スイスの視点を10言語で

ストリートミュージシャンは「静かに」歌うべきか?

バーゼル市は、「過度にうるさい」楽器の街頭演奏を禁止した Keystone

バーゼル市で街頭パフォーマンスを行う大道芸人は、十数項目の新しい規制に従わなければならなくなった。

バーゼル市当局と警察へ、街頭演奏についての苦情が2008年に47件、2010年に85件あった。ところが、2011年にはそれが240件に跳ね上がり、市当局と警察は新たに規制を強化した。

 今年の3月以来、ストリートミュージシャンの街頭演奏は30分間以内に制限されるようになった。終了後はほかの場所への移動が義務付けられており、同日内に同じ場所で街頭演奏を再開することはできない。

 また、各グループの人数、音楽を演奏してもよい曜日や時間帯も制限されるようになった。商店や飲食店が閉じている日曜日には、一切のパフォーマンスが禁止されている。さらに、公示された規制事項には、音量制限も含まれている。そしてストリートミュージシャンは「静かに(softly)」演奏するよう要請されている。

 「当然のことだが、優れた演奏は誰もが喜ぶ。しかし音が大きすぎたり、下手な演奏が延々と続いたりすれば我慢ができなくなる」と、バーゼル市警の広報担当官マルティン・シュッツ氏は説明した。特に歩行者専用地区のフライエ通り(Freie Strasse)とバーフューサー広場(Barfüsserplatz)では、街頭演奏が大きな問題となっている。

 バーゼル市は、すでに2010年に規制を改定し、週日の夜8時以降の街頭演奏を禁止した。しかし、2010年の苦情の78%はこの後に寄せられたもので、規制改定の効果がないと批判が起きたため、今回の規制強化に至った。

賛否両論

 街頭演奏に何らかの規制を課しているのは、バーゼル市だけではない。ルツェルン市では、ストリートミュージシャンを自称する人々は、街頭演奏の許可証を取得しなくてはならない。チューリヒ市の中心部では、特定エリアでの演奏が全面禁止になっている。

 チューリヒ市警の情報主任ミハエル・ヴィルツ氏は、現行のシステムがうまく機能していることを説明し、街頭演奏が許可されている場所を示した地図を広げた。「どのような規制があるのかと聞く人には、説明を記した印刷物を渡す。間違った場所で演奏している人を見つけたら、ほとんどの場合どのようなシステムになっているかを説明する」

 バーゼル市の新しい規制に対するストリートミュージシャンの反応は様々だ。ドイツのレラハ(Lörrach)からやって来たデュオのティナ&ジョーは理解を示す。「規制が作られた理由は理解しているので、それは問題無い。音楽を聴くのは好きだが、住民が穏やかな街にしたいという気持ちは私たちも分かる」

 しかし、匿名希望のストリートミュージシャンの女性は、新しい規制を知らなかったため、不愉快な目にあったと言う。「午前11時15分にリュメリンス広場(Rümelinsplatz)で歌い始めて、規定で決められている11時30分よりも前に止めた。正午に同じ広場で再び歌い始めたら、男性がやってきて『ほかの場所へ消え失せろ』と言った。私は『冗談じゃない、まだほんの10分間しか歌っていないわ』と言い返した。規制が多すぎる」

両極端

 カーニバルの日や、地元バーゼルのサッカークラブの試合が行われた夜の市内は騒音であふれかえるが、騒々しい街だと指摘されたことはなく、むしろ美術や文化の街として知られている。バーゼル観光局の副局長クリストフ・ボスハルト氏は規制の強化を高く評価し、こう語る。「ここ1~2年、ストリートミュージシャンの水準は確実に低下した。彼らの演奏がより優れているならば、もちろん歓迎するし、何の規制を作る必要もない」

 新しい規制に従い、日曜日と銀行休業日は特に静かになる。そうした日にバーゼルへやってきた旅行者のリン・スティーブンソンさんは「バーゼルはいい街だが、非常に静かすぎる」と言う。「スコットランドのエジンバラから来たが、街頭パフォーマンスは街を魅力的にすると思う。ただ、街頭パフォーマンスが犯罪行為や物乞いにつながることは確か。その点は良くないと思う」

平穏を!

 バーゼル市警は、新規制が軽犯罪の対策として作られたのではないと強く否定する。「これはすべて、市の中心部に住んでいる住民の生活の質を保つためだ」とシュッツ氏は強調する。1月に新規制が公表された際、バーゼル司法局は、以前の「よりリベラルな」規制が、「東欧の組織的な音楽グループを引き付ける原因となった」事実に注意を向けた。

 新規制導入の運動を行ったバーゼル市の住民協会(Innenstadt Quartierverein)の会員の一人は、通りがかりの人は街頭演奏を楽しめるかもしれないが、住民にとっては難しいと言う。「例えば、音楽学校でいくらか学んだことのある学生の演奏ならばいいが、才能のない人間が何時間も、自分のアパートの下で歌っていることがよくあった。それは非常に不愉快だった」

 市の中心部に住むほかの住民もまた「いい演奏をするストリートミュージシャンが減ってしまったのか、あるいは下手なストリートミュージシャンが増えたのか。自分もできると軽々しく思っている人間ばかりだ」

 新しい規制によってバーゼル市警は、規制を破り平穏を乱したストリートミュージシャンに対して最高80フラン(約7200円)の罰金を科すことができる。しかし彼らに規制を守ってもらうこととは別問題だ。そのため警察は、英語とドイツ語で規制を印刷したポスターを掲示し、規則厳守を呼びかけている。

 また警察は、規制強化についての情報ができるだけ広く伝わるよう努力したと主張する。しかし、天気が良くなるにつれて、路上での演奏、そしておそらく規制を破るストリートミュージシャンが増えるだろうとも認めている。

1. 街頭演奏は(以下の2番目の規制に)定められた時間から30分間のみ許可。それ以外の時間は演奏をしてはならない

2. 街頭演奏を許可される時間帯は、月曜日から土曜日の、昼食時にあたる午前11時から午後12時半の間までと、夕方の16時から20時半の間まで。

3. 各グループの人数は最高4人まで。

4.ストリートミュージシャンは、演奏終了後に毎回場所を移動しなければならない。

5. 移動先は、そこでの演奏が前回の場所では聞こえないほど十分に離れた場所を選ばなくてはならない。

6. ストリートミュージシャンは、同日内に同じ場所に戻って演奏してはならない。

7.「極端に騒々しい」楽器を使ってはならない。

8.交通機関の停留所の近くで演奏してはならない。

9. 病院やバーゼル動物園の近くで演奏してはならない。

10. 特別な許可がない限り、屋外席のあるカフェやレストランの近くで演奏してはならない。

11. スピーカーを使用してはならない。

12.ストリートミュージシャンは「静かに」歌わなくてはならない。 

(英語からの翻訳、笠原浩美)

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部