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国連・特命人権大使 ヴァルター・ケーリン教授に聞く

ヴァルター・ケーリン教授、法学者としての思考と実践の経験を生かして、特命人権大使としての活躍が期待される。 Keystone Archive

10月中旬、ベルン大学法学部のヴァルター・ケーリン教授がコフィ・アナン国連事務総長の特命を受け、世界の自国内で迫害されている国内難民の人権を守る人権大使として活動することになった。

このほどケーリン教授はスイスインフォのインタビューに応じ、国内難民の人権を守るという使命やその問題などについて語った。

———教授は人権および難民の権利の擁護に尽力していますが、そのエネルギーはどこから来るのでしょうか。

 私が実際してきたことと、考えていることが一体となり力になっています。以前、大学の講師だった時、アムネスティー・インターナショナルを通して難民とかかわりました。その時、人権を迫害された人々と直に接し、彼らの運命を目の当たりにしました。当時の経験と私自身の学問的な興味から難民の権利について博士論文も書きました。その実践と思考がわたしのエネルギーの源です。

———教授は人々の苦しみや悲しみに対峙する仕事に携わっていますが、そのために抱えるストレスをどのように解消しているのでしょうか。

 いつも解消できるというわけではありません。難しいことです。1991年に国連人権委員会から派遣され、イラクに占領されていたクウェートで2週間にわたり被害者の話を聞いて回りました。この時はいま振り返ってみても大変だったという思い出があります。

いまはプロである意識とこの仕事の意味を認識することで、ストレスを解消しています。

———今回、国連事務総長から特命人権大使として任命された経緯はなんですか。

 スーダン人のフランシス・デング特命人権大使の任期が終了したので、わたしが後任となったのです。デング氏とは長年にわたり一緒に仕事をしてきました。こうしたわたしの活動からみて、いままでの路線を引き継げるという判断が新任者を選ぶ作業の中でであったのでしょう。デング氏とわたしは、国際人権憲章から国内難民の人権に該当する部分を抜粋し、国内難民の人権を文章にまとめた「主要ガイド」を作成ました。

———その「主要ガイド」はどういったものでしょうか。

 まず、支配者などによる身勝手な迫害を禁止しています。難民が生まれる理由は、その国の政府や反乱軍が「嫌った」民族に所属するからとか「望ましくない」宗教を信仰しているからという身勝手な観点から自国民を区別し迫害するためです。

 また、迫害された人々の人権についても書かれています。難民の権利とは、再び自分の家に帰る権利です。一旦難民になると、多くの人が家に帰れなくなるという現状があります。たとえば、国内難民の子供達は、武装グループにより少年兵士として徴収される可能性があります。また、女性は性的差別の犠牲になるばかりではなく、保護してくれる男性もいない難民キャンプでは、攻撃の対象となります。それまで住んでいたところに選挙権がある場合が多く、難民キャンプに住んでいると選挙権もありません。

 さらに、帰る場所ですが、難民自身に帰る時期や場所を決める権利があるということです。それまで住んでいたところに戻るのか、新天地を求めるのかの決定も含めてです。

———国内難民と国外に流出する難民の違いはなんですか。

 両者ともに住んでいた家や村から迫害や攻撃によって強制的に追放されることは同じですが、国内難民はその国に留まっているので、難民条約に該当しないのです。難民と認定されれば、難民の権利が得られ、国連難民高等弁務官事務所(UHNCR)の援助も得られるようになります。

———特命人権大使の使命を具体的に説明してください。

 いろいろありますが第一に、国内難民の権利を国際的に統一することです。国内難民の権利は、いまのところ国際人権憲章の一つとして認められているわけではありません。わたしには、それを世界各国に認めさせるという使命があります。

 また、国内難民を抱える国々を訪問し現状を把握し、当事国と国連に対して難民の現状を良くするために勧告や助言をするという使命もあります。それから、難民を抱える国々が難民の権利をどれほど尊重しているかを調べる使命もあります。こうした活動で得られた結果のすべてが、国連総会や国連人権委員会で報告されます。

———こうした活動が、直接、難民の苦しみを和らげるのに具体的にどう役立つのでしょうか。

 人権大使として政治的な圧力をかけることにより、彼らの現状を良くしてゆくことができると思っています。少なくとも、難民の生活を向上させるための具体策を立てるように、該当する政府や組織を説得することはできると思うのです。また、法律を作ることも必要です。この場合の法律は、言葉だけではなく難民の人権を守るための具体性を伴ったものです。

スイス国際放送 聞き手 レナト・クゥンツィ 佐藤夕美 (さとうゆうみ)意訳

全世界で国内難民の数は2,500万人と推定される。
国内難民の数 
コロンビア 350万人 コンゴ民主共和国(旧ザイール)340万人その他、カフカズ、トルコ、イラクなど
現在最も問題となっているのは、スーダン北西部ダルフール州におけるイスラム教徒の民族浄化による50万人の国内難民

ヴァルター・ケーリン(53歳)
ベルン大学 国家・人権専門の法学教授
1991年/92年 国連から派遣され、クウェートの人権の現状について特別報告を行う。2003年から国連人権委員会委員
2004年 国連事務総長の特命を受け、人権大使となる。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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