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第62回ロカルノ国際映画祭 家族と孤独に迫る


佐藤夕美 ( さとうゆうみ ), ロカルノにて


2007年、ロカルノ国際映画祭で金豹賞に輝いた「愛の予感」の小林政広監督の新作が同映画祭の国際コンペティション部門に出品され、訪れる観客やマスコミの大きな注目を浴びている。小林氏が大きく影響されたと語るフランスのフランソワ・トリュフォー監督と今年1月に亡くなった小林氏の父に捧げたという「ワカラナイ」は、孤独の中、糊口をしのぐ16歳の亮の寂しさを描いた。

今年の国際コンペティション部門に出品された映画の多くが、家族関係と人間の孤独、そして複雑な人間関係が主要テーマとなっている。しかし、そのアプローチの仕方はさまざまだ。

生き抜くための周囲の協力

 国際部門で8月6日に発表された第1作は、南アフリカのオリヴァー・ヘルマヌス監督による「シェリー・アダムス ( Sherry Adams ) 」。仲間に撃たれて半身不随になった息子を介護するシェリーの苦悩や孤独、そして周囲の友人とのかかわりを描いた。ヘルマヌス監督にとって初めての長編がいきなり国際コンペティション部門に出品されることになった。

 シェリーは介護のために仕事を辞め、息子ドノヴァンの薬を買うことさえできず、万引きをすることさえある貧しい母親だ。
「母親の勇気。そして生き続けるためには周囲の協力が重要であることを描きたかった」
 と監督が語るように、社会福祉を学ぶ白人の若い女性が奉仕を申し出たり、友人がビスケットを持ってきたり、周囲とのかかわりも描かれていく。ドノヴァンを撃ったのは、実はその友人という設定は「常にケープタウンでは現実に起こっていること」で、この映画の題材となったのは、監督自身の姉妹の身近に起こった事件だったという。

まったくの孤独

 貧困でありながらもケープタウンに住む人々は、シェリーを囲んで助け合って生き続けていく。一方、小林政広監督の「ワカラナイ」の亮は、まったく独りで生き続ける。友だちもいざとなると頼りない。コンビニでアルバイトをするものの、母親の入院費は払えないまま。家はガスも電気も水も止められた。

 16歳の少年が抱えるのは、食べていかなければならないという問題だ。盗みが発覚しいよいよ窮地に追い込まれる少年。唯一、心を休める場所だった青い舟を棺として、母親を海に埋葬する亮。やることなすこと大人の社会では「犯罪」だと言われる。警官には「サッカー選手になるという夢をかなえるため、しっかり更正して健全な精神を取り戻さないと」と言われ、トリュフォーの映画のように「大人は判ってくれない」。不景気で社会の底辺で生活する人が多くなっているとはいえ、少なくとも南アフリカより豊かなはずの日本に住む亮は、周囲の理解も得られずすっかり孤独なのだ。

 いつか少年の映画を作ろうと心に温めていたという小林氏は「トリュフォーには到底及ばなかった」とはにかむ。この映画を作るきっかけになったのは、自身の父親の葬儀で「3年ぶりに会った16歳になる先妻との間の子どもが、一瞬誰だかわからなかったこと」だったという。
 「これまで自分はまだ子どもっぽくて作れなかったが、7歳になった自分の子どもを見て、54歳の自分は少しは大人になったかと思いシナリオが書けた」
 と言う。

 2005年カンヌ映画祭コンペティション参加作品「バッシング」で女性を描き、ロカルノ国際映画祭で金豹賞を受賞した「愛の予感」で親を描き、今回の「ワカラナイ」で少年を描く3つのシリーズとして完結する。小林氏は、映画監督として
「社会的な映画にしたくなかった。映画は政治と関係ないところにあるべきだと思っている」
 と語る。

 今回の国際コンペティション部門のこの2本の作品は、同じ家族や人の孤独を描く映画でありながら、それぞれ違った社会環境が背景となって出来上がった作品だ。
「今の日本の若者に、希望を持てといっても難しい」
 と語る小林氏の映画は、少年の問題をいったん大人に預けて幕を閉じる。

「ワカラナイ」

2009年、日本、カラー、104分
監督 小林政広
制作 モンキータウンプロダクション
キャスト 小林優斗 柄本時生
小林政広

「シェリー・アダムス」

監督 オリヴァー・ヘルマヌス
キャスト デニス・ニューマン、キーナン・アリソン

第62回ロカルノ国際映画祭

8月5日から15日までイタリア語圏ティチーノ州のロカルノ ( Locarno ) 市で開催される。
カンヌ映画祭と並ぶ長い歴史を持ち、ジャンルの多様性や若い監督を応援することなどで定評のある、ヨーロッパの代表的な映画祭。
コンペティションでは、メインの金豹賞部門 に18の作品が、新鋭監督部門 ( Cinéastes du présent ) に17の作品が出品されている。
また今年は日本のアニメ約80本を歴史的かつ総合的に眺める「マンガインパクト ( Manga Impact ) 」が企画され、上映、展覧会、対談などが開催される。これはイタリアの「トリノ国立映画博物館」との共同企画で9月16日からは、トリノで開催される予定。
戦前の短編アニメ、戦後の手塚治作品から、最新の作品まで幅広く上映。高畑勲監督特集、富野由悠季監督特集、「スタジオ・GGAINAX」の特集、シンポジウム、セミナーなども組まれている。

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