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Tシャツが防護服に変身?

将来の防護服はもっと軽く動きやすいものになるはず Keystone

平凡なTシャツが、兵士や警察官の身を守る着心地の良い防護服に変身するのはサイエンスフィクションの中だけの話だろうか。

アメリカ、スイス、中国の共同研究チームは、綿が、強靭でしかも柔軟な繊維に変身することを突き止めた。戦車を砲弾から守る素材、炭化ホウ素を使った研究だ。

本物の新発見

 サウス・カリフォルニアで研究するこのチームは、炭素とホウ素を混合し炭化ホウ素を作り、これを綿に取り入れることに成功した。ホウ素は地球上で3番目に硬い物質で、すでに現在、戦車の保護に使われている。

 連邦工科大学チューリヒ校 ( ETHZ ) のロボット工学インテリジェントシステム研究所のブラッド・ネルソン教授は、その強度を確かめる研究をしている。
「わたしたちのグループは、小さな物質を操作して手を加え、その機械的な性質を測定します。この研究で、炭化ホウ素をTシャツに含ませることができることが分かり、その結果できあがった素材が非常に強度があることが分かったのです」
 
 サウス・カリフォルニア大学の機械エンジニア、李小東 ( リー・シャオトン ) 氏は「本物の新発見」と言う。研究結果は、素材の軽さ、耐火性、強靭さにおいて過去の概念をこえるもので、かつて考えられなかった可能性に満ちていると言う。研究グループは白いT-シャツを細長くリボンのように切り、ホウ素の溶解液に浸した。その後そのリボンをオーブンで加熱した。その結果、繊維は非常に軽いが、強靭で元のTシャツより硬くなったものの、伸縮性は残っていた。防弾チョッキには炭化ホウ素が使用されているが、これを上回る機能の素材が出来上がったという。

車や飛行機に使う

 「この技術を使って、体にフィットする防護服を作ることができるのではないでしょうか」と李氏は言う。夢のような話で「絵に描いた餅」にも聞こえる。ネルソン氏は慎重に、まだ多くの問題を解決する必要があると認める。
「加工工程の技術の向上や素材の使い方を理解することなど…。綿を炭化ホウ素のナノ繊維に一気に変化できるようになったと小躍りして喜ぶというわけにはいかないのです。たとえば、航空産業において、過去20年間の大進歩の一つは、アルミニウムより強靭で軽い素材、ジュラルミンを開発したことですが、これに匹敵するようになるまでにはなっていません」

 ネルソン氏はこの研究が、素材を加工する新しい方法の開発に「科学的に明らかに寄与ができる」ものと確信する。しかし、これを今の時点で革命的とは言えない。

 「革命的なものなら、技術的な面も研究し、製品として日常的に使えるようにならなければいけません。そうなってはじめて、革命的と言えるでしょう」
 とネルソン氏は語る。

ロバート・ブルックス、swissinfo.ch
( 英語からの翻訳、佐藤夕美 )

連邦工科大学チューリヒ校 ( ETHZ ) のロボット工学インテリジェントシステム研究所の創始者。ロボット工学を実践科学とエンジニア分野に広める研究を進める。講演者としても高く評価され、ロボット工学の講演文が受賞。2005年にはナノチューブの工業生産化に貢献し科学と技術を主導したことが評価され、米科学雑誌の「アメリカ科学者トップ50」に選出された。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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