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連邦議会、秋の会期の収穫は…

首都ベルンの連邦議会前広場は選挙運動でにぎやか。総選挙は10月23日に行われる Keystone

9月30日に幕を閉じた連邦議会の秋季会期。予想外に大差で可決された脱原発のほか、大手金融機関の自己資本規制の引き締めや新しい軍用ジェット機の購入などが決定した。一方、アメリカとの納税問題は決着を見ないままだ。

これは総選挙前の最後の会議。選挙戦の色が濃く表れるものになった。

 その気配は議事堂の内外で感じ取られた。議事堂前広場には巨大な野外テレビスタジオが設置され、ロック、ラップ、フォークミュージックなどの音楽が流されるとともに、ワインやチーズの試飲試食会、そして政治家のインタビューが行われた。

 議事堂内に目を向けると、演説者のリストは普段より長く、通常は事務的に進む全州議会(上院)での審議でも党の政治路線を主張する議論が長く尾を引いた。そして、やっかいな議題は次の会期に持ち越されることになった。

銀行守秘義務への風穴を回避

 スイスの銀行を利用したアメリカ人顧客の脱税問題は、複数の銀行の間でこれからもまだエスカレートしそうだ。米財務省はアメリカ人の脱税をほう助したという理由で、スイス銀行第2大手のクレディ・スイス(Credit Suisse)やチューリヒ州立銀行(Zürcher Kantonalbank)などを非難。スイスの捜査協力を身元の明らかな個人のみでなく、氏名などの不明な集団にも適用するよう要請している。つまり、銀行守秘義務のさらなる緩和を求めているというわけだ。

 現行の租税条約は集団の照会にまで言及していない。争いがエスカレートするのを避けるため、スイス政府は連邦議会に対し、迅速な条約改正を求めた。

 しかし、連邦議会はこの火消し作業を拒み、この議題は結局10月23日の総選挙後に開催される冬季会期に持ち越されることになった。

 中道派のキリスト教民主党(CVP/PDC)党首のクリストフ・ダルベレ氏は、「政治家はもう、銀行の怠惰のためにテレビカメラの前に立つことにうんざりしている」と心中を明かした。他方、左派政治家は中道派に対し、「有権者を意識して結局また銀行機密に風穴を開けまいとしている」と批判している。

 大手銀行の資本率引き上げ

 一方、金融業界を支えている重要な銀行の自己資本率引き上げを求める政府の法改正案は、長いやり取りの末、可決にこぎつけた。これにより大銀行は将来、全体で19%の自己資本を確保し、リスクの伴う売買に備えることになった。うち10%は自己資本か利益繰越金で、残りの9%はいわゆるココ債(偶発転換社債)で支えることができる。危機の際には、このココ債を自己資本に転換する。

 スイス国立銀行(SNB/スイス中銀)のほか、現在はUBSとクレディ・スイスがその対象となっている。

脱原発へ

 全州議会が意外にも明白な結論を出したのが原子力事業からの撤退だ。同議会のエネルギー委員会は討議の前日まで多数の同意を得られる解決策を模索していたことから、脱原発可決は困難だと予想されていた。

 最終的に、原子力研究は今後も継続され、技術利用の禁止もないことを明記することで原子力推進派も納得。脱原発という方向が定まった。次に原子力エネルギー法の改正が待たれる。

夫婦別姓

 夏の会期で国民議会が可決した夫婦別姓は、全州議会も通過した。これによって、男性も女性も婚姻後それぞれの姓を維持できることになった。また、2人の姓のうち一つを共通の姓として選択することもできる。

 夫婦別姓を選択した場合、将来生まれる子どもの姓をどちらにするかについては婚姻時に決めなければならない。しかし、第1子の出産後1年以内であれば変更も可能だ。

 これまで女性は旧姓を維持し、夫の姓と両方を並べて自分の姓とすることもできた(ハイフンなし)が、今後このダブルネームは禁止となる。一方、役場の書簡などで使用されるハイフン入りのダブルネームはこの先も使用を認められる。

 離婚して夫の姓から旧姓に戻りたいという場合、これまでのように申請する必要はなくなり、手続きが簡易化される。また、夫婦の一方が死亡した際にも姓を戻すことができる。

軍へのプレゼント

 スイス軍は、人口との割合で比較するとヨーロッパでは抜きん出て大きい存在だ。これは今後も変わらない。連邦議会は軍の年間予算を最終的に6億フラン(約506億円)引き上げ、50億フラン(約4214億円)に増額した。人員は、現在より35%少ない10万人に確定。スイス政府が2010年秋に公表した年間報告では、8万人で十分だとされていた。

 連邦議会はまた、22機の戦闘機購入も可決。もともとこれらのジェット機の購入費は特別借款で対応することになっていた。その場合は任意のレファレンダムが必要となり、おそらく国民投票にまで持ち込まれるとみられていた。

 しかし、議会は通常の軍備計画の枠内で数年間に分けて購入費を支出することにしたため、レファレンダムや国民投票の可能性は無くなった。

(独語からの翻訳・編集、小山千早)

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