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ベテラン宇宙飛行士が語る 人類は、いつの日か必ず火星に到達する

NASAによる火星有人宇宙船の構想図。高度200Kmで降下モジュールを放出し、宇宙飛行士を火星表面へ着陸させる

NASAによる火星有人宇宙船の構想図。高度200Kmで降下モジュールを放出し、宇宙飛行士を火星表面へ着陸させる

宇宙に5カ月間滞在したロシアのエレーナ・コンダコワさん。月面を歩いた米国のチャールズ・デュークさん。それから現在スイスでただ一人の宇宙飛行士クロード・ニコリエさん。3人の宇宙探検家がベルンに招かれ、人類の火星到達への展望を語った。胸躍らせる有人火星探査だが、それは困難と危険を伴い、実現までにはまだ時間がかかりそうだ。

  何のために火星に行くのか?ニコリエさんは、人間の好奇心を満たす目的以外に、少なくとも三つの理由があると言う。魅惑の世界の解明、地球外で現地の資源を使って生きる可能性の模索、そして火星移住という未来の道が開けるかの調査だ。

 4月9日、宇宙部門に力を入れるスイスの研究機関CSEMの創立30周年記念式典「マーズ・イベント」で、マリオ・エルクーリ社長が語ったように「人類は地球という『揺りかご』に永遠に住み続けることはできない」。式典のメインテーマは火星。3人の宇宙飛行士を含め、産業・学術・政界から250人が出席した。

 だが現在、各国の宇宙開発機関による最優先目標は火星ではない。2004年米国のブッシュ前大統領が、再び月に人を送り込み月面基地から火星への到達を目指す「コンステレーション計画」を発表したが、後任のオバマ大統領は2010年、予算超過を理由に計画を打ち切った。米航空宇宙局(NASA)は火星到達に伴う技術的・人的課題の解決に向け研究開発を続けるとしながらも、火星を「遠い目標」と位置づけている。

 一方ロシアも、火星到達に向けて独自に開発を進めている。コンダコワさんは、祖国が欧州諸国の協力を得ていつの日か火星へ出発するのを夢見ていると語った。また、欧州宇宙機関(ESA)の技術部長フランコ・オンガロさんは「技術的な面では、人々が思っている以上に火星到達の実現へと近づいている。むしろ欠けているのは、任務を遂行する意欲と資金だ」と強調する。

(CSEM – Joëlle Neuenschwander)

死の光線

 火星探査ミッションの所要期間は、その飛行プランにもよるが、火星滞在を含め640~910日間と考えられている。その間、限られたスペースに閉じ込められ、飛行のストレスや何が起こるかわからない恐怖にさらされる宇宙飛行士たち。人間関係をうまく保ちながら、どんな状況下でも冷静さを失わない精神が要求される。

 1994~95年、宇宙ステーション「ミール」で168日間を過ごし、宇宙に長期滞在した初の女性宇宙飛行士となったコンダコワさんは、飛行中の主な問題はそこにあると言う。「宇宙飛行士間で言い合いになっても、ドアをバーンと開けて外に出て行くこともできない。たとえ火星への出発が(オバマ氏の計画通り)遠い2030年でしかないとしても、今から一緒に仕事を始めるべきだ」

 デュークさんは、月面を歩いた12人の宇宙飛行士の1人。アポロ計画では同僚とともに、太陽や恒星が発する有害な宇宙放射線から地球を守る役目のバン・アレン帯(放射線帯)を突破した。10日間の月面滞在で浴びた放射線量は、1回のX線検査とほとんど変わらなかったが、もしも予想外の太陽フレア(太陽表面での爆発現象)が起こっていれば、がんを引き起こし死に至る危険性があったことは、ほかの宇宙飛行士同様に承知していた。

 バン・アレン帯を持たない火星探査で実際に問題となるのも、この宇宙放射線だ。その対策として、太陽フレアの際には宇宙飛行士が避難できるよう、鉛で補強された避難キャビンの設置が検討されている。ただし、重量超過を避けるため、宇宙船全体を保護することは不可能だ。重量は宇宙ミッションの課題の一つだが、最重要課題といってもいい。

宇宙開発大国スイス

欧州宇宙機関(ESA)の設立当初から参加したスイスは、2015年までルクセンブルクとともにESA閣僚会議の共同議長国を務める。1975年からほとんどのESAミッションに参加。年間資金1億5千万フラン(約174億9400万円)を負担するが、大半は産業界への発注という形でスイスに還元される。米国やロシアとも取り引きのあるスイスの宇宙産業の年間総売上高は2億フランに上り、800人を雇用する。

 

スイスの宇宙工学研究は、各分野で最先端を行く。欧州次世代衛星測位システム「ガリレオ(Galileo)」の原子時計や、太陽系外惑星探知機器などがある。

世界で最も精密な超高性能分光計「ハープス(HARPS)」2台が作られ、宇宙望遠鏡「ケオプス(CHEOPS)」が製造されるのもスイス。連邦工科大学ローザンヌ校(ETHL/EPFL)のスイス宇宙センター(Swiss Space Center)は、ナノテクノロジー分野でESAの能力開発センターに昇格した。

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80トンの資材が必要

 NASAの計算によると、宇宙飛行士の火星滞在と帰還を保証するには、およそ80トンの資材を火星に運ぶ必要があるという(推進・帰還モジュール、居住モジュール、食糧などの物資、燃料など)。発射の際に重力を振り切るために必要な燃料がロケットの重量の9割以上を占めることから、80トンの資材を火星まで運ぶには、最低でも2万5千トンのロケットを打ち上げなければならない。

 当然、重さ2万5千トンものロケットが製造されたことも、設計されたこともない。アポロ計画で使用された「サターンV」型ロケットは3千トン。ブッシュ前大統領の宇宙計画で使用予定だった「アレスV」型ロケットよりも少し軽量だ。火星有人探査を実現するには、少なくとも7台の従来型ロケットを送り込み、軌道上で火星までの宇宙船を組み立てる必要がある。最新のアレスV型ロケットは、設計の段階で開発が止まっている。

 NASAや、ロシアと欧州諸国、もしくはその3者が共同で必要資金を調達すると仮定してみよう。単独行動をとりがちなあの中国さえも協力したと考え、火星探査の旅へと思いをはせてみるのもいいだろう。

 だが前述した課題のほかに、着陸時の問題もある。火星の大気量は地球の100分の1程度と希薄で、パラシュートはほとんど役に立たない。着陸時の衝撃を和らげるエアバッグの使用も考えられるが、いずれにせよ軟着陸には逆推進ロケットが必要だ。そうなると、さらに燃料が必要になり、重量が増える。

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火星の上空を飛んでみたら

欧州宇宙機関(ESA)によって火星探査機「マーズ・エクスプレス」の映像をもとに作られた動画 (ESA)

レッツ・ゴー

 だが、完全装備をしても成功するとは限らない。1960年代に始まった火星探査ミッション(上空飛行、火星軌道への投入、表面着陸)の成功率は5割以下。無人探査機15機のうち完全な形で火星表面に着陸したのは10機で、その中で最も重い米国の火星探査車「キュリオシティ」でも1トン以下だった。一方、人間をのせて火星表面に着陸するカプセル型の宇宙船は、10トン前後だ。

 火星で宇宙飛行士を待ち構えるのは、岩石に覆われた土壌、夜はマイナス130度、日中10度という激しい気温差、惑星全土で吹き荒れる砂嵐、宇宙服なしでは生存できない薄い大気、そして地球上の3分の1ほどの引力という過酷な環境だ。だが、火星は太陽系で最も標高の高い火山や太古の河床の跡、深さ7キロにも及ぶ峡谷、それから過去に大量の水が存在したことを示す証拠を秘めてもいる。

 「2020年か30年か、または21世紀のいつかもわからないが、いつの日か人類は必ず火星に到達する。そして火星に住むだろう」と話すニコリエさんは今年69歳。火星に赴く宇宙飛行士が自分ではないと知っている。だが、もし明日出発の準備が整えば、コンダコワさん(57)やデュークさん(79)と同様に、迷わず飛び立つことだろう。危険を顧みることもなく。なにものにも勝るのは、探求への情熱だからだ。


(仏語からの翻訳 由比かおり), swissinfo.ch


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