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頭を動かしコンピューター操作

チャンドラセーナ氏と発明品。コンピューターの画面下方にキーボードが設置される swissinfo.ch

「上下左右に頭を少し動かし、決定はチューブに息を吹き込むだけ」と、両手を失った人のために頭でコンピューター操作をする器械を発明した、プリンス・チャンドラセーナ氏は言った。

4月1日開催のジュネーブ国際発明品展には、世界45カ国から710人の発明家が参加した。不況は同展にも影響を与え「昨年までは楽しい発明品も多かったが、今年はすぐに実用化できるものが目立つ。無駄なものに時間もお金もかけないということだ」とスポークスマン、ジャラール・セルミエール氏は分析する。またエコロジーや安全性に力を入れたものも多いという。

右手のない生徒

 「工業学校の教師をしていたとき、右手のない生徒が左手だけでコンピューターを操作していた。もしこの子が左手も失ったらどうなるのだろうか」
 と思ったのが、今回の頭だけでコンピューターを操作する器械の発明に繋がったと、スリランカから来たチャンドラセーナ氏は説明した。

 原理は、顔の左右とあご下に設置された細い金属棒のセンサーに頭が軽く触れると、ディスプレイに表示されているキーボード上をポインタが移動する。目的のキーにポインタが到着した所で、口元のチューブに息を吹き込み決定を伝える。

 「使っているのは今は私だけ。しかし操作はとても簡単。2ミリメートルぐらい顔を動かすだけでいい。頭に負担はかからない」
 と言う。

 「スポンサーを探している。本当に今すぐにも実用化したい。私の国には、内戦で両手のない人が多いから」
 と43歳の電気製品修理技師は真摯な表情で語った。

超小型エレべーター

 「私は80歳。年を取ると、高い天井の電球やカーテンを取り替えるのに梯子にはもう登りたくない。また、重心を失ったときに掴む支えがあれば助かる」
 と2、3年前に思いつき、電気で上下に移動する「超小型エレべーター」を発明したとスイスのエリック・ストゥキイ氏は言う。

 人の幅程度の板に乗り、体の回りを取り囲む細い金属棒をカチャッと閉め、その棒に設置してあるボタンを押せば上に上って行くという簡単な仕掛けだ。床から3メートルの高さまで上れる。何回も実験を重ね、安定性も確認済みだという。使った後は折りたたみ、底部の足先に付いている小型の車輪状のもので移動も簡単にできる。

 「何と言っても頭がふらふらしたり、重心を失ったときに支えがあるのが自慢だ」
 と言いながら、支え部分の設計図を見せようとファイルを開くと、数字や線がびっしりと書き込まれた図面が何枚も現れた。

 若いときは、焼却炉や地下水を吸い上げるモーターなどの機械設計者だった。従ってもちろんこの「超小型エレべーター」のモーターも自分で設計した。実は、以前1996年、1998年と2回この発明展で金賞を手にしているという。手の使えない人のための、自動スプーンと自動ナイフの発明品だった。

 定年後は発明品一筋に過ごしてきた。時間があるので次々に色々な発想が頭に浮かぶそうだ。ただ、
「設計から製作、販売まで1人でやらないといけないのが、ちょっとさみしい」
 という。ちなみに、自宅には長男の住む階下と自分の住む2階を繋ぐ、本物の自作エレベーターがついているそうだ。

swissinfo、里信邦子 ( さとのぶ くにこ )

ジュネーブのパレエクスポ ( Palexpo ) で4月1日から5日まで開催。

今年は世界45カ国から710人の発明家が参加した。

機械、建築、電気製品、家具など、部門ごとの専門家62人が審査にあたり、また開催後に48%近い出展者が製造、販売の契約にこぎつく点においても、世界で代表的な発明品展とされる。

今年は、実用化しても何に使えるのかといったものは姿を消し、確実な実用性を目指すものが多くなった。また、体の不自由な人のための発明品や安全性、エコロジーに力を入れるものも多かった。

エコロジー、衛生、節約などの観点から、多くの人の賞賛を得ている発明品に、ドイツのベルナー・ドゥツ氏が出展したバターサービス器械がある。器械そのものが冷却器になっているので、溶けていないバターを、自分が必要なだけ、清潔に、包み紙などの無駄もなく、ボタン1つで取り出せる。これはすぐにもホテルの朝食用に使ってもらえそうだ。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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