バーゼルの「エラスムスハウス」経営者、ティムール・ユクセル氏。チューリヒ生まれ。トルコ人の父親とスイス人の母親を持つ。ゼロから始め、国内で最も高級な希少本のディーラーになった。「1990年頃、私は職を求めてこの地にやって来ました。93年に前社長が引退し、後任として私に白羽の矢が立ちました。2007年まで社長を務めた後、事業を買収しました」
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チューリヒの旧市街で「ベンツEOS古書籍商」を営むゲルトルート&マルクス・ベンツ夫妻。希少本の売買は男性が多い分野だが、マルクスさんをこの仕事に引き込んだのは妻のゲルトルートさんだった。ゲルトルートさんの専門は医学や自然科学だが、同店の「ベストセラー」は希少な美術書だという。「もし私がコンピューター技術者という元の職業を続けていたら、私の世界観は狭いままだったでしょう」(マルクスさん)
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ペーター・ビヒセル氏は2003年、チューリヒの旧市街中心部に古書店「ファインブックス」をオープン。「学生時代から、1つの学問を極めるというより、むしろ様々な分野に広く浅く興味を持つタイプでした。これは学術的なキャリアには向きません。古書ビジネスを始めたのはそのためです。学問のバックグラウンドを持ち、色々な分野を少しずつかじっている者として」
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「金細工師は言った。用心せよ、ここでは非常に好奇心の強い人々と取引しているのだから」―アンドレ・マルローの幻想的散文「紙の月」(原題:Lunes en papier、1921年)の初版本に書かれたE.T.A.ホフマンの引用句は、古書籍の取引にふさわしい言葉だ。表紙や挿絵にフランスの画家フェルナン・レジェの版画が施されたこの初版本は、20世紀を代表する画商ダニエル・ヘンリー・カーンワイラー(1884~1979年)がジュネーブのイリブレリーで展示した作品の1つ
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バーゼルのボイムラインガッセにあるエラスムスハウスに足を踏み入れると、そこには独自の世界が広がる。完全予約制のこの希少本専門店は、生存競争にあえぐ業界のプレッシャーを全く感じさせない。客層こそ次第に変化したものの、ユクセル氏の携わるビジネスは一般の古書店とは全く異なる
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エラスムスハウスの歴代のカタログ。丁寧に作られたこれらの冊子は、店とコレクターをつなぐ主な手段だ。1800年に創業した同古書店の名前は、晩年をバーゼルで過ごした哲学者、ロッテルダムのエラスムス(1466~1536年)にちなむ
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ベンツEOS古書籍商。チューリヒ旧市街のキルヒガッセ17番地に店を構える
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ベンツEOS古書籍商のゲルトルート&マルクス・ベンツ夫妻は、希少なコミック本、特にスイスの人気キャラクター「グロービ(Globi)」の古いレア本も扱う。1930年代に百貨店チェーン「グローブス」の宣伝キャラクターとして誕生して以来、グロービは今もスイスの子供達に愛され続けている。国際的なレアコミックスの取引で見られる金額とは比べものにならないが(緑色の巨人「インクレディブル・ハルク」の初版本は最近49万ドル、約5600万円で落札された)、古いグロービの本には1万ドル近い値が付くものもある
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スイスの古書店では古代の旅行記をよく見かける。今も読み応えのある内容だ。ベンツEOS古書籍商の売れ筋は美術書だという
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価値ある本やコレクションをいかに見つけ出し、入手するか。それが古書籍商の成功のカギだ。「コレクションの下見に行くとき、私たちはまず、本はまだ棚に置いてあるかと尋ねます。最悪の答えは『いいえ、もう梱包して仕分けしました』です。どの書籍も独特の仕様なので、箱に入れてしまうと私たちの仕事が増えるのです。それに重い箱の上げ下ろしは腰を痛めます」(ペーター・ビヒセル氏)
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古書籍商のビヒセル氏は、2003年秋に最初の店を開いた。15~21世紀の書籍の買い取りと販売を行う
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ビヒセル氏の古書店では、文学、インテレクチュアル・ヒストリー、イラスト本、手稿、サインなどを中心に扱う。個人だけでなく法人コレクターからも高い評価を得ている。2017年3月、ビヒセル・ファインブックスはチューリヒ中心街の人通りの多いオーバードルフ通り10番地に移転した
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愛書家は、時に美術品コレクターとしての側面も持つ。美しく希少なものを入手したい欲求に加え、内容のクオリティは古書の価格設定において非常に重要な要素だ
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チューリヒにあるビヒセル氏のファインブックス店内
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天気の良い日には、通行人が立ち読みできるように店頭に安目の本を出す。ビヒセル氏は、これまで店で盗まれた本は3、4冊しかないと言う。書籍に関して言えば、バーゼルでは25年前の盗難事件以来、これといった事件は起きていない。「スイスで本が盗まれるのは図書館や家庭内が大半。それも子供が父親の本を売ろうとしたといった類です。もし強盗が入ったとしても、恐らく本には見向きもしないでしょう。非常に高価な本を本棚にしまっておいても大丈夫です。強盗がそれに気づくことはまずないでしょう」(ユクセル氏)
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