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「キューブ」タイプのホテルが大人気 ( スイスめぐり-5- )

山に囲まれても都会的なデザイン swissinfo.ch

スイスで過ごすスキー休暇に、新しい波がやって来た。ホテルのコンセプトは「キューブ」。一体これはどんなものかって?まあ、これまでアルプスの休暇の象徴だった、山小屋風シャレーとはかけ離れたものであることは確かだ。

代金に含まれているのは、宿泊料や食事はもちろん、ビデオ・ゲームやりたい放題、世界で最も大きな「リビング・ルーム」使いたい放題などで、1泊59フラン( 約5600円 )から。こんなスイスで最初のキューブが、グラウビュンデン州のリゾート地サヴォニン ( Savognin ) にオープンした。

 「全て」が含まれているこのパックを利用するには、別に割安料金のスキー券を買わなくてはいけない。しかし何と言ってもこのお値段、2005年のオープン以来、キューブは大盛況で、ほとんど予約はいっぱいだ。

投資が大当たり

 キューブの魅力は値段とサービス内容だけではない。ちょっと変わったかっこいいデザインの建物、斬新な部屋の作り、カジュアルなレストランに、和気あいあいとした広いラウンジ、ナイトクラブ、無料のビデオ・ゲームもある。

 キューブのベッド数は約300床、オープン以来ほとんど満室の状態が続いている。キューブはグラウビュンデン州サヴォニンに新しくできた中サイズのリゾート・ホテルだが、この地方は元々、休暇用アパートや長期滞在用シャレーのメッカだった。

 しかし、地元にとって、このようなアパートやシャレーより、ホテルの宿泊客の方がずっと「おいしい」お客様だ。短期の旅行者は比較的多くのお金を地元に落とす。アパートやシャレーにやってくる人々は、毎日外に出るとは限らないが、ホテルにやってくる客はほぼ100%、毎日スキーをしたり地元の店をのぞいたりしてくれる。

 キューブはお隣のオーストリアで始まったものだ。それを見ていたサヴォニン地方のスキー・リフト会社は膝をたたいた。ぜひこのスイスでも同じことをやってみようじゃないか、というわけだ。そうでなければ、地元の経済の先細りは目に見えていたのだ。

 「私たちには、リスクをかけて設備を一新するか、それとも経済の停滞に合わせて規模を縮小するか、選択の余地は2つしかありませんでした」とスキー・リフト会社を経営するレオ・イェーカーさんは語る。

ホテルの中にコミュニティを創出

 「私たちはリスクを取って投資することを選択しました。ツアー関連会社から人を雇い、観光需要を開拓しました。そして『温かいベッド』を手に入れたのです」

 「全てを含んだパッケージ・ツアーを企画しました。村と山、すべての地元産業が一丸となって参加しました。観光客にとっては、主催しているのが観光会社であろうが、スキー・リフト会社であろうが、関係ないことですからね」

 ホテルの傍にあるスポーツ用品店では、スキー用品やスノーボード一式、スノー・バイクやそれらの講習レッスンまでそろう。

 スキー関連のパッケージがすべてそろう、というパックは近年スイスでは珍しくなくなってきているが、キューブが他と違うのは、ホテルの中にコミュニティがあることだ。

 レセプションを入ると大きなラウンジがあり、ホテルがオープンするとすぐに、村に滞在する人々のたまり場になった。

 よちよち歩きの子供たちは、いくつか置いてあるふかふかの四角いソファの上をジャンプして周り、少年少女たちはプレイステーションに熱中し、親たちは暖かいコーヒーで一息ついている。カフェからは吹き抜けの中庭が見え、コンクリートの坂をスキーヤーたちが行き来している。

ぜいたくでなくても理想的

 この坂は「ゲートウェイ」と呼ばれ、客室に続いている。客室は2人部屋と4人部屋があり、全てが大きくて温かい「ショールーム」に面する作りになっている。ここのガラスの壁に濡れたスキー板などを立て掛けて乾燥させるのだ。この場所は、夏にはマウンテン・バイク置き場に変身する。

 部屋は簡素に徹している。シャワーとトイレ、ベッドは奥まった所に隠されるように置かれている。洋服はベッドの下の木の箱に入れるようになっている。

 けれども文明の利器の存在も忘れられていない。携帯電話やコンピュータのラップトップがいつでも充電できるよう、電気のソケットが備えられている。

 快適なソファに身を沈めたかったら、部屋を出なければいけない。だからラウンジは、本を読みたい人やおしゃべりしたい人たちでいっぱいだ。

 「初めてここを訪れる人は、まず『ショールーム』を見て言葉を失いますね」とホテルのディレクター、クラウディア・シュナイダーさんはにっこりする。「当初、私たちは18歳から30歳までの、比較的若い層をターゲットにしていたのですが、実際にホテルがオープンすると、私たちが予想していたより平均年齢は高いものでした」

 キューブが広い年齢層に受けた理由は何だろうか。「30年前と比べて、中年層もずいぶん気が若くなってきていますからね」と前出のスキー・リフト会社を経営するイェーカーさんは答える。

 ラウンジでくつろいでいる人に聞いてみた。「私たちには10代の子供たちがいますからね、ここはぴったりなんです」と42歳の女性は言う。彼女の娘は今、目の前のクライミング・ウォールに悪戦苦闘している。足と手を使って、壁を登っていく遊びだ。「遊ぶものがいっぱいありますから、親はラウンジで飲み物を飲みながらリラックスして過ごせます。成長した子供を持つ若い親として、ここは理想的な場所なのです」

swissinfo、デイル・ベヒテル 遊佐弘美 ( ゆさ ひろみ ) 意訳

サヴォニンはグラウビュンデン州の中サイズの山岳リゾート地。
スキー滑降斜面は80キロメートル。1960年代から70年代にかけて、高速リフトと雪を作るインフラのパイオニアとして有名になった。
サヴォニンのキューブ型ホテルは世界で2つ目。最初のキューブは2年前にオーストリアでオープンした。

スイスのアルプス・リゾートで今、大きな問題になっているのは、ホテルと民間の長期滞在用アパートとの不均衡。後者の方が人気が高い。

このため投資家は、多くの山間地に山小屋風シャレーや長期滞在型アパートを建てて、高い値段で貸し出している。また、ホテルを長期滞在のアパートに改築することも多い。

業界用語で「ホテルのベッドが温かい」というのは、ほぼ満室でホテルの空室が少ないこと。通常、夏や冬のホリデー・シーズンにホテルの客室占有率は高くなる。比例してお土産ショップやレストラン、スキー・リフト会社など、地元に落ちるお金も多くなる。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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