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新型コロナ抗体検査 スイスの転換点なるか

Forscherin im Labor
精度100%の抗体検査が4月末までに利用可能になる見込みだ © Keystone / Gaetan Bally

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン発見には数カ月、おそらく数年はかかる――世界中の研究者はそう見ている。その一方で、一日も早く日常生活に戻れるよう、科学と政治は何等かの道を見つけなくてはならない。早ければスイスで5月初めに使用可能となる抗体検査は、その答えになるだろうか?

COVID-19と闘うワクチンと特効薬を待つ間、科学界は第3の手段として「診断」にも焦点を当てている。これには、のどや鼻の粘膜を採取する検査の他に、抗体検査(血清学的検査)が含まれる。

どのような検査か

私たち人間は体が持つ免疫システムを使って病気と闘っている。病原体が体内に侵入するとそれに反応して抗体を作り、ウイルスに感染した細胞を破壊し始める。こうして感染症を克服すると、その原因となったウイルスの「記憶」が血液に残る。同じウイルスに攻撃されても、もう発症に至らないか、あるいは病状が軽くて済むようになるのはそのためだ。この記憶が我々の体に免疫をつける「抗体」だ。

血清学的検査を行うと、血清中に抗体があるか確認できる。しかし体内に抗体が作られるまでは数日から数週間かかるため、この検査は今感染しているかの判断には適さない(それにはのどや鼻の粘膜を取り出す塗抹検査が行われる)。体が病原体を解読できたかを調べるこの検査は、とりわけ無症状で感染に気づかなかった人に大きな意味を持つ。

つまり血清学的検査を行えば、ウイルスに感染して治った人を特定できるため、誰がCOVID-19に対して免疫を持つかを割り出せる。これは政府がこの先数週間~数カ月の緩和政策を決定するにあたり、重要なベースとなる。今後も基本的人権に介入するほど厳しい制限を続けるべきか、それとも(細心の注意を払った上で)日常生活に戻れるのか――。 

血清学的検査

「検査は早くてシンプル」とジュゼッペ・トグニ氏は説明する。ウイルス由来の抗原(病気を引き起こす原因になる物質)を含む溶液が入った試験管に、機械で血清を滴下する。

短い潜伏期間を経た後、機械が自動的に結果を読み取る。発色反応があれば「陽性」で、血清中に抗体が存在する。全自動の機械が1時間に400件の検査を行う。必要に応じ24時間体制で稼働も可能。

スイスにおける開発

同様のテストは、世界中の研究所で開発が進んでいる。これは時間との戦いだ。生物医学研究の本拠地・スイスでも、最前線の取り組みが行われている。

既にいくつかのテストは入手可能だが、精度は高くても85〜90%だ。ジュネーブ州コペットにあるユニラボの中央研究所のジュゼッペ・トグニ科学所長は、これでは不十分だと言う。

「このテストは、結果の確実性がとても重要だ。現在、私たちの研究所では抗体の有無を精度99%で特定できる。だがそれでも不十分だ。この試験は100%確実でなくてはならない。誤った判定結果が誤った安心感を与えては危険だからだ」

そしてあと数週間で結果を完全に信頼できる検査が完成するという。国際タスクフォースを率いるトグニ氏は「数日前までは、そのタイミングを確定する自信がなかった」と認めつつ、「これまでの研究結果から、精度100%の血清学的検査が4月末までに完成する」と断言。同検査は、トグニ氏のチームがジュネーブ大学とチューリヒ大学とで共同開発を行っている。

検査結果を100%確実にするために、2段階チェックを行う。「簡素化のために、陽性結果が出た人が本当に陽性かどうかをチェックし、陰性だった人を確実に陰性と確認する必要がある。これは取るに足らないことのようだが、本質的な問題だ」(トグニ氏)

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免疫証明書

検査で血液中に抗体を見つけることが大前提だが、抗体ができれば本当にウイルスに対して免疫がつくのか判断することも重要だ。トグニ氏は次のように説明する。「これらの抗体に『無毒化』する力があるかどうかを知る必要がある。体を病気から守る抗体がある一方で(一度作られると、病気に対する免疫力がつく)防御を保証しない抗体もある。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に対して抗体が効かないのがそのよい例だ」

そのため、COVID-19の抗体がウイルスを無毒化すると断言するのはまだ早いという。「最終的な研究結果がまだ出ていない。だがこれまでの経験から、抗体には保護効果が期待できる。新型コロナウイルスは、既知の他のコロナウイルスと非常に似ているためだ。私はそう確信している」(トグニ氏)

つまり症状の有無にかかわらず、感染を克服した人はウイルスの脅威から保護される。これは免疫力の証明書を取得するようなものだ。

科学と政治の連携

免疫を獲得した人を確実に特定できれば、その人たちの社会復帰が可能になる。他人への感染リスクも最小限に抑えられる。

「だが問題は、別のところにある」とトグニ氏は強調する。「誰がこの検査を受けるのか検証する必要がある。国民全員の検査を行うのは無意味だ。信頼できる調査によると、たとえば(感染の多かった)ティチーノ州でも感染率は5~10%に過ぎない。全員を検査するのは無理だ」

では、誰から検査すべきか?「第一に、医療従事者。次に社会の維持に不可欠な職業を持つすべての人、最後に他の部門へと拡張すべき」とトグニ氏は断言する。

その反面、「コロナ渦中に人々の間で、とりわけ異なる世代間で強い連帯が生まれた。検査を受ける人と受けられない人を振り分ければ、この連帯は必然的に消滅するだろう」と注意を促した。

早ければ抗体検査は、スイスでのCOVID-19危機がピークを過ぎると予測される4月下旬~5月上旬に利用可能になる。検査を有効に活用できるかどうか、あとは政治家の腕にかかっている。

(独語からの翻訳・シュミット一恵)

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