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危機が歴史を振り返えらせる

環境を保護していくことが、歴史家の新しい視点になった。この1965年の写真が示すような、まったく無造作なごみの捨て方は遠い昔の話になった RDB

「近年のさまざまな事件や経済危機など、スイス国民は時代の不安定さにショックを受け、それが過去の歴史を振り返えらせる契機になっている」と歴史家フランソワ・ヴァルター氏は言う。

このコンテンツは 2010/02/20 15:25

ヴァルター氏は、こうした人々の疑問に答えるため、新しい視点から歴史を見直し、全5巻の歴史書を執筆している。

swissinfo.ch : スイスでは過去30年間に多くの出来事がありました。歴史家として、これをどう捉えていますか。

ヴァルター : 特筆すべきは、スイスがいかに国際的状況に巻き込まれているかということです。スイスは自分の運命を自分ですべて決められなくなっている。世界や欧州連合 ( EU ) の動きに左右される時代。これが今のスイス史の一つの特徴です。

もう一つは時代の不安定さです。2001年以来のスイスでの出来事を見るとき、それはただ混乱の連続としか言いようのないものです。例えばゴッタルトトンネルの火災、スイス航空機 ( SR111 ) の墜落事故、スイス銀行大手UBSの経営危機や不正問題などです。

これらの出来事は社会に集団的ショックを引き起こし、このショックが引き起こした結果はまだこれから検討されるでしょう。しかしスイスのシステムに対する信頼は揺らぎ、スイスの神話は崩れつつあります。こうした現象は新しいことです。

連邦政府を例にとっても、国民が完全に政府を信頼しているとは思えません。むしろ、閣僚たちは躊躇 (ちゅうちょ ) しがちで、何かに操作され、どういった決断を下せばいいのか分かっていないと感じています。

国民はスイスのシステムに信頼を失いつつあり、これがどういう影響を社会に及ぼしていくのかはこれからの問題です。また、こうした現象はスイス史において初めてのことです。

以上のような背景があり、スイス史が今、興味を持たれているのです。時代の不安定さのために、過去この国はどのように形成されたのか、社会的絆はどのように作られたのか知りたいと思っているのです。従ってスイス史を物語ることが求められています。

swissinfo.ch : スイス人の歴史への要求が高まっているのは分かりましたが、一方で「またスイス史か」といった反応もあるかと思います。あなたの本には何か新しい側面が書かれていますか。

ヴァルター: 確かにここ数年来多くのスイス史が出版されました。しかしわたしは、これらとは違う種類の歴史シリーズを書く必要があると思いました。大学で研究された新しい結果を一般の人に知ってもらう必要も感じたのです。

歴史は従来「構造的」に語られてきました。つまり経済や社会の大きな動きが歴史の流れを説明するものだと考えられてきました。

しかし、もちろん経済や社会の動きに興味を持ちながら、大きな変化は、歴史を動かすさまざまな要因に興味が移っているということです。具体的には、文化的側面、つまり人々が自分を取り巻く世界をどう捉えていたか、あるいは何かが起こった場合にそれに対応するやり方などを研究するという、歴史研究ではかなり新しいやり方です。
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swissinfo.ch : あなたの研究姿勢はいわゆる新しい、現代の歴史に背を向けてはいないでしょうか。

ヴァルター : そうではありません。( 過去を研究していても ) すべてが新しいのです。それは過去において新しいことを発見するとか、出来事の日付を変えるというのではなく、過去の出来事を視点を変えて見直していくということです。

例えば、今、環境問題が大きな課題となっています。30年前には誰も口に出さなかったことです。今日歴史を書くということは、こうした環境が破壊され、気候が変わるという危機感に根差した新しい視点で歴史を掘り起こすことなのです。

わたしは著書の中で、過去のさまざまな状況の中で遭遇した自然や環境との問題、対処の仕方などを再構成しています。例えば、16世紀の終わりに起きた気候変動に関心を持ちその関係のことを多く記述しています。なぜならその当時の心配事は、現在われわれが抱えている懸念事に呼応すると思うからです。

swissinfo.ch : どのような読者を念頭に置いていますか。

ヴァルター : 大学の出版というと煙たがる人もいますが、分かりやすく物語風に書こうとしています。また。今回1人で全てを書くというのも新しいことです。従来大学の出版となると、それぞれの時代の専門家が書くことが多かったのですが。

1人で書くことの利点は、一環した方向性を持って異なる時代間に関係をつけ、歴史が構成されていく過程を説明できることです。また、極端に専門的で、学者的な語り方は避けようとしています。

誰もが読みたくなるような歴史書を目指しています。最大の目標は、今日の一般の人からの疑問に答えられる本であることです。博学になるようにさまざまな情報を提供することではないのです。

オリビエ・パウシャール、swissinfo.ch
( 仏語からの翻訳、里信邦子 )

「スイスの歴史」

フランソワ・ヴァルター氏が執筆している全5巻からなる『スイスの歴史』は、大学出版社「アルフィル ( Aiphil ) 」から刊行される。
全5巻で、昨年9月から6ヶ月間ごとに1巻ずつ出版される。現在2巻がすでに出版されている。
第1巻・一つの連邦の誕生 ( 15世紀から16世紀 )
第2巻・古典時代 ( 1600年から1750年 )
第3巻・革命の時代 ( 1750年から1830年 )
第4巻・近代スイスの形成 ( 1830年から1930年 )
第5巻・現代の確実さと不確実さ ( 1930年から現在まで ) 。

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フランソワ・ヴァルター氏 ( Françoi Walter) 氏略歴

1950年に生まれる。
フリブール大学で学び、1981年同大学で博士号を取得。
現在、ジュネーブ大学歴史学科の教授。
カナダのケベック、ラバル ( Laval) 大学やパリ第1大学、パンテオン・ソルボンヌ ( Panthéon Sorbonne) 校の客員教授。
9 冊の著書と160に及ぶ論文記事がある。
専門は、環境や風景の歴史、また災害、リスクなどの歴史。

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