もう興味がなくなった?スイス国民の気候行動に伸び悩み

気候変動の影響が深刻化している。しかし、化石燃料の消費は減少するどころか、ピークを迎える兆しさえない。一方、スイスでは気候デモの参加者が過去5年で大きく減り、個人の取り組みも5年前のまま進展がない。国民はもう、気候問題への興味を失ったのだろうか。

おすすめの記事
「スイスのメディアが報じた日本のニュース」ニュースレター登録
「海面が上がっている!私たちも立ち上がっている!」
気候変動対策を訴えるデモ隊が声を合わせ、ベルン旧市街を少しずつ進んでいく。手製のプラカードを掲げたり、スピーカーを乗せたベビーカーを押したりする参加者のほか、一行の通過を待つ路面電車や足を止める通行人の姿も見える。
ベルンで働く若者世代としてデモに参加したポリーヌ・ゴネンさんはswissinfo.chに対し、「声を上げ続けることが、とても大事だと思う。気候変動が非常に重要な問題であることに変わりはない。ただ、他の重要な問題に埋もれがちだ」と語る。
デモには市民団体「スイス気候のための祖父母たち」からも高齢世代の4人が参加した。
メンバーのアンネ・マリーさんは「気候危機がとても心配で、若い人たちと連帯しようとしている」と語る。
危機を知らせる現象は、現在進行形で発生し続けている。ジュネーブに本部を置く世界気象機関(WMO)は3月、気候の現状に関する年次報告書外部リンクの最新版を公表した。それによると、2024年は年平均海面水温(全球平均)が産業革命前の水準を1.55℃上回り、2023年の史上最高記録を0.1℃更新した。海面水位や氷河後退の速度も過去最高だった。また、スイスはすでに夏の猛暑と氷河の融解、冬の降雪減少に悩まされている。

デモ参加者は減少
デモを主催した非政府組織(NGO)「スイス気候ストライキ」によると、参加者はベルン、チューリヒ、アーラウ、ルツェルンの合計で約6000人だった。ベルンでのデモは賑わいを見せたが、参加者は2000人。連邦議事堂前にある大きな広場の埋まり具合は半分程度だった。
この光景は2019年9月のデモとは大きく異なる。当時は気候運動の最盛期で、広場には数万人が詰めかけた。1カ月後の連邦議会総選挙では、環境政党の歴史的大勝、いわゆる「グリーン・ウェーブ」まで起こっている。しかし、その大波はすでに引いてしまった。
一連の気候運動はスイスで続く議論の形成に貢献してきたが、今は活動が縮小し、断片化しているようだ。気候変動に対する懸念は新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)やウクライナ侵攻、ドナルド・トランプ米大統領、生活費高騰の陰に隠れてしまっている。過激な抗議活動もまた、最適な異議の唱え方をめぐる意見対立を生んでいる。
それでも、ベルンの学生、シラスさんは「最初ほど大規模ではないが、私たちは今も積極的に運動に関与しているし、あきらめていない」と断言する。
スイス国民の考えは?
スイスの人々は気候変動についてどう思っているのだろうか?国民投票や世論調査の結果が示す方向性はまちまちだ。2月には、自然の回復力を超えない経済活動の義務付けを求める国民発議、通称「環境責任イニシアチブ」が大差で否決された。一方、2024年11月には高速道路拡張計画が53%の反対で否決されている。
世論調査会社gfs.bernで政策分析を手がけるトビアス・ケラー氏は2月、「(高速道路拡張計画の否決は)環境保護というテーマが有権者に大いに意識され、過半数を形成する力があることを示している」と記した。
同氏は、有権者は強制的な行動変容よりも優遇措置や自主的な取り組みを好むと指摘している。
大事な問題だが…
最近の調査結果には、スイスにおける優先事項の変化が表れている。
銀行最大手UBSの調査報告「心配事バロメーター外部リンク」の2024年版によると、スイスにとって重要だと考える問題を5つ選ぶ設問の答えに「気候」を含めた有権者は32%で、2023年の38%から減少。前年に続き、「健康」(40%から48%に増加)に次ぐ2位にとどまった。今年に入って実施した別の調査でも、気候を懸念する国内世帯は21%から14%に減少している。ただしUBSは、気候変動は「依然として中心的課題」であり、特にZ世代(19〜29歳)の46%が主な心配事に挙げていると強調する。
gfs.bernとスイス公共放送協会(SRG SSR)が2024年に公表した調査報告外部リンクでは、緊急の気候行動が必要だと考える人は67%に上ったが、政治家は十分な行動を取らないだろうと考える人は70%に迫った。
一方、個人レベルの行動を実践している割合は「車での移動を減らす」が51%、「航空機での移動を減らす」が55%、「輸入食品の購入を減らす」が56%、「暖房の設定温度を20℃以下にする」が50%に上った。
スイス連邦統計局(FSO)が2024年2月に公表した調査報告によると、「(スイス国民は)より環境にやさしくなっている」と認識する人は2023年に49%に上った。ただし、全般的な環境行動は2019年からほとんど変化していない。
報告執筆者らは「多くの人が環境意識は定着したと考えているが、この進歩は部分的にしか行動に結びついていない」と言明している。
同局によると、「飛行機に乗らない」と答えた人は2019年の20%に対し、2023年は26%に増加した。一方、暖房の使い方や、電化製品購入時のエネルギー効率への関心、有機食品の消費に関する項目では、変化が見られなかった。
デモ参加者が減った理由は?
スイス連邦工科大学チューリヒ校の環境研究者で、同校が運営する「スイス気候パネル」にも加わっているサラ・ゴム氏も、スイス国民の考え方と行動の乖離に言及する。多くの人が環境配慮を意識しているが、費用や時間、快適性との兼ね合いでうまく習慣を変えられずにいると説明する。
ゴム氏によれば、気候変動は今も極めて重要な問題とみられているが、他の問題によって存在感が薄れている。個人単位の行動の有効性を疑う気持ち、さらには気候デモの有効性を疑う気持ちも参加者の減少につながっている。
また、気候変動を抑制するための規制案をめぐっては、政治的議論の構図が明確になることで意見の相違が広がっている。ゴム氏によれば、気候関連の議論では分断が進んできた。運動も断片化している。ただし、デモを超えたところでは、さまざまな政治団体で市民の関与が続いている。
ゴム氏は「気候保護を訴える人々が結集して同じ運動を支持することは、難しくなるかもしれない」と予想する。
活動家らも、大衆の目に見える運動を続け、長期的に参加者を維持することは難しいと認めている。しかし、ベルンの参加者らは希望を失っていない。
スイス気候ストライキのメレト・シェファー広報はswissinfo.chに対し、「気候危機に何年も向き合うというのは、あまり気の進む活動ではない。まだ多くの人がここにいるという事実は誇っていい」と語る。
前出のアンネ・マリーさんは、気候運動は「勢いを取り戻している」と確信している。 「気候ストライキ運動は新型コロナでほぼ壊滅した。それが今、再び目を覚ましている」

編集:Gabe Bullard/dos、英語からの翻訳:高取芳彦、校正:大野瑠衣子

JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。