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コロナワクチンの特許、一時停止すべき?ジュネーブを中心に議論

国際非政府組織(NGO)「国境なき医師団」もジュネーブの世界貿易機関(WTO)本部で、コロナワクチンの特許保護の免除を求めるキャンペーンを行っている Keystone / Martial Trezzini

新型コロナウイルスのワクチン技術の特許について、保護義務の一時的免除を要求する動きが広がっている。スイスなどの富裕国が抵抗する一方で、ワクチン獲得競争から取り残されている発展途上国はジュネーブの国連機関で圧力を強めている。

このコンテンツは 2021/04/15 08:30
Jamil Chade

史上最大のワクチン接種キャンペーンによって、昔からの議論が再燃している。世界的な危機において、技術の独占は理にかなっているのか?つまり、何百万人が亡くなっても知的財産を守る必要があるのか、という議論だ。

インドと南アフリカは昨年10月、世界貿易機関(WTO)で、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の抑制に役立つすべての製品について、「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」が定める特許の保護義務を一時的に免除する他のサイトへを提起した。ワクチンの他に、検査薬、医療機器、将来の治療法が対象となる。もし、同案が採択されれば、免除は義務になる。

世界中の研究所がワクチン技術を利用して、ジェネリック医薬品(後発薬)を生産できるようになるという考えだ。同案の提案国によると、ワクチンのコスト削減と世界的な生産拡大が可能になる。

同案は数カ月の間に、100以上の国の支持を集めた。しかし富裕国は、パンデミックはWTOルールを破る理由にはならないとして反対している。交渉は続いているものの膠着状態に陥っている。

続く圧力

その一方で、中国とアフリカ諸国が世界保健機関(WHO)で、ワクチンの技術移転と国内生産を強化するための措置を盛り込んだ別の決議案を提起した。swissinfo.chが入手した決議草案によると、署名国には特許を所有する企業に技術を移転するよう少なくとも道義的圧力を掛ける義務がある。

特許権者は企業なので、実際には難しいかもしれない。しかし、スイスの非政府組織(NGO)のパブリック・アイが指摘するように、コロナワクチンに携わる企業のほとんどは政府から補助金を受け取っている。同NGOの最近の調査によると、世界中の産業界がワクチン開発のために受け取った財政的リスクのない資金は、千億ドル(約11兆700億円)を超えるという。

WHOの決議案も交渉中だが5月のWHOの世界保健総会で採決される見込みだ。欧州連合(EU)諸国と日本がすでに、いかなる技術移転も自発的でなければならないという条項を強く要求している。同決議案に関するスイスの立場はWTO交渉で採った路線と同じだ。しかし、最終的な立場は提出される決議の文言による。

スイスの抵抗

富裕国の中でスイスだけが反対しているのではない。特に米国が特許保護の一時停止を求める動きに抵抗している。しかし、伝統的に貧困の撲滅と戦い、医療へのアクセスを擁護してきたスイスの立場が特に発展途上国の注目を集めた。コロナワクチンについては、特許を放棄するという考えをスイスは頑なに拒んでいる。

先月10日に行われたWTOの会合は、このようなスイスの立場を明確に映し出すものとなった。スイスの主張はこうだ。新型コロナワクチンは複雑で、新しい製造工程や設備を必要としたり、既存の設備を広範に別の目的で利用したりする。現行の特許制度だけが、ワクチンの開発者と製造者が協力するインセンティブを与え、支援や技術・ノウハウの移転を可能にする。だから、特許保護の一時停止がすぐにコロナワクチンの世界的な供給につながると考えると「誤解を招く」と述べる。

swissinfo.chに寄せられた声明の中で、スイス連邦政府は、「医療へのユニバーサルアクセスを国際的な場で常に主張してきた」としたうえで、「パンデミックに対処するためには、国、国際機関、大学、研究機関、製薬会社、NGOなど、すべての利害関係者が緊密かつ円滑に協力する必要がある」と主張した。

「これが、インドと南アフリカのWTOでの提案をスイスが拒否する理由だ」と述べ、「特許権が保護されることで、政府の資金援助に加えて、研究開発に必要な民間の投資が確保される。だから、確立された国際的な法的枠組みを停止することは誤ったアプローチだとスイスは確信している」と説明した。

連邦政府にとって、このような立場は世界的な対応に関与していないことにはならない。「スイスは当初から、将来の新型コロナウイルスワクチンがすべての国に公正に分配されるようグローバルな解決策に関与してきた」。そして、現在の危機への対応策は、コロナワクチンの共同調達・公平な分配を目指す国際的な枠組み「COVAX(コバックス)」(本部ジュネーブ)の強化だと連邦政府は強調した。

製薬業界の立場を反映

連邦政府の立場は製薬業界の立場にも反映されている。ジュネーブに本部を置く国際製薬団体連合会(IFPMA)のトーマス・クエニ事務局長は「(グローバルな対応は)非常に困難な挑戦だが、これまでのところ、予想以上に上手く進んでいる」と述べた。「しかし、今後は、富裕国が連帯して他国を支援することがカギになるだろう」

同氏によると、「知的財産権がパンデミックへの対応を妨げているという主張がある」が、このパンデミックで国内外の知的財産(IP)の枠組みを弱めることは逆効果だという。「研究開発やアクセスを加速させることにはならず、これまで十分に機能してきたIP制度への信頼を損なうことになる。IP制度のおかげで、産業界は学界、研究機関、財団、その他の民間企業と安心して提携し、世界の多くのアンメット・メディカル・ニーズ(治療法が見つかっていない病気に対する医療ニーズ)に対処するために医薬品の研究開発を大幅に促進することができた」と同氏は語った。

道義的侵害

WHOと国連合同エイズ計画(UNAIDS)は当初から、特許の保護義務を免除し、技術共有の新しいモデルを摸索するという提案に支持を表明してきた。両機関は昨年10月に行われたWTOの会合で、「新型コロナの予防・診断・治療に関する医療技術へのアクセスと移転を容易にするためには、(特許の保護義務の)免除が、取引費用が削減し、研究開発サイクルやサプライチェーンの主要な障壁を撤廃することになるだろう」と述べた。

UNAIDSは、国際社会は初期のエイズ対策の「つらい教訓」を繰り返してはならないと主張した。当時、比較的豊かな国の人々には医薬品が手に入る一方で、発展途上国の何百万の人々は取り残された。「これは人権の問題だ。各国政府が通常の実務のように現在のパンデミックに対処することはできない」

半年経っても議論は平行線のままだ。WHOのテドロス事務局長は、ワクチンの不公平な分配を「道義的侵害」と呼び、各国と産業界で行き詰まりの打開策を見つけるよう提案している。

(英語からの翻訳・江藤真理)

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