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子宮頚がんの予防接種率の向上を!

保健当局は、2012年までに11~14歳の少女の予防接種率の80%達成を目指している photo courtesy of GlaxoSmithKline

若い女性を対象に子宮頚がんワクチンの予防接種を促進する全国的なプログラムの実施が遅滞している。保健当局は、今後接種をどのように推進していくべきか検討を開始した。

11歳から19歳の女性を対象にヒトパピローマウイルス の予防接種を推進するプログラムは、2008年から開始されている。

西高東低

 子宮頚がんはヒトパピローマウイルス ( HPV ) によって引き起こされるが、ワクチンの接種によってほぼ完全に近い予防が可能な病気だ。スイスでは毎年約2000人の女性に子宮頚がんの初期症状が発症している。

2010年の年初に、プログラムの対象となった年齢の女性のわずか36%しか接種を受けていないことが判明した。しかし、これはスイス全体の平均値で、フランス語圏とドイツ語圏では様相が異なる。

 フランス語圏では、学校の校医が予防接種を行うケースが多いため、平均接種率は57%にもなる。過去の記録からも、一般的には学校内での校医による予防接種の実施が最高接種率の要因となっていることがうかがえる。一方ドイツ語圏の接種率はわずか29%と大幅に低い。これは家庭医が予防接種を行うため、時間がかかることが主な原因だ。

 B型肝炎のワクチン接種についても、フランス語圏とドイツ語圏で同様の結果が見られる。

 こうした平行線をたどるような結果に対処するために「スイス公衆衛生州代表者会議 ( Swiss Conference of Cantonal Ministers of Public Health ) 」のメンバーと連邦内務省保健局 ( BAG/OFSP ) の代表から成る作業委員会が設立された。作業委員会は接種率を上げるために、各州で実施されたプログラムの成功事例を研究し、その経験を分かち合う方法を探る。

財政問題

 子宮頚がんを引き起こすHPV の予防接種プログラムを2008年に開始した際、保健当局は2012年までに11歳から14歳の80%、そして15歳から19歳の50%を達成すべき接種率の目標として定めた。しかし現在までのところ、これらの目標を達成したのはわずか数州だ。

 全国的なこの目標に向けて、各州はワクチン購入のための複雑なシステムを導入しなければならない。まず各州政府がワクチンを購入し、接種対象者は学校や医院で接種を無料で受ける。そして各州政府は接種を行った医者に対して実施料金を支払う。その後、接種を受けた女性たちが加入している民間の保険会社が、経費を州政府に払い戻す。

 この方法を選択したのは、もしワクチン接種料を保険会社が女性たちに直接払い戻した場合、ワクチンの代金が237フラン ( 約2万円 ) と高額になってしまうからと明快な理由からだ。

 「一方、製造企業と直接交渉をした結果、今日ワクチンは1回分が66.6フラン( 約5600円) になりました」
 と保健局のハンスペーター・ツィマーマン氏は説明した。

 スイス公衆衛生州代表者会議のミヒャエル・ヨルディ氏は、この払い戻しの方法を「相当複雑であると言っても差し支えない」と評している。しかし同氏は、
「この方法を選んだのは州政府ではなく、保険と処方箋に関して定めている法律に従った結果です」
と付け加えた。

 また、各州における学校での予防接種のシステムの違いが問題になっているとヨルディ氏は指摘する。
「広い地域をカバーする学校の場合、接種対象者の数か多くなるため、対象者すべてに接種を行うことは容易ではありません。また ( 学校で接種をする代わりに ) 医者に行くとなると、より一層複雑になることは明らかです」

完璧な予防?

 しかしヨルディ氏は、HPVプログラムの欠点はいずれ解決されると楽観的に見ている。

 スイス公衆衛生州代表者会議は、この問題に取り組むために二つの課題を掲げている。第1の課題は、短期と長期でHPVワクチンの問題の改善方法について検討すること、第2の課題は、このHPVワクチンプログラムを学校の既存のワクチンプログラムに統合させる方法を開発することだ。

 子宮頚がんは、現在スイスの女性がかかっているがんの中で14番目に多い種類のがんだ。しかし、50歳未満の女性では4番目に上昇している。子宮頚がんの75%はHPVウイルスによって引き起こされる。

 このプログラムの導入に際し、保健局の職員は、予防接種は最多数の少女たちを保護するものであるばかりでなく、予防接種への公平なアクセスを彼女たちに提供するものだと語る。

 「スイス・キャンサー・リーグ ( Swiss Cancer League) 」のニコル・ブリアル氏は、同組織は基本的にプログラムをサポートしているが、予防接種は子宮頚がんに対する完璧な防衛にはならないと言う。

 「スイス・キャンサー・リーグは、性行動が活発になってきたら、コンドームの使用や、婦人科の定期検診を薦めます。HPVウイルスに対抗する完全な防御法は存在しないことを忘れてはなりません」

100種類以上のHPVが存在し、それぞれに番号が付けられている。
HPVは性行為、またはまれに皮膚へ直接触れることでも感染する。スイス人の70~80%が一生のうちに感染する。
5人に1人の女性が特定の種類のHPVに感染し、子宮頚がんの初期症状である前がん病変またはがんを発症する。
ワクチンの接種は、がんを引き起こすほとんどの種類のHPVに対して予防効果があり、11歳以上の少女への接種が奨励されている。
ワクチンの接種は、腕の皮下注射だが、その効果を確実なものにするために一定期間をはさんで半年内に3回行わなければならない。
スイスでは、HPVによって年間約2000人の女性が前がん病変を発症している。そのうち約160人が子宮頚がんを発症し、50人が死亡する。子宮頚がんは、ゆっくりと進行し、長期にわたって自覚症状が現れにくいため、定期健診に行かない場合、何年間も発見されない。

通常、子宮頸部の細胞に異変が生じ、その後それらの細胞ががん化する。
子宮頚がんの大半は、ヒトパピローマウイルス ( HPV ) によって引き起こされるが、クラミジアやヘルペスなどの性感染症によって引き起こされるケースも少数存在する。
そのほかの原因としては、不衛生、不特定多数のセックス・パートナー、喫煙が挙げられる。

( 英語からの翻訳 笠原浩美 )

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