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元アジア特派員が描くサバイバーたち

ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)の元アジア特派員、カリン・ウェンガー氏はカメラの前に立つのを止め、執筆活動を始めた。2022年には既に3冊もの著書を出版。描くのはアジアを旅する中で出会ったサバイバーたちだ。

チューリヒ出身のジャーナリスト、カリン・ウェンガー氏は2009年以降、アジア特派員としてアジア各地を訪れた。数年前からアジアでの取材を通して出会ったあらゆる人々を再訪してきた。新型コロナウイルスのパンデミックではバンコクに足止めされたが、おかげで彼らが乗り越えてきた苦難や極限を生き延びてきた物語を書く時間がようやく見つかった。同氏のルポルタージュには戦争、汚職、原理主義、ファストファッションが何をもたらしたのかがつづられている。

惨事を生き延びる

Jacob the Prisoner外部リンク(仮訳:受刑者、ジェイコブ)」(英・独語)でウェンガー氏はあるインドの受刑者を10年以上にわたって取材した。残りの2冊は独語で書かれた。「Verbotene Lieder – Eine afghanische Sängerin verliert ihre Heimat外部リンク(仮訳:禁じられた歌-故郷を追われたアフガニスタンの歌手)」は、歌手であり、テレビ司会者でもあったミナがタリバンによってアフガニスタンを追われる物語だ。ミナは自分の夫を自分で選ぶ若い女性の歌を歌っていた。

Bis zum nächsten Monsun – Menschen in Extremsituationen外部リンク(仮訳:次のモンスーンまでに―極限状況に置かれた人々)」は極限状況を生き延びた人々のルポルタージュ集だ。ヨーク・チャンは残忍なクメール・ルージュ支配下のカンボジアを生き延び、その後クメール・ルージュ時代の残虐行為を伝える歴史資料を保管する資料センター外部リンクを設立した。

縫製工のロジーナは2013年にバングラデシュのダッカで発生したラナ・プラザ崩壊事故で自らの腕を切断して生き延びた。ペーターは僧になった麻薬中毒のドラマーだ。殺し屋のジョナサンはロドリゴ・ドゥテルテ元フィリピン大統領(在任2016~22年)が主導し激化した麻薬撲滅戦争に加担した。

ウェンガー氏は動画の中で、耐え難い壮絶な体験やトラウマを経験したにもかかわらず、生き延びる強さをどうやって見つけたのかに焦点を当てて本を執筆したと語る。

カリン・ウェンガー氏はチューリヒ州バッサースドルフ出身。フリブール、アイルランド、ヨルダン川西岸地区のラマラのビルゼイト大学で社会科学(政治コミュニケーション学とジャーナリズム)を学ぶ。

スノーボードのインストラクター、バス運転手、アルゼンチンで女性ガウチョ(熟練の乗馬者)、銀行のインターン、メキシコのチアパスで平和市民キャンプでの監視役などを経て、2003年に独語圏の日刊紙NZZでインターンを経験。2004~09年まで中東でフリージャーナリストとして第2次インティファーダ(イスラエルの占領に対するパレスチナ人の抗議運動)後に暴力が激化していく様子や、衝突の絶えない地域での日常生活を報道した。2006年にはチューリヒジャーナリズム賞を受賞。イスラエル南部ネゲブ砂漠に住む遊牧民ベドウィンに関する報道が評価された。

余暇はできるだけ水の中か水の上で過ごし、現在は1年間のセーリングの旅に出ている。この旅の様子はブログ外部リンクで発信中。

独語からの翻訳:谷川絵理花

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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