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直接民主制の専門家に聞く 「日本も国民投票で主権者の意思確認を」ジャーナリスト今井一さん

Votes in Switzerland
(Keystone / Gian Ehrenzeller)

スイスでは、国の課題を有権者が投票して決める直接民主制が浸透している。国民の意思をダイレクトに反映するこの制度は、日本でも可能なのだろうか?衆院選で憲法改正の是非を問う国民投票の議論が取り上げられる中、国内外の住民投票や国民投票に詳しいジャーナリスト、今井一さんにインタビューした

今井さんは1989年秋、ポーランド、チェコ・スロバキアなどで起きた東欧連鎖革命を現地で取材。その後のバルト3国で行われた旧ソ連からの独立の是非を問う国民投票、旧ソ連での連邦存続の是非を問う国民投票なども追いかけた。

96年8月に新潟県巻町で行われた、町有地を東北電力の原発建設用地に売却する是非を問う日本初の住民投票を、市民運動の段階から継続して取材。翌月には、沖縄県で「米軍基地の整理・縮小、日米地位協定の見直し」をめぐる住民投票をリポートした。巻町を皮切りに、40件に上る住民投票を取材した人物だ。

スイスインフォ: どのようにしてスイスの直接民主制のことを知りましたか?どのような経緯で2004年2月スイスで行われた国民投票を取材したのですか?

今井一: 89年のソ連・東欧連鎖革命のプロセスの中で、ソ連、ロシア、バルト3国など各地の現場で国民投票を見聞きし、日本では一度もやったことがないこの制度を1冊の本にまとめようと考えました。色々調べる中で、スイスの直接民主制の制度と事例を知り、スイスの国民投票の現場を見聞きしたいとずっと思っていました。

2003年以降、日本では「憲法改正国民投票法」の立案・制定の動きが始まったのですが、与党案があまりに拙劣で、これはスイスのルールを詳細に調べた方がいいと考え、04年2月の国民投票に合わせ現地入りしました。市民に話を聞くと、毎回、解説書を読み投票に参加するのは面倒だが、この制度は手放したくないという声が大多数でした。

スイスインフォ: スイスの直接民主制は、日本でどのくらい知られているのでしょう?日本にはなぜ直接民主主制が浸透しないのでしょう?

今井: 大多数の日本国民は、民主主義といえば、誰かを選び、その人に決定や執行を任す間接民主制しか知らない。中学、高校でも直接民主制についてはきちんと教えていない。スイスの直接民主制についてきちんと知っているのは、僅かな数の専門家・学者と教え子の学生のみ。一般市民で少しでも知っている日本人は、ほとんどいません。

今回の総選挙で(リベラル系を自称する)立憲民主、共産、社民の野党3党はこぞって国民投票の実施反対(憲法9条改正案の発議阻止)を主張しています。国民の7割が国民投票の活用に賛成しているのに、議員や知識人や左翼、そして自称リベラルの人々の衆愚観が根強く、制度化に向けた法的な動きはありません。そして、未だに一度も国民投票が行なわれていないという、世界でも珍しい国です。

スイスインフォ: 日本でもスイスのように、憲法改正以外の分野についても国民投票にかけることは可能なのでしょうか?

今井: 日本で法的拘束力を持つ国民投票を実施するためには、国会を国権の最高機関と定めた憲法41条をはじめいくつかの条項を変える必要があります。日本は1946年の憲法制定以来一字一句条文を改めておらず、仮に憲法41条などを改正してから原発なり安保なりの国民投票をやるとなると、実施までに10年~20年以上はかかるでしょう。

だから次善の策として、イギリスがEU離脱の是非で実施したような法的拘束力のない諮問型の国民投票をやるしかない。この国民投票では法的拘束力はありませんでしたが、政府は「離脱」を選択した国民の投票結果を尊重して離脱手続きを進めています。法的拘束力はなくても、政治的拘束力はあるということです。

日本でも、諮問型なら「憲法改正」以外の一般的な案件でも現行憲法下で国民投票を実施することはできます。例えば、既に制定されている憲法改正国民投票法とは異なる原発・国民投票法を1980年のスウェーデンのように制定すれば、原発再稼働の是非を国民投票で主権者に問うことが出来ます。ですが、日本では、いわゆる「リベラル」を自称する人の中に「国民投票は衆愚を招く」とか「間接民主制を壊す」と言って憚らない人がいる。民主主義とか国民主権というものへの理解が浅いのですね。

直接民主制を専門とするジャーナリスト、今井一さん

(Hajime Imai)

スイスインフォ: 「国民投票は衆愚を招く」と言う人がいる中で国民投票を実施したとして、国民の納得の行く結果が出ると言えるのでしょうか?

今井: 地方政治では、「議会・首長・議員のリコール」や「一地方自治体にのみ適用される法律の承認」は住民投票が法制化されています(地方自治法、憲法95条)。一般的案件に関する住民投票は、住民投票条例を各自治体が制定して行うもので、法的拘束力はありません。ただし、2015年に大阪市で実施されたいわゆる「都構想」の是非を問う住民投票は大都市法に基づき、結果は法的拘束力のあるものでした。

日本では、「民主主義」というものをさらに深く学び理解することが、急速に進むとは思えません。それでも、417件以上の住民投票がこの21年で行われているのは、一部のインテリや活動家が反対、否定しても、それを吹き飛ばすぐらい直接民主制の意味や意義を理解している市民がいま、地方自治のレベルで増えているということです。各地の住民投票を取材して私は市民の成熟ぶりに驚かされています。

私はそこに希望を見出し期待しています。一部のインテリの「直接民主制への批判」を無視し、日本国民が国民投票というものに魅力を感じる日は必ずやってきます。

スイスインフォ: 日本の民主制のどこに見直しが必要だと思われますか?

今井: 地方自治体は制度として「間接民主制」と「直接民主制」の両方が整っていますが、国政で直接民主制が導入されているのは「憲法改正の是非を問う国民投票」のみです。

国政においても、原発や安保など憲法以外の一般的な案件に「直接民主制」を導入すべきです。間接民主制と直接民主制の両輪で政治を進めるために、スイスやイタリアを参考に憲法を大幅に改正すべきだと考えます。

スイスインフォ: 今井さんは、原発に関する国民投票を呼びかけています。日本国民は福島原発事故以降、原発に高い関心がありますが、たとえ原子力エネルギー政策に関する国民投票を実施しても法的拘束力がありません。それでも実施したいと思うのはなぜですか?

今井: たとえ法的拘束力がなくとも、国の命運を左右する特に重要なことは国民投票にかけようと主権者の側から主張することが必要だと思います。何より主権者が直接意思表示することを望んでいるのだから、私たちの政治・行政上の代理人である政府や国会は国民投票を実施し、主権者の意思を確認するのが当然だと考えます。それが「原発・国民投票」を呼びかける第1の理由です。

第2の理由は、一部の人を除き、私たちは国民投票をして初めて、案件について学習し議論するようになるからです。学習して賢くなってから実施を決めるべしという人がいますが、順番が逆で、大半の人は実施するとなって初めて本気で学び考えるものです。

そして主権者は投票の結果責任を自分たちで取るべきです。自分が正義で最良だという選択が少数になったり、多数を占めたにも関わらずそれが政治・行政に正しく反映されなかったりしても、国民投票は民主主義の大切なツールとして活用すべきです。

間接にせよ直接にせよ、民主主義は一直線に前へ進まず、ジグザグに進んだり、時には一時的に後ろに向かって走ったりするものです。それでも私たちは民主主義を否定したり棄ててはいけません。

今井一(いまいはじめ)

ジャーナリスト。[国民投票/住民投票]情報室事務局長
1954年、大阪市生まれ。大学での専攻は哲学で研究テーマは「自由論」。ポーランドで独立自治労組「連帯」が誕生した1981年以降、ソ連・東欧の現地取材を重ね、民主化の進行とソ連を盟主とした社会主義共同体の崩壊を見届ける。
96年からは、新潟県巻町、同県刈羽村、沖縄県、岐阜県御嵩町、沖縄県名護市、徳島市、岐阜県米原町、岩国市など各地の住民投票を精力的に取材。
04、05年には、スイス、フランス、オランダ、12年にはスウェーデン、リトアニアへ、16年にはイギリスへ赴き、国民投票の現状を調査。
06年~07年には、衆参両院の「憲法調査特別委員会」に5回にわたり参考人及び公述人として招致され、国民投票のあるべきルールや諸外国の実態などについて陳述する。

主な著書

『CZEŚĆ(チェシチ)!──うねるポーランドへ』(朝日新聞社)[ノンフィクション朝日ジャーナル大賞受賞]
『大事なことは国民投票で決めよう!』(ダイヤモンド社)
『住民投票──観客民主主義を超えて』(岩波書店)
『「憲法九条」国民投票』(集英社)
『「原発」国民投票』(集英社)
『国民投票の総て』([国民投票/住民投票]情報室)
など多数。

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