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「短期的な支援で移民を防ぐのは幻想的」

スイスコンタクトのサミュエル・ボンCEO / Daniel Buser

スイスは開発援助資金の一部を、難民・非正規移民問題の解決に充てる予定だ。経済志向型の開発援助財団「スイスコンタクト(Swisscontact)」のサミュエル・ボン最高経営責任者(CEO)に、スイス政府の新しい国際協力戦略(IC)について聞いた。

このコンテンツは 2020/08/08 09:00

swissinfo.ch:開発援助投資を増やすと、本当に移民の減少につながるのでしょうか。それともより多くの人々が亡命できるようになって、逆効果となるのでしょうか。

サミュエル・ボン:直線的な因果関係はない。開発協力は移民を減らす効果はあるが、長期的に見た場合だけだ。例えば職業訓練に投資しても、それだけでは移民を減らせない。包括的な対策が求められる。

例えば、人々が企業を設立しても良いと思えるような、または雇用を創出する国際投資家を誘致できるような法的安定性が必要だ。反対に、短期的支援で移民を防ぐのは幻想にすぎない。

swissinfo.ch:移民が完全に止まるのは、全ての国の生活水準が全く同一になった時だけなのでしょうか?

ボン:それが疑問なのだ。本当に移民を完全になくしたいのだろうか。それは開発協力の目指すところでもなければ、スイスの新IC戦略のゴールでもない。

グローバルにつながった経済を見れば、移民はますます重要な部分になってきている。例えば送金、つまり移民が母国に送る現金支払いを見てもそう。母国に還元されるお金は、世界の開発援助予算の3倍以上にもなる。移民関連の動きが経済で重要な意味を持つのはそういう理由からだ。

移民と言っても、母国の非常事態を理由にスイスで難民申請をするような人たちはごく一部に過ぎない。例えば大勢の循環移民がいる。他の国や地域で一時的に働き、その後帰国する人たちだ。スイスも同様で、多くの産業部門が外国人労働者に依存している。

ジュネーブ近郊のブドウ畑で働くポルトガル人の季節労働者たち Keystone / Martial Trezzini

したがって、開発協力においては移民を減らすことではない。移民が発生する際、どうしたら最大限の価値を双方に生み出せるのか、それを主眼にしている。

移民は多面的で複雑なテーマだ。開発協力によって移民を防ぐべきだと考えているのなら、それは微妙だと思う。本来ならば、どうすれば移民というものを人間的に威厳の満ちた、かつ経済的に価値のあるものにできるのか、ということが問われなければならない。

swissinfo.ch:それはつまりスイス政府への静かな批判でしょうか?

ボン:いや、これは政府を批判しているのではなく、その逆だ。政府は価値ある貢献をしていると思う。

スイスは、二国間開発援助プロジェクトを国際競争に開放した唯一の国だ。

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スイスは、人々が自国でより良い状態を見出せるよう尽力している。各国と対話し、不法移民・不正規移民を防ぐ努力もしている。

批判は政府に向けたものではない。きめ細かな認識がなされていない連邦議会に向けられている。連邦議会では物事が単純化される。これは連邦官庁のせいではない。

swissinfo.ch:ただ、あなたはこの新戦略に関し、連邦政府を別の点から批判しています。スイスはWTOのガイドラインに則り、開発援助プロジェクトを公に委託する唯一の国だと言われています。このため国外のNGOや利益重視の企業に与えられるプロジェクトが増えているというのです。逆に言えば、他国がこういうことをしないため、スイスのNGOが他国から契約を勝ち取る可能性はほとんどない。これは正しいですか?

ボン:その通り。だが、これは新戦略に対する批判ではない。市場開放は何年も前に決まったことだからだ。槍の長さが同じではないのが気にはなる。競争には賛成だ。私たちの気を引き締めてくれるから。

しかし問題は、スイスが二国間の開発援助プロジェクトを国際競争に開放している唯一の国ということだ。国際基準では、開発協力はWTO入札規則の対象外だ。スイスは自主的にこれを実施した。他の国ではやっていない。これが競争を歪める。

スイスコンタクトが援助しているパン屋で働く難民の女性たち © Keystone / Peter Klaunzer

だからこそ議会は自問すべきだろう。ほかのどの国もやっていないのに、スイスだけが市場を開放して果たして意味があるのか、と。

swissinfo.ch:政府は他国に対し、WTOガイドラインに従って開発プロジェクトを公に宣伝するよう圧力をかけるべきでは?

ボン:やってみることは可能だが、スイスがそれを押し通せるとは思えない。お分かりかもしれないが、開発協力は完全に中立ではない。国際協力戦略が純粋な慈善活動であったことは一度もなく、常に安全保障や貿易政策などが関係する。特に植民地の歴史を持つ大国は、地政学的・経済的な関心を開発プロジェクトに絡める。そのため、これ以上の市場解放に興味がないのだ。

SDCは、新型コロナウイルス危機の際、当然ながらスタッフを撤退させなかった。

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もし本当にすべての国が市場を完全に開放したら、それは歓迎すべきことだし、興味深いことだ。競争によってプロジェクトの力も高まるだろう。しかし、多国間対話でこれを可能にするだけの政治力を、スイスが国際機関で十分に持ち合わせているのかは疑問だ。だが、試してみる価値はあるかもしれない。

swissinfo.ch:スイス開発協力局(SDC)のパトリシア・ダンジ局長は先日行われた就任100日目の記者会見で、スイスの新戦略は柔軟に設計されており、現在のコロナ危機にも問題なく適応できると自信をのぞかせました。あなたも同じ評価ですか?

ボン:そう評価する。スイスのICには2つの利点がある。第1に、スイスの開発プロジェクトは長期的な視野で設計されていること、第2には、地元に強く根付いているということだ。SDCがコロナ危機の間、スタッフを撤退させなかったのは正解だった。困難な時でも頼れるパートナーとして、スイスの存在感を発揮したからだ。これは間違いなく評価されるだろう。

また、コロナ危機中の新たなニーズに、スイスは迅速かつ強力に対応できた。政府は比較的すんなりと追加融資を打ち出した。国の財政力たるゆえんかもしれないが、予算もすぐに変更できた。これはスイスの美しく寛大な伝統だ。

スイスコンタクト(Swisscontact)

国際開発プロジェクト実施に当たり提携しているスイスのパートナー組織。1959年、国内の経済界と科学界の関係者が、独立の非営利財団として設立。スイスコンタクトが「技術開発協力のための財団」と名乗るのは、援助機関ではなく、経済志向の開発組織を目指しているため。

年間予算は約1億フラン。他の援助団体とは異なり、公的な募金活動は行わない。

スイスコンタクトは、独自かつ委託のプロジェクトを実施する。2019年の従業員数は約1千人。発展途上国37カ国、またスイス国内で活動している。

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