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家族計画クリニック


中絶するかどうか、女性の選択を助ける


スーザン・ミシカ


誰もに母親になる準備があるわけではない (AFP)

誰もに母親になる準備があるわけではない

(AFP)

計画外の妊娠をこのまま継続していくのか?この決断は非常に難しい。ベルンのクリニックでは、年齢や環境にかかわらずこうした女性たちをサポートする。

 ベルン大学病院婦人科の待合室に、午後の日差しが差し込んでいる。数カ国語の本が並ぶここは、家族計画部。助言を求める女性たちが質問に答えてもらえる場所だ。

 スイスでは2002年以降、妊娠人工中絶費用は基本健康保険の適用対象となっている。この政策は、妊娠第一期の中絶を合法化する国民投票の一部として登場した。ところが今、それに反対する動きがある。反対派は、「倫理的な理由で中絶に反対する人々は、自分たちの払う保険料で中絶費用が払われることを拒否する権利がある」と主張している(囲み記事「イニシアチブ」を参照)。

 ベルン大学病院では、薬による中絶にかかる費用は約800フラン(約9万2千円)。中絶手術の費用は約2000フランだ。診察料はベルン州が負担するため無料だ。

 このクリニックでは毎年、スイス国内外の約400人の女性に助言を与えている。一人で訪れる女性が多いが、パートナーや親友や家族に付き添われて来る場合もある。ジェニー・リュチェンス医師によると、2002年以降、訪れる女性の数は安定している。

 「診察の所要時間は90分で、必要があればもう一度診察の予約が取れる。女性たちに決断を迫るのではなく、決断を下すまでの過程をサポートをする」

イニシアチブ

「中絶費用の負担は個人の問題 基本健康保険の適用対象から中絶費用を除外し、健康保険の負担を軽減する」イニシアチブは、主に保守的なキリスト教徒から成る超党派の推進委員会が立ち上げたもの。憲法に新しい条項を盛り込むことを求めている。

その内容は、「 母親側に起因する例外的なケースを除き、人工妊娠中絶および多胎妊娠の減胎手術(胎児の数を減らす手術)は、基本健康保険の範囲に含まれない」というものだ。

憲法改正には国民と州の過半数の賛成が必要で、このイニシアチブも同様。

国民投票は2014年2月9日に行われる。

難しい状況

 訪れる女性の大半は20〜35歳で、それより若い女性は非常に少ない。リュチェンス医師や同僚の医師たちは、一人ひとりの個人的事情や妊娠したことに対しどう感じているのかを理解しようとする。

 「多くの女性は、経済的あるいは私生活で難しい状況にある」とリュチェンス医師。母親になる用意ができていないと感じる若い女性がいる一方、既に子どもがいてこれ以上子どもはいらないと感じている女性もいる。父親となるはずの男性と別れてしまった女性もいる。

  

 3歳の男の子の母親である35歳のベッティーナさん(仮名)は、昨秋クリニックを訪れた。当時妊娠2カ月で、胃のバイパス手術を受けたばかりだった。これは胎児に悪い影響を及ぼす可能性があり、また家計も非常に苦しかったので、中絶を選んだ。

 「中絶は非常に難しい決断だった。夫も私もできれば欲しかったが、現実的に無理だった」

  

 精神的にも経済的にも子どもを生んで育てられるか確信を持てない場合は、ソーシャルワーカーのサンドラ・シャーテンライプさんに紹介されることもある。シャーテンライプさんは、女性たちが十分な情報を得た上で決断を下せるようサポートする。

 「女性たちは多様な選択肢を知らないことが多い。そこでどういう可能性があるかを知らせるのが私の仕事だ。絶望的に思える状況において、必要とされる自信をつける手助けをすることも多い。解決策を見つけるのは彼女たち自身だからだ」

 例えば、収入がないか非常に少ないと言う女性には、生活保護を考えてみてはと提案する。保育が問題ならば、若い母親のためのグループ・ホームなど、これから母親となる女性がどこで支援を受けられるかアドバイスをする。

 「問題を抱えているのは若い女性だけではない。もっと年上の女性でも、既に子どもが一人か二人いる、転職したばかりだ、などの理由で、もう1人生んで育てられるか自信がない人もいる」

 シャーテンライプさんは、スイスには厳しい経済状況で生活している人がたくさんいると指摘する。「子どもが生まれると貧困ライン以下に落ち込んでしまう人もいる。それにどう対処するかが問題だ」

 ベッティーナさんは、クリニックで受けたケアに感謝している。「敬意を持って扱ってくれ、不安を真剣に受け止めてくれた。親切にしてもらった」

定期チェック

 女性が中絶を決意すると、病院がその手配を行うこともある。なお、ベルン大学病院の場合、約8割の女性がそう決心する。

 「だが、こちらの助言に影響されて多くの女性が中絶を選ぶというわけではない。元々、中絶を希望してやって来る女性が多いということだ」とリュチェンス医師は指摘する。

 クリニックでは、中絶後の身体的、精神的な様子をチェックするため、定期的に経過観察を行う。

  

 「最初の診察では、決断、医学的な問題、避妊、診察予約、パートナーとの関係など、話し合う内容が多岐にわたるため、女性たちが吸収しなければならない情報が多すぎる。だから、1カ月後にもう一度様子を見ることが大事」

 中絶後診察での対話の重要なポイントの一つは避妊だ。患者が自分に適した信頼できる方法を見つけ、今後の計画外妊娠を防げるようになることが理想だ。

後悔はしていない

 かつては中絶費用の保険適用を求めて戦い、今はそれを適用外にしようとする動きと戦っている女性がいる。ベルン郊外に暮らす71歳のアンヌ・マリー・レイさんだ。

 「私の場合、避妊に失敗し、その時点では子どもが欲しくないことははっきりしていた。妊娠6週目ほどになっていた」と、約50年前に中絶を行ったレイさんは話す。当時スイスで中絶は違法だった。

  

 「後悔したことはないし、それに関して身体的にも精神的にも問題が起こったこともない。あの時中絶できてとても嬉しかった」。ダンス教師となるための訓練を終えた後、レイさんは夫との間に3人の子どもをもうけた。

 自分の体験談を本にしたレイさんは、中絶するかどうかという難しい選択に直面した他の女性たちの体験談を掲載した、ウェブサイトも持っている。

否決を期待

 次回、国民投票にかけられるイニシアチブでは、中絶そのものは合法のままだが、費用は自己負担にすると主張している。

 「もし、こうした状況で子どもができていたら?中絶費用は払えなかっただろうから、生むことになっていたと思う」とベッティーナさんは話す。

 ソーシャルワーカーのシャーテンライプさんも、子育ての費用よりはずっと安いとはいえ、中絶費用は相当な負担となる可能性があると考えている。また、そのような1回限りの費用が社会福祉の枠で払い戻される可能性は低いだろうと指摘する。

 シャーテンライプさんは、そうなれば中絶の件数は減らず、ただ「難しい状況で行われる中絶が増える」だけだろうと見ている。

 リュチェンス医師も同じ意見だ。「イニシアチブが可決されれば、今でも難しい状況にある女性の状況がさらに悪化するだろう」。医師は、中絶費用が払えない女性が、未承認の薬や手段といった危険な選択肢を探すようになるのではと危惧する。

 あるいは、費用を貯めるため長く待ちすぎる女性も現れるかもしれない。現在、スイスでは中絶の約75%が第8週前に行われる。

 しかし、イニシアチブ推進委員会の共同委員長を務めるキリスト教民主党の元議員、エルビィラ・バデーさんは、民間の保険料は払えないほど高いわけではないし、中絶費用を払ったからといって「物乞いをしなければならなくなるわけではない」と主張する。

 賛成派は、中絶費用が自己負担の場合、個人がより性に関して注意深く、責任を持つようになるという米国の研究があると指摘している。

 


(英語からの翻訳 西田英恵), swissinfo.ch



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