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第68回ロカルノ国際映画祭


オフィス北野、プロデューサー賞を受賞


里信邦子, ロカルノ


金豹の「ライモンド・レッツォニコ賞」を手に、微笑むオフィス北野の森昌行代表取締役(右)とプロデューサーの市山尚三氏(左) (Festival del film Locarno)

金豹の「ライモンド・レッツォニコ賞」を手に、微笑むオフィス北野の森昌行代表取締役(右)とプロデューサーの市山尚三氏(左)

(Festival del film Locarno)

スイス・ロカルノで開催中の第68回ロカルノ国際映画祭で6日、北野武監督が所属する映画製作会社・芸能事務所の「オフィス北野」が「ライモンド・レッツォニコ賞」を受賞した。これは、インディペンデント映画製作で国際的に最も活躍したプロデューサーや映画製作会社に与えられるめずらしい賞だ。屋外のピアッツァ・グランデ(グランデ広場)で8千人もの観客の拍手に迎えられ、賞を受け取った森昌行代表取締役に、受賞の感想や北野監督の映画製作のポリシーなどについて聞いた。

 同映画祭のアーティスティク・ディレクター、カルロ・シャトリアン氏は受賞理由を「俳優・監督の北野武に対しての深い敬愛と、また日本の若い監督や中国のジャ・ジャンクーのような海外の監督を支援してきたオフィス北野の活動に対する敬意からだ」と説明。さらに、「この賞は今までの活躍をたたえるだけでなく、今後も同じ道を歩んで欲しいと勇気づけるもの。オフィス北野の輝く未来を願っている」と話している。

swissinfo.ch: グランデ広場で、北野武監督やジャ・ジャンクー監督の映画の一カットが上映された後、大勢の観客から拍手を受け賞を受賞されました。感想を聞かせてください。

森昌行: まず、ロカルノのプロデューサー賞というものは、映画祭の中でも非常にめずらしいものです。オフィス北野の作品が映画賞や監督賞を受賞したことは今までもありましたが、プロデューサーの賞をいただくというのは初めてで、実はあまり実感がなかったのですが、グランデ広場で実際にあのように大きく紹介されると、緊張というより「報われた達成感」みたいなものがありました。

ヨーロッパでは国際的コラボレーションは普通ですが、日本で外国の監督の映画製作をサポートするのはめずらしいケースかもしれません。アジアの作品をサポートする会社は日本にもありますが、イランなどの国まで含めて外国の監督たちと親交を深めて映画製作をともにやるというのはめずらしいかなと思います。

また特に、巨匠といわれている人たちではなく、出発点にいるような監督を初めからサポートしているのは、中国のジャ・ジャンクーの場合が特にそうですが、非常にめずらしいとは思います。

だから、そうしたことが評価されて非常にありがたいですよね。

swissinfo.ch: こうした監督たちを支援すると決めるときの何か規準みたいなものがあるのでしょうか?

森: 基準と言うより、基本的には人と人の出会いが軸になり、それが広がってネットワークができたり、情報交換する中で監督との出会いがあったりし、そこから企画の話が進みます。2000年からインディペンデント映画を推進する映画祭「東京フィルメックス」を開催しており、こうした出会いに役立っています。

つまり、どこの国の監督をサポートしようというねらいが最初からあったわけではありません。ただし、もちろん誰でもいいわけではなく、オリジナリティーとイマジネーションが欠落している監督はお断りする。感覚的なことも含めて、他の人にはない、何か優れたものを感じなければ、サポートの話にはつながっていきません。

当然、北野映画もそうですが、私たちが資金的に全額出しているわけではありません。(監督には)ビジネスパートナーとしての出資者を説得するだけの実力が常に問われます。

私たちは決して人助けをやっているわけではなく、ビジネス戦略の中で誰が何を作るかに焦点をあてています。

swissinfo.ch: 実力が判断の基準だと。

森: この実力というものを判断するのは難しく、誰に実力があり誰にないかということはなかなか言い切れない。結局、実力はそれを信用することからしか始まらないと思います。

結果論かもしれませんが、結局、支援した監督は、信用させるだけのものを持っていたということでしょうか。

確固たるポリシーがあり、自分のやりたい作品をいくつかのキーワードで語れる監督でなければだめです。

swissinfo.ch: 今後も同じような方針でプロデュースされますか?

森: 基本的精神としては同じですが、どうやって一つひとつを作り上げていくか。とにかく目の前にあるテーマをクリアにしていくことが最優先です。私たちが、果たして5年、10年後に同じことを続けていられるか?正直言って、映画ビジネスは分かりません。

ハリウッドメジャーといわれる人たちでさえ、多額の借金を抱えて会社ごと崩壊してしまうケースもありますし、映画というのは、たくさんの人に向けて発する代わりに、リスクも非常に大きい。億単位のお金がかかったり、一本の映画で会社がつぶれたりということは、決してめずらしいことではないのです。

一本一本、ていねいに作りあげていく中で、お客さんとの距離感もしっかり見ていきながら、独りよがりにならないようにしていくということがテーマです。 

swissinfo.ch: さて、先ほど確固たるポリシーが監督には必要だと言われました。北野武監督はポリシーとして、たとえ有名な役者が演じたシーンであっても、もし期待通りの表現ができていなければ、そこの部分をカットするということですが…。

森: 北野さんは、あるときは役者を信頼しているし、あるときはまったく役者に頼らない。それは何を撮るかによって変わります。

ここは役者に任せていいというところは極端に演出をつけず、逆に役者に期待せず、むしろ自分の絵作りの中で作っていくので、役者に演技はしないで欲しいという場合もある。

非常に残酷なたとえですが、「犬を主役にしてでも映画は作れる」と言っています。例えば犬が尻尾を振る姿を撮るとして、それが悲しく見えるかうれしく見えるかは、受け取る側の主観。悲しく見えても、実はエサを目の前にしているかもしれない。しかし、そういう形ででも犬はきちん主役を演じられるということです。

結局、欲しいのは一つの映像であって、役者さんの人生を映画にしようとしているのではない。役者さんはあくまで一つの素材であるという、一つのクールな見方だと思います。

swissinfo.ch: 北野監督は一枚の写真で語ることができるような、そんな映画を目指しているそうですが。

森: 一枚の写真で語るということは、たとえば西洋の中世の絵画では、一枚のフレームの中に登場人物なども含めそれだけで30分ぐらい語ることのできるストーリーが描かれているということです。

つまり、台詞も音楽もいらない一枚の絵で語られるような映画ができたら、映画作家としては、最高の映像表現だろうということです。そうじゃないから、カメラを動かしたり、カットを細かく使ったり、あるいは台詞に頼ったりする。

ただし、映画には時間の流れがあり、その流れ自体に意味や映画の独自性がある。だから、一枚の絵をじっと見せるような「映画」は、果たしてそれを映画と呼べるかどうかは別として、あくまで表現者として北野さんが理想とするイメージだと思います。

swissinfo.ch: 北野監督は2005年、フランスの映画雑誌「カイエ・デュ・シネマ」創刊600記念号の特別編集長を務めました。

森: 有名な監督たちに写真をアトランダムに4枚選んでもらって、4コマ漫画のように話を作ってもらう試みを遊びのように楽しんでやりました。それ自体、かなり面白い企画だったと思います。

北野さんは、漫才の出身なので言葉の人だと思われがちなのですが、実は彼が漫才の時代からやっている描写というのは、話芸でありながら必ず絵がある。例えば田舎を笑いのネタにするときに、「お前のところは田舎だ」とは言わない。お前のところには、オロナミンCドリンクの看板があるとか、電車の板に油が塗ってあるとか、そういう描写をしながら、その描写で笑いを誘っていく。

聞いている人も、映像をイメージしていく。だから、監督になったのは無理のない移行だったと思います。つまり、もともと映像を話芸にしていたと私は思っています。

swissinfo.ch: 最後に、ロカルノ映画祭をどう思われますか?

森: おしゃれだと言うと変な言い方かもしれませんが…。妙にアカデミズムに染まっているわけでもないし、かといって娯楽一色のものでもないし。非常に居心地のいい映画祭ですよね。

プロデューサーに対する賞があるということもそういう(気持ちの良い)映画祭だということの一つですよね。ほとんどの映画祭が、プロデューサーに対しては冷たい視線を浴びせるので、時々居心地が悪くなるのですが、ここは非常に温かい。自然や気候のやさしさも含めて。

他の映画祭(例えばベルリン映画祭)にも名誉賞があり、監督や作品に与えられ、たまにはプロデューサーや映画製作会社に与えられることもある。しかし、初めからプロデューサーや製作会社だけに対する賞が、しかもそのやってきた経歴に対しての賞があるというのは、ここだけだと思います。そして今回それをいただき勇気も与えてもらったと感じています。

「ライモンド・レッツォニコ賞」

ロカルノ国際映画祭を20年以上指揮してきたライモンド・レッツォニコ氏によって、2002年に作られた賞。

監督を支援することで負うリスクを知りながら、勇気を持って実行してきたインディペンデント映画プロデューサーや製作会社に対し毎年、授与される。

日本の受賞は、今回が初めて。

「オフィス北野」は、北野武監督の映画製作だけではなく、他の日本の監督、中国のジャ・ジャンクー監督、イランのアボルファズル・ジャリリ監督などの製作を支援してきた。

また、ロカルノ映画祭では期間中、北野武監督作品「HANA-BI」、「Dolls(ドールズ)」、ジャ・ジャンクー監督作品「青の稲妻」が上映された。

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