの翻訳・編集 鹿島田芙美)

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