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子どものバーンアウト


子どもの燃え尽き症候群、低年齢化に対する学校の取り組み


由比かおり


子どもの燃え尽き症候群の低年齢化が指摘されている。スイス・フランス語圏の調査では、14~18歳の生徒の14%が燃え尽き症候群だという (imago/Westend61)

子どもの燃え尽き症候群の低年齢化が指摘されている。スイス・フランス語圏の調査では、14~18歳の生徒の14%が燃え尽き症候群だという

(imago/Westend61)

働きすぎで身も心も疲れきってしまう燃え尽き症候群(バーンアウト・シンドローム)。現代社会における大人のメンタルヘルス問題として認識されていたが、スイスではここ数年、小中学生にも見られるようになった。スイス・フランス語圏で実施された調査によると、14~18歳の生徒10人中2人が燃え尽き症候群だという。

 スイスではほとんどの学校が学年末を迎え、今週から夏休みに入っている。1年間の勉強を終えて試験から開放され、宿題のない夏休みを心待ちにしていた子どもたちも多いことだろう(ちなみにスイスではほとんどの公立学校で、週末や長期休暇中に宿題を出すことが禁止されている)。

 2013~14年にスイス・フランス語圏で約450人の生徒(14~18歳)を対象に行われた調査では、全体の14%に燃え尽き症候群の兆候があることが判明した。進路決定をしなければならない中学3年生では19%、さらに、晴れて進学を果たした高校1年生では、21%の生徒が燃え尽き症候群だという数字が出ている。

「外的ストレス」が増加

 子どもから大人へ移行する思春期には、少なからず友達関係に悩んだり、大人や家族に対する怒り、反抗、将来への不安などを抱えたりする子どもがほとんどだ。そういった「自分の内側」からくる葛藤(内的ストレス)に対応しきれずに、心身のバランスを崩すといった思春期特有の心の病は以前から存在した。

 だがこれに対し、ここ数年で増えているのが「外的ストレスが原因の燃え尽き症候群」だと、ローザンヌでスクールカウンセラーを務めて30年になるフランソワ・ロベールさんは説明する。

 外的ストレスの主な原因が、学校の試験だ。「昔は6年生の終わりに、中学へ進学する能力があるかどうかを確かめる試験があった。もちろん、試験の前には子どもたちには大きなストレスがかかっていた。だが、今の子どもたちは、1年中テスト期間が続いているようなもので、常に良い点数を取らなければならないというプレッシャーにさらされている」(ロベールさん)

 スイスの学校制度は州によっても異なるが、小学生でも留年する可能性がある。ヴォー州では、年間を通して行われたテストの結果を総合して学年末に平均値を出し、それが及第点に達していなければ次の学年に進級できない。

 前述の調査を行った、ヴォー州教員養成高等学校(HEP Vaud)のニコラ・メイランさんも同じ意見だ。「スイスの子どもたちはまず6年生という早い時期に、ある程度進路が決まってしまう。世界を知らないうちに、自分の将来のビジョンを描かなければならない。しかも、昔より(進学や職業の)選択肢が広がっている中で、『自分で決めていいよ、だけど自分の責任だよ』といわれているようなもの。子どもにとっては相当なプレッシャーだ」(メイランさん)

攻撃的になることも

 メイランさんは子どもの燃え尽き症候群の主な特徴を三つ挙げる。慢性的な疲労やだるさ、不眠などの身体的症状、要求されることに対する自分の能力が不十分だという不適合感、そして突然学業に対して無気力・無関心になることだ。

 だが注意しなければならないのは、子どもの心身の疲労は必ずしも大人のようにふさぎ込んだり疲れ果てて動けなかったりという症状で現れるのではなく、反対に落ち着きがなく多動になったり、攻撃的になったりするケースもあることだ。

 特に、思春期の子どもが極端に攻撃的な言動をするケースでは、その裏にうつや燃え尽き症候群などの心の病が隠れていることが多い。親や教師は、子どもの様子や言動の変化に注意が必要だとロベールさんは言う。

ストレスに対抗する瞑想や呼吸法

 長年子どもたちを見てきたロベールさんは、ここ10年でストレスが原因で問題行動をとったり、体調を崩したりする子どもたちが多くなったと感じている。だが外的ストレスが原因だと分かっていても、「ストレス社会」といわれるほどストレスに満ちているこの社会では、たとえ学校制度が子どもの負担を軽くするような方向に改革されたとしても、社会に出ればまた新しいストレスに直面しなければならない。

 「人生には常に何らかのストレスがつきもの。全て排除することなどできないのだから、今すでに苦しんでいる子どもには対処法を学ばせることが必要だ」とロベールさん。

ストレス管理

ローザンヌのヴィラモン小学校で小学5、6年生の生徒を対象に行われているストレス管理を目的としたグループカウンセリングの内容。スクールカウンセラー、フランソワ・ロベールさんが主催。

1.瞑想の一種「グラウンディング」。自分のいる「今」「ここ」に集中することによって、余計な考えを取り除き、不安や緊張を軽減する。

2.自分のストレス分析「CINÉ(シネ)」。CINÉとはカナダの心理学者ソニア・ルピアン氏が定義する、ストレスを生み出しやすい要因の四つの頭文字(フランス語)をとったもの。ある状況が「自分でコントロールできず(contrôle)、予測不可能(imprévisibilité)で未知のもの(nouveauté)であり、自我(ego)を 脅かすもの」であればあるほど、ストレス度が高いことを示す。このキーワードに沿って、自分にとってどんな状況がストレスになるのかを把握する。

3.腹式呼吸法。たまったストレスを体内に吐き出す。

4.コヒーレンス(心臓呼吸)法。ストレス感情(不安・緊張・イライラ)をコントロールするためにとても効果的な呼吸法。心臓に意識を集中させながら5秒間息を吐いて5秒間吸う深呼吸を5分間繰り返す。

5.イメージトレーニング。強い緊張を生み出す場面を五感で具体的にイメージすることで、本番に備える。

 そこで、独自に考案したプログラムを使い3年前からローザンヌのヴィラモン小学校で、ストレス管理を目的としたグループカウンセリングを行っている。参加するのは、親や教師により支援が必要だと判断された5、6年生の小学生だ。

 5回のカウンセリングでは、ストレスをコントロールするための方法を一つずつ学んでいく。その一つが瞑想の一種「グラウンディング」と呼ばれる方法で、「自分」に意識を集中させるというもの。例えば、「椅子に座っている自分」の「今」に意識を戻すことで余計な考えを排除し、緊張や興奮を鎮める。

 また、腹式呼吸やコヒーレンス(心臓呼吸)法も学ぶ。これはストレスや負のエネルギーを体から解放するために有効だといわれている。こういったメソッドを身につければ、テストの前など極度に緊張したときやイライラしたときに呼吸法を実行し、自分の状態をコントロールできるという。

 自分のストレス源を把握することも重要だ。自分にとってストレスになる状況が、四つの項目(自分でコントロールできるもの、予測不可能なもの、未知のもの、自我を脅かすもの)のどれに分類されるかを見直すことで、子どもたちはストレスの原因をより的確に把握できる。

 ストレスになりやすいものが分かれば、それに備えるためのイメージトレーニングを行う。例えば、口頭試験の場面を想像する。その際、質問をする教師の顔や声、発言する自分、ペンを走らせる音などを、具体的にイメージさせる。ストレスのかかる状況を想像するのも、実際に体験するのも、脳にとっては同じ場所にほぼ同じだけの負荷がかかることが科学的に証明されていることから、状況を事前に細かく具体的にシミュレーションすることによって、ストレスに事前に対処できるという。

ストレス対策の広まりを期待

 ヴィラモン小学校のように、子どものストレスを軽減する特別活動やプログラムを導入しているところはまだまだ少ないが、教育現場では、子どもの燃え尽き症候群に対する注意が高まっていることは確かだ。教師の意識も高まっており、親より先に生徒の不調や異常に気づくこともある。

 メイランさんの教えている教員養成高等学校でも、学生の関心は高く、子どものストレスや燃え尽き症候群が論文のテーマになることも多いという。現在もメイランさんは、フリブール大学などと共同でいくつかの調査プロジェクトを進めている。

 これまでよりも年齢の低い10~12歳を対象にストレスの度合いや要因、燃え尽き症候群の兆候などを探るアンケート式の調査が行われる予定で、また、グループカウンセリングを受けた子どもたちにカウンセリングの前後でどのような変化や効果があったのかを客観的に測定する評価法を、ロベールさんと共同で考案している。

 ストレス管理や燃え尽き症候群に的をしぼった取り組みが客観的に評価され、その効果が認められれば、ロベールさんが始めたような学校現場での取り組みが教育現場でさらに広がっていくだろう。

学校や社会は、子どもたちのストレスや負担を軽くするためにもっと対策をとる必要があると思いますか?それとも、子どもたちが自分でストレスに対処できるように学んでいくべきだと思いますか?ご意見をお寄せください。


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