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スイスで暮らす日本人 日本への慕情を胸に 民謡津軽三味線の伝統をスイスで伝承

民謡津軽三味線・井坂流スイス支部の公演

舞台で演奏する民謡津軽三味線・井坂流スイス支部のメンバーたち

(Ko-kiraku)

日本の伝統文化をスイスで― そんな気持ちを持って日々、練習に励むグループがスイスにいる。民謡津軽三味線・井坂流スイス支部は今年で設立10周年。今月11日にはチューリヒでコンサートを開く。

 民謡津軽三味線・井坂流スイス支部が設立されたのは2008年。もともとスイスで日本人講師に地唄三味線を習っていた現支部長の酒井佐保子さん(チューリヒ在住)が日本に里帰りした際、茨城県にある実家近くの井坂家元の家を訪ねたのがきっかけとなった。

 立ち上げ当初は酒井さんとスイス在住の日本人女性ら6人だったメンバーも徐々に増え、多いときは20人を超えた。隔週土曜日の練習に参加するのは男性5人、女性10人の計15人。国籍は日本、スイス、ドイツで、年齢層も15歳~50歳代後半と幅広い。メンバーのほとんどは支部が置かれるチューリヒ州に住むが、往復4時間以上かけて南部ヴァレー州から通う人もいる。普段の練習ではグループ分けをし、課題曲を練習。年に2回行うワークショップでは日本から井坂流の名取らを招き、直接指導を受ける。

三味線を学ぶ多彩なメンバー

祖母の三味線を譲り受け1年半前から練習に参加しているガイザー美香さんは、「小さいときに聞いていた盆踊りや民謡をスイスで演奏できることによって日本とのつながりを感じる」と語る。

ドイツ人で会社員のクリシュ・ヨナスさんは「三味線の音色に魅せられてジャパニマンガ・ナイトまで追いかけて行った」と語るほどの大ファン。ホファー修子さんは「舞台と家では別人になる。家族からは、修子が二人いると言われる」と微笑む。 

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 グループの演奏には津軽三味線、日本の民謡、踊り、さらに和太鼓が加わる。立ち上げ当初から精力的に演奏会を行い、スイスと日本の国交樹立150周年にあたる14年には、スイスを訪問した皇太子さまの前で腕前を披露した。15、16年はスイス最大の日本カルチャーイベント「ジャパニマンガ・ナイト」で、ダボス会議も行われるコングレスセンターの大ホール(収容人数1800人)で演奏。昨年の演奏会は8回に上った。「それぞれ家庭や学校、仕事を持っているので、この公演数は大変だがみんな頑張っている」。創立時から在籍し、グループをまとめ役の一人でもあるデリニエ里美さんはそう話す。

 井坂流を名乗る以上、妥協はしない。立ち上げ当初は酒井支部長の自宅だった練習場も、10年頃に「井坂流スイス支部」を名乗るようになってからは町の集会場を借りた。また隔週土曜日の稽古に加え、自宅でも忍び駒と呼ばれる消音機能を付けて練習し、日々腕を磨く。立ち上げ時のメンバーで、ここで三味線を一から習ったというホファー修子さんは、「私たちは単なる愛好会ではない」と話す。だからこそ、「年に2回のワークショップは特別な役割を果たす」(デリニエさん)。

年に2回のワークショップ

 毎年2月と6月に日本から師範らを招いて行うワークショップは、特に気合いが入る瞬間だ。4日間の集中講座で、唄、三味線、踊り、太鼓をみっちり学ぶ。井坂流は譜面が無い。ビデオを撮ることはできるが、基本的には目と耳、身体で「暗記するしかない」。

 この10年で曲のレパートリーは随分増えた。ただ「覚える量がとにかく多いため、1回のワークショップでは終わらない曲もある」という。デリニエさんは「これまでに行ったワークショップは10年間で20回くらい。1回が4日なので、先生に教わったのは10年間でたった80日という計算になる。もし日本でやっていたら…。そういう時、遠距離はつらいなと思う」と話す。楽器のメンテナンスも一苦労だ。三味線を扱う楽器店がスイスにないため、修理が必要な時は日本に行くか、日本に行く友人に楽器を託さなければならない。

スイスでよりかみ締める日本への慕情

 スイス暮らしが演奏にいい影響をもたらすこともある。スイス人と日本人を両親に持ち、グループでは三味線と踊りを担当するボッツィーニ・留名さんは、日本から定期的にワークショップに来る筑波大学・津軽三味線倶楽部「無絋塾」の学生との交流を心待ちにしている。現在18歳のボッツィーニさんは「同じくらいの年齢の日本人から本場の日本文化を学ぶことが出来てすごく嬉しい」と話す。三味線のほかに唄も担当するホファーさんは「ここが異国の地だからこそ、歌詞をよりかみしめて唄える。自分の小さいころを思い出して、唄うたびに泣いてしまう曲もある」と話す。

 それは観客も同じだ。「井坂流では、めがねや時計などは公演時につけないようにと教えられ、私はめがねを外してしまうと舞台上から観客の顔は見えない。それでもスイス在住の日本人から『感動した、泣いた』という話を公演後に聞くと、やっぱりうれしい」(デリニエさん)。スイス人の観客も、三味線の力強い音や踊り子の華やかさに目を奪われているという。

 11日の公演を間近に控え、メンバーの練習にも熱が入る。今回は家元の前で日ごろの成果を発揮するまたとない機会でもある。デリニエさんは公演に向け「今回は尊敬する日本の師匠たちとも舞台を共にできる喜びがある。三味線演奏だけで20人を超える曲目もある。スイスの観客にこの圧巻の演奏を楽しんでもらえたら」と意気込みを語る。

 「スイスでも日本の伝統を後世に伝承するという気持ちで活動している」と話すホファーさんたち。2019年3月にはチューリヒ州クローテンで、スイスで活動する琴や和太鼓などの団体と日本の伝統文化の芸術祭を開催する予定だ。

コンサートに向けて練習に励むスイス支部のメンバー

2018年3月11日の公演で、スイス支部のメンバーは日本の師匠たちと舞台を共にする。三味線演奏だけで20人を超える曲目も披露する。(swissinfo.ch)


 民謡津軽三味線井坂流家元 井坂斗絲幸(いさか としゆき)

  • (公財)日本民謡協会公認 三味線・民謡師範教授
  • 井坂流 民謡・津軽三味線 家元
  • 民謡・津軽三味線喜幸会 会主
  • 筑波大学津軽三味線倶楽部「無絃塾(むげんじゅく)」 塾長

三味線職人の父、日本舞踊家で三味線演奏家の母のもとに生まれ、若年時より三味線演奏と職人修行の道に入る。三味線職人としての仕事を抱えながら、民謡津軽三味線にとどまらない華やかな演奏活動を展開。舞台の企画演出も手掛ける。子供から大人、初心者からプロを志す者まで数多くの門弟を抱え、何人もの人材を世に送り出してきた。伝統芸能の伝承、発展と若手の育成にも力を注ぐ。井坂流の海外支部は現在スイスのみ。

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