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若者が国連で達成したいこと

2019年のサミットではブラジルからハマンジア・パタソさん(写真)が若手活動家として参加した
スイス・ジュネーブで開かれるヤング・アクティビスト・サミット2021では世界の若手活動家らが一堂に会する。2019年のサミットではブラジルからハマンジア・パタソさん(写真)が若手活動家として参加した Keystone / Salvatore Di Nolfi

ジュネーブの国連欧州本部で18日、世界の若手活動家らが一堂に会するヤング・アクティビスト・サミット外部リンク2021(YAS)が開かれる。若者たちにとって、76年の歴史を持つ国連はどのような存在なのだろうか。

YAS2021では、地球規模の課題に取り組む世界の若い活動家6人が自身の活動内容を紹介。イベントに参加する若者らと直接、あるいはオンラインで交流する。

6人の中で最年少のギタンジャリ・ラオさんは弱冠15歳。米国の科学者で、水に含まれる鉛の含有量を検出する装置や、オピオイド(鎮痛薬)依存症の早期診断装置、ネットいじめの防止などに貢献した。昨年にはこれらの功績が認められ、米タイム誌から「Kid of the Year(キッド・オブ・ザ・イヤー)」に選ばれた。最年長のルアル・マイアンさんは26歳。戦争で荒廃した南スーダンで生まれ、難民キャンプで育った。現在、平和を呼び掛けるビデオゲームを開発中だ。

メディア関係者が立ち上げたジュネーブのNGO「dev.tv」のディレクターで、YASを創設したマリナ・ウートレンさんは「完璧さや神童だけを求めているのではない。アクティビズムとはアイデアを持ち、それを実行し、試し、改善することでもある」と語る。

ジュネーブに招かれた6人の活動家は素晴らしい経歴の持ち主だが、最も重要なのは彼らが具体的な解決策に取り組んでいることだ、とウートレンさんは言う。またそれが他の地域の若者たちにインスピレーションを与え、彼らがその解決策を使い、似たような問題に取り組むきっかけになるかもしれない、とも話す。「ケニアで効果があるなら、アジアや南米でも効果があるかもしれない」

若い活動家たちが見つけ出した解決策には例えば、サンゴ礁の回復、女性器切除の防止、リサイクル促進、貧困撲滅、持続可能な農業の推進などがある。

▼6人の若手活動家の1人、ルイーズ・マブロさんは、カカオ栽培を通して地元の人々を支援し、気候対策に貢献する「カカオプロジェクト」を立ち上げた。

若者主導のアクティビズム

近年、若者が主体となって活動する機会が増えている。グレタ・トゥンベリさんは、世界中の何百万人もの学生に向け、政治指導者に気候変動対策を求め学校を休むよう呼びかけたことで有名だが、この傾向はどう説明できるのか。

ジュネーブ大学のジャスミン・ロレンツィーニ上級研究員は「本当に変わったのは、教育とトレーニングだと思う。若者たちは持続可能性や環境、気候の危機などの問題が学校で盛んに議論されている時代に教育を受けた」と説明する。

情報へ広くアクセスできるようになったことや意識の高まりに加え、政治機関への信頼も低下するという長期的なトレンドもある。その中で、トゥンベリさんのような鍵となる人物が台頭し、世界的なムーブメントを引き起こす土壌ができたとロレンツィー二さんは話す。

「グレタ・トゥンベリ効果」の研究外部リンクでは、このスウェーデンの若き活動家をよく知る人ほど、自分も変化を起こせると信じ、環境のために行動しようとする傾向があることが分かった。

スイスでは、若者主導の運動はその上の年代をも巻き込んだ運動へと発展している。これには、スイスの歴史的な環境保護運動が関係しているとロレンツィーニさんは言う。スイスでは1970~80年代にかけ、反核団体や環境保護団体が原子力発電所建設予定地を占拠するなど活発に活動していた。若者たちが気候変動に対する抗議運動を始め、当時この活動に関わっていた人達が再び運動に参加するようになったのではないか、とロレンツィー二さんは指摘する。

「私たちは若者の運動のことをよく話題にする。彼らが企画運営者であるという意味では正しいが、誰が街頭に立ってこれらの運動を守っているのかを考えると、それは還元的なものといえる」

ロレンツィーニさんは一方で、これらの運動に対する誤解を意図的に利用して運動の重要性を矮小化し、国民の意見を反映していないと主張する人たちが出てくるリスクはある、と指摘する。

国連は時として素早く反応する力や行動力に欠ける部分があるかもしれない。政治機関への信頼が低下する中、若い人たちは国連に何を求めているのだろうか。

国連の若者たち

若い活動家たちがサミット期間中、国連で自分たちの解決策を発表することは、ある種の威信と評価を得られるとウートレンさんは指摘する。またサミットでは、参加する活動家らがジュネーブ内外の専門家と交流したり、指導を受けたりするセッションもある。

「参加したほとんどの活動家に、参加前と後で違いがあった」

ジュネーブ拠点のもう1つの活動にジュネーブ・ユース・コール外部リンク(GYC)がある。これは若者の声を国連に届けることを目的としたプロジェクトで、昨年初めにジュネーブ大の学生たちが立ち上げた。

GYCの共同設立者エヴァ・ルヴィソットさんは「根本的な問題として、現在、世界の若者がグローバルな問題に取り組むことができる共通の場があまりない。これに取り組みたかった」と話す。

GYCは今年、デジタルプラットフォームを立ち上げ、世界中の若者が個々の直面する問題や解決策を共有できるようにした。ここで出た内容はGYCが作成中の青年憲章に生かす。同憲章は国連に対し、若者の立場を示す指針となるもの。GYCは来年4月に初のグローバル・ユース集会を開き、憲章を改良する予定だ。

国連人道問題調整事務所(OCHA)でインターンをしているルヴィソットさんは、官僚的すぎるなどといった国連批判の多くは、世界平和の推進という国連の理念に向けられたものではなく、むしろ組織の運営方法に向けられたものだと指摘する。これらの問題は、改革によって対処でき、GYCがその解決策を提供出来れば、と考えている。

国際関係学専攻で、GYCチームの中心メンバーであるノア・ラコトリヤオニナさんは「国連は、世界においてとても重要なものを象徴している」と話す。

若者の運動と国連は同じ価値観を共有し、類似の問題に取り組み、なおかつ異なる戦略や資源を使う旧来の組織。ウートレンさんによれば、両者のつながりは以前にも増して強まっている。「国連には、若者のグループにはない制約がある。その逆もまた然り。だからこそ、力を合わせることがとても重要だ」。

国連は難民や海の保護、貧困や飢餓の撲滅、気候変動対策や男女平等の推進などに取り組んでいる。今週ジュネーブに招かれた若者たちも同じだ。彼らは国際社会の注目と支援に値する具体的な解決策を打ち出している。

(英語からの翻訳・宇田薫)

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