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スイスの美術館 女性の作品がいまだに少ないのはなぜ?

絵画
国外の美術館とは異なり、大半のスイスの美術館は常設展示のジェンダーバランスを改善していない Keystone / Peter Klaunzer

swissinfo.chが2年前に行った調査で、スイスの美術館に展示される女性アーティストの作品が著しく少ないことが分かった。そのジェンダーバランスは今もあまり変わっていない。

この夏、スイスの大きな美術館を訪れたいと思っているあなた。ベルンの美術館ではアウグスト・ガウル、パウルクレー・センターではアドルフ・ヴェルフリ、チューリヒ美術館ではゲルハルト・リヒターの作品を鑑賞できる。

女性アーティストたちの作品が目当てなら、バーゼル美術館まで足を延ばす必要がある。ここではゾフィー・トイベル・アルプ、カーラ・ウォーカーの作品展、今秋にはカミーユ・ピサロ、タシタ・ディーン、ルース・ブキャナンらの作品展が予定される。

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スイスの美術館で女性の作品が少ないワケ

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの美術館では女性よりも男性の作品が多く展示される。スイスインフォとフランス語圏のスイス公共放送(RTS)の共同調査によると、2008~18年では女性の作品はわずか26%だった。

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スイス7大美術館(swissinfo.chが一昨年実施した代表調査で定義)のうち、過去2年でジェンダー平等のプログラムを発表したのはバーゼル美術館だけ。同美術館は2つのコレクティブを含め女性の個展7件、男性の個展11件を行った。swissinfo.chは7月、国内10大美術館のウェブサイトで、女性アーティストのプレゼンスをチェックした。

ルツェルン美術館

ヴィヴィアン・ズーター/回顧展(11月6日~2022年2月13日)

ヴォー州立美術館

・サンドリーヌ・ペルティエーThe Crystal Jaw(6月18日~8月29日)

・アロイーズ・コルバスーLa folie papivore(10月22日~2022年1月23日)

バーゼル美術館

カーラ・ウォーカー A Black Hole Is Everything a Star Longs to Be (6月5日~9月26日)

アールガウ美術館

フォーカス・コレクション:無名の写真のゾフィー・トイベル・アルプ(3月27日~10月24日)

ザンクト・ガレン美術館

・マルティナ・モルガーー Lèche Vitrines(9月17日~2022年3月6日)

・マリー・ルンド(10月30日~2022年3月27日)

ズシュ美術館

・ラウラ・グリジ The Measuring of Time(6月5日~12月5日)

ゾロトゥルン美術館

カスリン・ゾンターク ichduersiewirihrsie(6月19日~9月12日)

ル・ロックル美術館

・モーレン・ブロドベック Anima(5月8日~9月26日)

・アナスタシア・サモイロヴァ Grand Canyons(5月8日~9月26日)

・エスター・ボンプロン Flügelschlag(5月8日~9月26日)

チューリヒ美術館

ロレンザ・ロンギ Minuet of Manners(6月12日~9月5日)

ハウス・コンストルクティブ美術館

ドラ・マウラ―(6月10日~9月12日)

ベリンツォーナ市立美術館

葵・フーバー・河野 Acqueforti, acrilici, arazzi(7月29日~9月5日)

いくつかの美術館は、コレクションなどで女性の作品数が十分でないことについて、父親や夫の陰に埋もれがちな女性アーティストを発掘する時間がなかった、と説明した。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)による休館なども、女性アーティストのプレゼンス促進を阻んだ。美術館はその時期、動画配信サイトYouTube(ユーチューブ)上のバーチャル鑑賞や、ソーシャルメディアを使った美術館チームとの交流など、一般市民とのつながり維持に力を注いだ。

女性のための小さな一歩

2019年の調査後、いくらかの動きがあった。美術館業界の団体や関係者がジェンダー平等の議論を始めたほか、美術館に対する世論の圧力も高まった。しかし、変化はささやかだ。2019年にル・ロックルの美術博物館で行われた女性専用のプログラムだけが、暗闇を照らす一筋の孤独な光だった。

チューリヒでは、匿名のアーティスト集団がメディアや画廊で、女性アーティストへの差別糾弾を始めた。特にやり玉に挙げられているのは公金が使われる分野だ。例えば市内公共スペース向け、チューリヒ美術館の新施設のためのアート買収などが対象になっている。

1980年代の米国の有名なゲリラ・ガールズの抗議運動を彷彿とさせるこのグループは、ゴリラのマスクを被る代わりに非常に象徴的な名前の架空キャラクター、フルダ・ツヴィングリを生み出した。チューリヒの2大大通りであるオイロパレー、バーンホフ通りを歩き、ソーシャルメディアで批判を流している。

スイスのフランス語圏では、美術史家のマリー・バギ氏が、女性アーティストの認知度向上を図るため「Espace Artistes Femmes(女性アーティストに空間を)」という組織を立ち上げた。今のところはバーチャルでしかアクセスできないが、11月にはローザンヌに物理的なスペースをオープンさせる。

スイス北西部にある応用科学芸術大学のチュス・マルティネス芸術研究所長は「少しのプレッシャーがある今、(女性対象の)個展が増えたり、女性美術館長の需要が増えたりしている」と言う。「しかし、これは変わるかもしれない。人は監視の目を感じなくなると、後ろ向きの行動を取り始める可能性がある。これは単なるトレンドにしてはならない。社会が永続的な変化を求めなければいけない。こうした選択が自然になるまでは、クオータ制が不可欠だと思う」と訴える。

文化セクターの男女共同参画推進は、昨年初めに承認された、2021~2024年の文化政策に関連するスイス政府のメッセージにも刻まれている。最初のステップは、より詳細な統計の収集だ。スイスの芸術評議会プロ・ヘルヴェティア委託の事前調査では、不平等が美術館に限らないことが最近、改めて確認された。同評議会は「スタート・ダイバーシティ」というワークショップを立ち上げ、自ら男女平等を促進している。

今のところ、連邦文化局(FOC)の美術館に対する財政支援には「平等条項」がない。同局の責任者イザベル・シャソ氏は「連邦文化局は、美術館への出資に付随する性別のプレゼンスに関し、補足の指令は出していない。しかし、これは将来的に注意すべき点であり、美術館の現状をよりよく理解できる前述のデータにアクセスできるようになってから、再度取り上げることになるだろう」と話す。

国際的な例

女性アーティストのプレゼンスについては、他国でも議論されている。カナダ国立美術館は、多様性の促進に向け2つのポストを新たに設けた。スペインのプラド美術館は、女性アーティスト作品の展示を増やすため、コレクションを見直した。だがそれでもまだ少数派だ(男性130人に対し、女性は13人)。米ボルティモア美術館は昨年、女性アーティストの作品だけしか購入していない。

09年に伊フィレンツェで設立されたNGO「Advancing Women Artists」は、14年間にわたる調査、修復、展示を経て、イタリア国内の美術館倉庫にある作品2千点の確認作業が終了したところだ。フランスでは、パリのポンピドゥー・センターの元キュレーター、カミーユ・モリノー氏が14年にAWAREを設立。この団体は、19世紀と20世紀の女性アーティストの作品に関する無料コンテンツを制作し、プレゼンスの向上につなげる。

視点の変化

目に見えるところにない、というカードはじきに切れなくなるだろう。議論は質の問題に戻るのだろうか。マルティネス氏は「私たちの目と感覚を新しい質に適応させなければならない」と指摘する。「白人男性が質だと捉えるものに、私たちが反応することは避けなければならない。でも、我々にとっての質を理解することもまた、白人男性次第なのだ。私たちに言えるのは『この女性たちは私たちが求める質を持っていない』か、『この男性は私たちが提供する価値観や資質を理解していない』かだ」

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(英語からの翻訳・宇田薫)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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