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生活保護費カット、高額所得者の課税引上げ、世界遺産へのゴンドラ建設 各地の住民投票結果

物乞いをする人
Keystone

生活保護費の削減、高額所得者への課税引き上げ、物議を醸す「狩猟特別期間」、世界自然遺産へのゴンドラ建設―。スイスでは19日、国民投票に合わせて各自治体で住民投票が行われた。その重要なポイントと投票結果を紹介する。

ベルン/生活保護費の削減―否決

ベルンの住民投票では生活保護費を削減する州法改正案が、52.6%の反対により僅差で否決された外部リンク。特に若者、暫定的に受け入れた外国人受給者が対象で、労働市場への再統合に向けたインセンティブ強化も盛り込まれていた。

今回の法改正は、スイス社会保障会議(SKOS)外部リンクが規定した生活保護費を8~30%減額することを認めるもので、大きな議論を呼んだ。例えば独身者は現在977フラン(約10万7千円)が受給されるが、これが907フランに減額される。ベルン州政府は、受給者の再雇用・社会復帰を促し、全国的にも高い割合を占める州の社会保障支出が1000~2000万フラン削減できるとしていた。もし可決されれば、国内で初めてSKOSの規定額を下回る州となるはずだった。 

州議会も、低賃金の労働者よりも生活保護受給者の生活水準が上回る事態を避けるため、この法改正を支持した。その代わり、労働市場への統合促進に向けたインセンティブ強化も盛り込んだ。

左派・緑の党などはこの法改正に反対し、独自の対案を提出。生活保護費はSKOSの規定額に準じ、55歳以上の生活困窮者にはより手厚い保護を提供するという内容だった。社会保障支出をさらに年間1700~2800万フラン増額するこの対案も、56%の反対で否決された。

◆バーゼル/高額所得者へのより高い税金をー可決

バーゼル・シュタット準州外部リンクで、高額所得者への課税引上げが可決された結果は驚きをもって迎えられた。社会民主党青年部が提起したイニシアチブ(国民発議)は、有権者の52.71%(投票率は55.49%)が賛成した。

高所得者税~バーゼルの正当な所得税のために外部リンク」と題した同イニシアチブは、年収20万フラン(約2200万円)以上の住民について、最高税率をこれまでの26%から28%に引き上げる。 30万フラン以上の住民は29%とする。

◆グラウビュンデン/秋の「狩猟特別期間」廃止―否決

スイス東部グラウビュンデン州では9月と11月末の2回の狩猟シーズンがあり、5千頭以上のシカ、数千頭のノロジカが捕獲されている。これについて、自然保護団体やハンターたちが晩秋の「狩猟特別期間(Sonderjagd)」を廃止するよう求めたイニシアチブ(国民投票)を提起。必要数を大幅に超える署名が集まり投票に持ち込まれたが、結果は54.23%の反対で否決された外部リンク

イニシアチブの発起人たちは、秋と晩秋の2段階に分けて行われる狩猟のうち、11月末から12月上旬までの「狩猟特別期間」を廃止するよう訴えていた。晩秋の狩猟特別期間は、9月の通常シーズン中に捕獲されたシカの数が少なすぎると開かれる。

この狩猟特別期間はルール緩和が問題視され長年物議を醸してきた。例えば、期間中は、若い個体や母親を撃つことが許されている。反対派は、道徳・倫理的、さらに狩猟の面から見てもこのような期間の設置は避けるべきだと訴えていた。

2段階の狩猟シーズンは1989年、法律で制定された。イニシアチブはグラウビュンデン州政府、グラウビュンデン州議会のいずれも否決。州議会で賛成したのは120人中1人だけだった。

フリムス/世界遺産にゴンドラ建設―可決

ユネスコ世界自然遺産に認定された、グラウビュンデン州、ザンクト・ガレン州、グラールス州にまたがる広大なエリア「スイス・テクトニックアリーナ・サルドーナ外部リンク」はグラウビュンデン州側からのアクセスが容易になる。地元の同州フリムスで行われた住民投票で、新しいゴンドラ建設に2千万フランの借款を認める案が賛成多数で可決された。

ゴンドラは、フリムス上部の世界自然遺産エリアにある、レストラン併設のビジターセンターまで乗客を運ぶ。

ビジターセンターからは、世界遺産の雄大な自然や、岩の穴から太陽の光が差し込む「マルティンの穴」「チンゲルへルナ―」などの美しい景観が楽しめる。テクトニックアリーナ・サルドーナは地球科学上重要な「プレートテクトニス理論(プレート理論)」を立証する地形として、2008年に世界自然遺産に認定された。

今回の投票結果を受け、この地域は自然、文化、スポーツ、レジャーを楽しむ旅行者に魅力的なスポットとなりそうだ。ゴンドラ建設費は8千万フランの見込み。地元のレジャー・観光企業 Weisse Arena外部リンクが2千万フランを寄付。4千万フランは、銀行の融資と寄付で賄う。

(独語からの翻訳編集・宇田薫)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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