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「この方、うまく歌えないわ」

鳥たちは自分の歌を上達させようと、真剣に自分の歌に耳を澄ますこともあれば、ほかの仲間の歌を評価することもある juniors

チューリヒの2人の神経学者は、鳥が自分のさえずる歌を聞き取り、それを教えてくれた「師匠」の歌と比較することを発見した。

英科学雑誌ネイチャーに11月中旬掲載された研究論文によると、鳥は歌う前に「師匠」から習った音程を知っており、脳内に「参照用の楽譜」のようなものを獲得している。それと比較しながら、自分の歌も上達させるが、仲間のへたな歌にも気付くという。

「師匠」から歌を習う動物は5種類のみ

 こうした、歌う前に模範となる音程を知っていたり、それと自分の歌を比較したりする能力は、人間の子どもの言語習得過程に似ていると、研究グループのリーダー、リヒャルト・ハンローザー教授は指摘する。

 「子どもが言語を習得する過程では、子どもたちは親などから聞き取りたい、または習得したいと思っている言語をすでに貯めていて、片言を喋り始めるとき、それがその貯めているものにふさわしいか否かを検討している。そのプロセスに鳥の歌の習得課程も似ている」
 と言う。

 ところで動物の中では、親などから教わることで歌ったり、「しゃべったり」できるようになる動物は数少なく、人間以外にはクジラ、イルカ、コウモリ、そして鳥のみだという。

脳内に「参照用の楽譜」が存在

 鳥のさえずり方やさえずる理由の研究は、すでに行なわれててきた。しかし今回チューリヒの研究チームの成果は、神経細胞レベルで歌の習得プロセスを解明したことだ。

 ハンローザー氏はゲオルク・ケラー教授や学生と、縞模様のあるアトリ科の小鳥の脳に微小電極をはめ込み、鳥たちが歌ったり、自分の歌や仲間の歌を聞いたりするとき、ニューロンの幾つかの束を通過して発せられるインパルスを計測した。

 3年間の研究を通じて得られた結果は驚くべきものだった。鳥が、自分の歌を聞くときと、仲間の歌を聞くときでは、ニューロンの反応がまったく異なっていたからだ。それは、鳥が脳内にある種の「参照用の楽譜」を持っているのではないかという仮説を生み出した。

 その後、鳥の歌をほかの騒音などと混ぜて聞かせることで、鳥がこれらの音の違いを聞き分ける特別なニューロンを備えていることが判明し、「参照用の楽譜」の存在が確認された。
 「アトリ科の小鳥たちは、お互いの歌を聞き合い、またこの音程の後には、この音程がくるべきだときちんと知っていた。僅かな音程の変化にもすぐ反応した」
 とハンローザー教授は結論付けた。

「青少年期」の鳥たちは、自分の歌の欠点に気付く

 この「参照用楽譜」をもとに、アトリ科のオスたちは、成鳥のオスに助けられ、非常に複雑なメロディーをこなすようになる。こうして、成鳥のオスは、高度でかなりステレオタイプな歌を歌えるが、幼い鳥は人間の幼児のように、おかしな「片言の」の歌を歌っている。

 さらにチューリヒの研究チームは、歌えるのだか、まだ完璧にできない「青少年期」の鳥たちが、自分の欠点に気付いていることも発見している。 

 こうして見るとうまく歌えないオスたちの人生はかなりプレッシャーの多いものになる。鳥の世界では、メスは歌の上手下手で結婚相手を選び、「あら、この方うまく歌えないわ」といった評価を下し、ほかのオスを探すようになるからだ。

 アメリカ、コロンビア大学の「行動科学科」の、サラ・ウッレイ教授は、
「研究室で飼っていたメスは、相手のオスが一羽しかいなかったので選択の余地はなかったが、オスが何羽もいる中にメスを入れた実験では、メスは最も複雑で、最も心地よい歌、いわゆるセクシーな歌を歌ってくれるオスを選んだ」
 と確証している。

swissinfo、ティム・ネヴィル・里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 訳

人間の言語習得過程に興味を持つ研究者にとって、さまざまなメロディーを歌える鳥たちは、貴重な研究対象だ。

鳥の脳内の歌のリズムをつかさどる特別な部位を冷やした実験では、歌うリズムは緩やかになったが、メロディーそのものは変わらなかったという結果を得た。

音程は、非常に早く動く筋肉に支えられた、2つの独立した発声器官から作りだされる。この筋肉はほかのどの脊椎動物の筋肉より早く動く。

アメリカのユタ大学の研究によれば、この鳥の筋肉は1000分の1秒の正確さで発する音をコントロールできるという。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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