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映画祭


ロカルノ国際映画祭 五十嵐耕平監督の「息を殺して」に高い評価


里信邦子, ロカルノ


工場に迷い込んだ犬は、本物の犬なのか定かではない。ただ、工員たちも多くが犬を飼っていて、犬の話はしばしば会話に登場する。「この迷い込んだ犬は実はみんなが家庭で飼っている犬の象徴。家族を繋ぐものであり、また皆同じような生活をしているという意味でも使っている」と監督は言う (pardo.ch)

工場に迷い込んだ犬は、本物の犬なのか定かではない。ただ、工員たちも多くが犬を飼っていて、犬の話はしばしば会話に登場する。「この迷い込んだ犬は実はみんなが家庭で飼っている犬の象徴。家族を繋ぐものであり、また皆同じような生活をしているという意味でも使っている」と監督は言う

(pardo.ch)

第67回ロカルノ国際映画祭の新鋭監督部門にノミネートされた五十嵐耕平監督の「息を殺して」が9日、ロカルノで上映された。2017年の大晦日から新年にかけゴミ処理工場で働く人々を描いた作品は、自然光の差し込まない巨大空間で展開される人間関係の希薄さのせいか、深い虚脱感が漂う作品だ。しかし、未来と現在が混在し、物語性においても独自な作品だとロカルノ関係者から高い評価を得た。

 映画で描かれるのは、ゴミ処理工場での2017年から18年にかけての2日間だが、これといった出来事はほとんど起こらない。犬が1匹工場に迷い込んだぐらいだ。それを探すことで多少動きはあるが、あとはテレビゲームをしたり無気力な会話が女性1人を含む数人の工員の間であったりするだけだ。 

 会話を通して分かるのは、ほとんどの工員が離婚、不倫などで家族関係が破たんしていることだ。しかも、そうした話を聞く時の同僚の反応は鈍く無関心。五十嵐監督によれば「そうしたことは日本では日常的だ」と言う。

 こうした日本社会の縮図が、コンクリートで囲まれた幾何学的な空間に一つ一つびしっと決まって美的に収められていく。

 上映前のスピーチで、「この映画を通して日本の現実を理解してもらえたらうれしい」と語った監督に、映画のメッセージや日本社会の問題、また監督が探究する「違う映画の在り方」などについて聞いた。

swissinfo : 家庭は破たんしているし、相手に無関心で倦怠感あふれる登場人物たちですが、本当に日本社会をそのまま表しているのですか?また、そうした姿を描く映画のメッセージとは何でしょう。

五十嵐 : ここに出てくる家族破たんの話はよくあるもの。彼女が妊娠したけれど結婚したくなくてとか。離婚しそうだとか、お父さんが離婚しているとか。しょっちゅう聞く話。特別なことを描いているわけではない。

また無関心さも日常的に感じるもの。他人が不倫で苦しんでいると聞いても多くの若い人はまったく無関心。電車の飛び込み自殺でも、それで電車が動かないので会社に遅れるといった自分の目の前のことにしか関心がない。

映画のメッセージは?と聞かれると、まず僕らは夢が持てない世代。金持ちになるとか大きな夢とかもないし、仲のいい友達と一緒にいられたらうれしいぐらいの気持ちでいる。それでも社会的にはどう考えても暗くなる一方の日本社会で閉塞感はすごくあって、どういう風にしてもどうにもならないという感じを根底に皆持っている。でもその中で、人間らしく生きていく希望はまだあるということを伝えたかった。

映画の最後に迷彩服を着た工員が出てくるが、「あの人軍人じゃないよね」と道行く人に言われる。つまり、彼は軍人でもないし、まだ何かに固まっているわけではない。希望はあるということだ。

swissinfo : ところで、なぜ工場を選んだのでしょう?

五十嵐 : 工場のようなところを選ぶと人間の存在が希薄になる。それがまさに工場の特徴だと思うが、巨大であればあるほど、どんどん希薄になっていく。

僕は、あの工場をでっかいお墓だと思って描いている。(2人の幽霊が登場するが)死んでいる人も生きているのか死んでいるのか分からないし、生きている人も死んでいるようで、存在のあいまいさが交わるみたいな状態を考えている。

だから、自分でも撮影中に落ち込むぐらい、工場内には人工の光しかないし、新年になった最後のカットで、やっと外の風景が現れ、迷彩服を着た工員が(希望の象徴として)お墓である工場のドアを開け外に出ていく。

swissinfo : この工員も軍人の可能性があり、幽霊の工員も外国の戦争で亡くなったという設定です。今、日本では外国に自衛隊を派遣する可能性が高まっていますが、このことを映画で意識していますか?

五十嵐 : それは一つの要素として意識して使っている。また、特に今の社会が近い将来どうなるのか分からないということがある。3・11が起きて結構ショックを受け、その時、2011年以降の今のような日本があるとはまったく想像できなかった。だから数年後、友達が戦争に行って死んでいるという状況はありえないことではないと感じている。

放射能汚染を考えると、今でもこのまま東京に住んでいていいのかということもよく分からないし、九州や外国に移住したほうがいいのかもしれないし。こうしたことを3・11以前にはまったく考えなかった。東京で映画を作っていればいいと思っていた。当時、社会的なことを考える空気はなかったし。でも今はすごく社会的なことを考えるようになった。

swissinfo : 映画を2017年に設定した理由は?

五十嵐 : いろいろあって、まず憲法が改正された場合に一番早い時期はその頃ではないかということ。また2017年という設定は微妙な時間の距離感もある。遠すぎると勝手にいろいろ想像してしまうし、近いと何となく具体的に分かってしまう。ちょうど微妙な距離にしておいて、それと自分との関係を考えてみるというのがあった。

また、東京オリンピックは実は1940年にも開催されるはずだったが、日中戦争で38年に中止が決定している。つまり、2020年の東京オリンピック開催前の2017年から18年というのが何か重要な年になるのではないかと思った。

swissinfo : 映画では画面の構造がきちんと決まっていてきれいですが、かなり意図して考えているのですか?

五十嵐 : 美的な「決まった画面」と皆によく言われるが、そこに固執はあまりしていない。俳優の動きなどを指示して前もって決めないと画面の構造はうまくできないと人は普通思うけれど、僕は俳優に指示を出さずこの辺りから動いてくださいと言う。

すると俳優は自由に動いて「こういう風に動いた方がこういう風にみえるのでは?」といった話し合いをお互いにやって画面を決める。最初に画面ありきで、それに向けて作り込もうとしているわけではない。カメラマンも同様に意見を言って、最終的には僕が「じゃ、それで行きましょう」という感じだ。

swissinfo : あるインタビューで「映画の見方や作り方において、ハリウッドとは違うものがあってもいいと思う」と監督は話しています。その違うものとは、具体的にはどんなものなのですか?

五十嵐 : 映画の歴史で、ハリウッド映画みたいなものが主軸になり、「映画とはこういう形をしている」と、今は示されている。しかし、そもそも映画が誕生した瞬間には違う道、違う可能性もあったはず。

もう少し根源的に映画の可能性はどこにあるのかといったことを考えたり、それを映画で示せたりすれば面白いなと思っている。

カメラにしても、ドキュメンタリーやフィクションでの人の演技を写しとるといった風に使わなくてもいいのではないか。例えば、僕と友達との問題解決にカメラを使って、僕の問題をフィクション化したりなど、そういった多様な使い方もあると思う。

とはいえ、「違った映画の在り方」が実際何なのか、まだ僕にも分かっていないことが多く、今後もこうした映画の可能性を追求していきたい。同時に(今回の作品のように)プロの俳優と友人が混じって演技し、そうすることで自分たちの生活を映画に組み込めるように制作していけたらうれしい。

五十嵐耕平監督略歴

1983年静岡県生まれ。東京造形大学映画専攻に入学し制作した「夜来風雨の声」がシネマ•デジタル•ソウル2008で韓国批評家賞を受賞。その後、東京藝術大学大学院映像研究科監督領域を修了。修了制作作品の「息を殺して」が第67回ロカルノ国際映画祭の「新鋭監督コンペティション部門」にノミネートされる。

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