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ワーキングプアを救う


最低賃金、各国で見直しの動き スイスで導入なるか


サミュエル・ヤベルク


オバマ米大統領は最低賃金を時給10.10ドル(約1040円)に引き上げようとしている (Keystone)

オバマ米大統領は最低賃金を時給10.10ドル(約1040円)に引き上げようとしている

(Keystone)

スイスでは、法定最低賃金の導入をめぐり5月18日に国民投票が行われる。しかし、このテーマについて議論しているのはスイスだけではない。欧州、新興諸国など世界各国で最低賃金の導入や賃上げへの動きが広がっている。

 オバマ米大統領は1月28日に行った一般教書演説の中で、現行の最低賃金を4割引き上げて時給10.10ドル(約1040円)に改定する意向を表明した。米議会での承認はまだ確実ではないが、「アメリカ低所得層の底上げを」という同氏のメッセージは明確だ。

 一方ドイツでは、2013年11月、連立政権を組む社会民主党に譲歩したメルケル首相が全国一律の最低賃金を導入すると発表。また1月中旬には英国のオズボーン財務相が、不況以前の水準を回復するため最低時給の11%引き上げに賛成すると表明した。中国政府はというと、昨年に最低賃金の18%引き上げを決定している。

 スイス・フリブール大学のセルジオ・ロッシ経済学教授によれば、各国の最低賃金引き上げの動きは、2008年の財政危機とその後世界中に広まった経済危機が直接影響しているという。「多くの政府が、極端に低い賃金は経済活動にとって不利だと気付き始めている。というのも、長期的な経済成長を左右するのは一般家庭の購買力だからだ」

 また、財政赤字に陥った政府に残された道は二つあると指摘する。「一つは増税。だがこれは絶対に大衆受けしない。二つ目は、生活保護に関わる公共支出を削減するため、低賃金労働者を救済することだ」

不均衡の改善

 ローザンヌのビジネススクールIMDのステファン・ガレリ教授によると、最低賃金に再び政治的関心が集まっている理由には、「富の分配」における不均衡の拡大と、「ワーキングプア」と呼ばれる低所得世帯への関心が高まったことが挙げられるという。同教授は、世界の家計資産の46%、すなわち110兆ドルが上位1%の富裕層世帯に独占されていると説明する。

 2月には国際通貨基金(IMF)の専門家が「社会格差を放置すれば経済成長が阻害されるリスクがある」と指摘し、ギリシャ支援に見られる同基金のこれまでの支援方針とは一線を画する内容の報告書を発表した。

 一方、国際労働機関(ILO)のガイ・ライダー事務局長は、1月24日のスピーチで「社会格差は国民の不満を引き起こし、国家を不安定にする。現在多くの国で起こっている紛争や暴動の一因は、社会に対する不公平感にある」と、さらに一歩踏み込んだ見解を示した。

リベラルな考え

 ILOはこれまでにも幾度となく最低賃金を問題に取り上げてきたが、政府による賃金引き上げの動きは比較的新しいものだ。1990年代初頭までは、最低賃金を引き上げることは雇用拡大に不利で、企業の競争力をそぐものだというのが共通の見方だった。

 だが1994年に入り、アメリカ北部出身の経済学者デービッド・カード氏とアラン・クルーガー氏が、最低賃金の引き上げが雇用に有利に働いた事例の研究結果を発表し、これまでの通説をくつがえした。しかし今日では、多くの専門家が最低賃金と雇用量の関係を一義的に断定することはできない、としている。経済システムがますます開放的になっているため、国によって影響の出方が異なるからだ。

 さらに興味深いのは、今日では主に左派や労働組合が最低賃金に関心を向けているが、元々はリベラルな陣営が考え出したものだということだ。ローザンヌ大学社会経済史研究所のジャン・バトゥ教授は「最低賃金という考えは、社会主義者ではなく、労働に価値を与えることができなかった『市場の失敗』を目の当たりにした19世紀の自由主義の経済学者によってもたらされた」と説明する。「代表的なジョン・スチュアート・ミルは、法律で最低賃金を制定することにより、労働者にとって労働が十分魅力的なものになると説いている」

例外的なスイス

 1894年に世界で初めて法定最低賃金を導入したのは、ヨーロッパからの大量の移民流入に直面していたニュージーランドだった。その後、1930年の恐慌以降、全世界に広がった。ヨーロッパでは現在、欧州連合(EU)加盟28カ国中21カ国が法的に最低賃金を導入。バトゥ教授は「ドイツやイタリア、北欧諸国のように、各産業に共通の法定最低賃金がない国では、労働規約によって雇用が守られており、賃金に関しても明確な規定が盛りこまれている」と話す。

 では、スイスがこの動きに追随しなかったのはなぜだろうか?バトゥ氏は「『栄光の30年』と呼ばれる第2次大戦後の急成長期は労働者不足だったため、賃金は労組が要求する以上に大幅に上昇していた。そのため『スイスは例外』という思い込みが生まれ、それはしっかりと定着してしまった。労組の闘争なしでも賃金上昇が可能だと人々は信じていたのだ」と説明する。

 また、「スイスの労組はこれまで、資格を持つスイス人男性労働者の雇用条件改善を中心に運動してきた」と指摘。だが、現在では労組の発達していない販売・美容(ヘアサロン、エステなど)・清掃・飲食業に従事する無資格の女性や移民労働者が増えている。今後、労組はそういった不安定な立場にある労働者を守る必要が出てきた。

 これまでに労組が州レベルで最低賃金の導入を働きかけた結果、ヌーシャテルとジュラの両州が導入を決めた。そして今度は国レベルでの最低賃金導入を求めるイニシアチブを立ち上げて、5月18日に国民にその是非を問う。

5月18日の国民投票

法定最低賃金を求めるイニシアチブは、スイス労働組合連合(SGB/USS)が11万2301人分の署名を集め、2012年に成立した。法定最低賃金として時給22フラン(約2500円)を全国に導入することを求める一方、国と州が賃金を保護し、労働規約でも最低賃金が規定されるよう促進することも要求している。

だが、政府と連邦議会はイニシアチブに反対するよう国民に促している。可決されるには、5月18日の国民投票で投票者および州の賛成過半数を獲得しなければならない。


(仏語からの翻訳 由比かおり、編集 スイスインフォ), swissinfo.ch



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