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「太陽島」を中東湾岸に

円形の人工島。蒸気で発電する仕組み CSEM

太陽エネルギー収集する人工の島が、アラブ首長国連邦のラスアルバイマ市 ( Ras al Khaimah ) に近々設置される。スイスの技術を使って作られた、水路に浮くエネルギー島だ。将来は海に浮かべる計画だ。

「太陽島」は、ヌーシャテルのエレクトロニクス・マイクロテクノロジーセンター ( CSEM ) と現地政府機関との協力事業の一つ。太陽エネルギーを使って発電し、水素も生産するという。

 太陽エネルギーの利用は徐々にだが、市民の生活に浸透しつつある。スイスでは新築した家に、ソーラーパネルを設置する人も多くなり、設備費は下がってきている。住宅での利用以外にも、ベルンのサッカースタジアムなどで中規模の太陽エネルギーの利用もぼつぼつ見られるようになった。

コストと場所が問題

 しかし、地域全体に配電するといった大規模な太陽エネルギーの利用は、いまだにパネルの値段が高すぎ、浸透していない。人類が使うエネルギーを太陽エネルギーでカバーするためには、広い面積にわたってパネルを敷かなければならないのも難点だ。
 
 しかし、技術が進めば、20年から30年後には太陽エネルギーが、再生可能なエネルギーの中でも主導的な位置を占めることになるとCSEMのトマス・ヒンダリンク氏は見る。「世界の必要エネルギーの3分の1が太陽エネルギーで占められることも考えられます。しかし、そのためにはフランス全土の6割の面積が必要です」とその難点も挙げる。

石油生産国の太陽エネルギー

 必要面積の広さとコストが問題の太陽エネルギーだが、両方の欠点をカバーするプロジェクトがこのほど発表された。まず、広い海原にパネルを設置することで、必要な面積を確保。また従来のパネルを使うのではなく、太陽光線を集中的に集め、水を温めて蒸気で発電し、コストダウンを図るという。

 「人工島は海に浮かび移動が可能。しかも建築のために足場を作る必要がない。これで、建築費も安く上がる」とヒンダリンク氏。しかし、この設備にも制限がある。ほぼ1年中太陽が照る、熱帯か赤道直下に設置場所が限られるのだ。今回の実験では、アラブ首長国連合の沿岸が適所として選ばれ、設置場所となったラスアルバイマ市が500万ドル (約5億7500万円 ) をプロジェクトに寄付した。

 ヒンダリンク氏によると「3年前からアラブ首長国連邦と再生可能なエネルギーの利用研究を進めてきたのは、そこに大きな市場があるからだ。今回は、現地でプロジェクトを進める必要がある」。石油の次世代エネルギー探しが、石油生産国で進められているのだ。

 最大の課題は島作り。特に強風が吹いた場合、島がどのように反応するかは分からない。「シミュレーションでは問題はなかったが、実際に強風が吹いた場合、人工島の装置が支障なく動くかどうかは分からない」。

 最初の実験は、海上ではなくラスアルバイマ市の水路に島を浮かべて行われることになっている。

swissinfo、スコット・カッパー 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 意訳

2050年における世界の1年間のエネルギー消費量は、石油で換算して200億トン。
専門家は、再生可能のエネルギーのうちもっとも有力な太陽エネルギーが、世界のエネルギー需要の主要な担い手になると見込む。
2030年のエネルギー総需要のほぼ4分の1の量を太陽エネルギーで賄うためには、パネルを置くために必要な土地が地球の面積の0.05%にあたる30万平方キロメートル必要だと換算される。

エレクトロニクス・マイクロテクノロジーセンター ( CSEM / Swiss Center for Electronics and Microtechnology )
専門分野 : マイクロテクノロジー、ナノテクノロジー、マイクロエレクトロニクス、システムエンジニアリング、情報技術、ハイテクサービス、コーティング、新素材
現存する企業と提携し技術を商品化し、CSEMからのスピンオフ企業やスタートアップ企業の促進も行う。この10年間でCSEMから独立した企業は23社にのぼる。
政府機関との提携もあり、政府からの援助も受けている。
2006年の従業員310人のうち、3分の2は博士。収益6000万フラン ( 約59億円 ) 。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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