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ジュネーブ発の科学外交 新局面へ

ジュネーブ最先端科学外交基金(GESDA)は、人類の未来に大きな影響を与える可能性のあるテクノロジーに注目している。人工知能(AI)は重点分野の1つだ
ジュネーブ最先端科学外交基金(GESDA)は、人類の未来に大きな影響を与える可能性のあるテクノロジーに注目している。人工知能(AI)は重点分野の1つだ Samuel Truempy Photography

科学と外交の世界の「接続」をめざすジュネーブ・サイエンス・ディプロマシー・アンティシペーター財団(GESDA)には大きな期待が寄せられてきた。具体的なプロジェクトの立ち上げに向けて、同財団は新たな局面を迎えている。

先月18日、スイス連邦政府の出資で2019年に設立されたGESDA外部リンク初会合外部リンクが開かれた。新型コロナウイルスの感染拡大によりオンラインでの開催となった。何カ月もの準備期間を経て、第一線の科学者68人と国際機関の代表や外交官ら17人が初めて一堂に会し、今後5~25年の間に予測される主要な科学的進歩を検討した。最終的に、GESDAの最初の科学的知見について有効な活用法を提案する予定だ。

革新的なソリューション?

GESDAは、長い時間をかけて計画され、多くの期待を集めてきた一方で、一般の人々にその活動は明らかではなかった。ついに明らかになりつつあるようだ。

同財団の目的は、学界、外交、市民社会などの「さまざまなコミュニティーをまとめ」、「最先端科学研究の進歩を予測し、(中略)それらの進歩を中心に、人類のための新たな取り組み、プロジェクト、ソリューションを開発する」ことだとスイスの食品大手ネスレの前最高経営責任者(CEO)でGESDA理事長のぺーター・ブラベック・レットマテ氏は話す。また、「GESDAはシンクタンク(調査・提言機関)であると同時に、ドゥタンク(実践する機関)でもある」と強調する。

設立当初は、GESDAを政府の出資を受けた議論するだけのグループではないかと懸念する識者もいた。NGOのスイスエイドは、GESDAは透明性に欠けるようだと指摘し、トップ2人(ブラベック・レットマテ理事長と連邦工科大学ローザンヌ校の前学長だったパトリック・エービッシャー副理事長)とスイスの多国籍企業ネスレとの関係が問題だとコメントした。

それにもかかわらず、GESDAは分野を超えた一流のメンバーを揃えたようだ。世界中から集まった科学者(「アカデミック・フォーラム」)に加え、先月17日に発表された「外交フォーラム」には、ミチェル・バチェレ国連人権高等弁務官、ペーター・マウラー赤十字国際委員会(ICRC)総裁、ジュネーブの国連スイス政府代表部のユルク・ラウバー大使などが参加している。

スイス連邦政府とジュネーブの支援を受けて

スイスのイグナツィオ・カシス外相は19年2月、GESDA設立を発表する際に、GESDAは国際都市ジュネーブの「古典的な」人道主義的課題ではなく、急速に発展する新技術をいかに規制すべきかといった未来の課題に専念するだろうと話した。例として、ドローン、自動走行車、遺伝子工学を挙げた。

また、今後数十年の間に世界的なアジェンダを支配するであろう新たな課題を議論するための最良の場として、国際都市ジュネーブは位置づけられなければならないとしたうえで、ジュネーブ市は競争に耐えうる名声を確立しなければならないと述べた。

GESDAの試験段階(19~22年)への初期資金として、連邦政府が300万フラン(約3億3480万円、19年2月時点)を提供する一方で、ジュネーブ市とジュネーブ州はそれぞれ同期間に30万フランを拠出する。さらに、スポンサーからの資金提供が見込まれる。GESDAの資金は慈善団体と「一部マッチング」されており、GESDAのチームがプロジェクトの資金調達に取り組んでいるとオリヴィエ・デシブールGESDA科学コミュニケーション・アウトリーチ部長はswissinfo.chの取材に対し語った。

2022年本格実施

最初の3年間、GESDAの科学や外交の専門家らには、会合を開き、取り組むべき課題を特定し、財団最初のプロジェクトを立ち上げることが期待されている。では、その次はどうなるのか?

「私達の活動が有益で、理にかなうことを示すためにこれからが重要な1年だ」とデシブール部長は指摘する。GESDAの方法論は実行可能で、プロジェクトには影響力があることをGESDA自身が示さなければならない。今年末には、GESDAの将来について、創設者である連邦政府、ジュネーブ市、ジュネーブ州を説得しなければならない。

GESDAは新たな一歩を踏み出したようだ。しかし、まずは財団の実力を示さなくてはならない。

(英語からの翻訳・江藤真理)

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