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行って得する美術・博物館 -3- 45億年前からユーモアたっぷり−スイス国立博物館−

スイスは、州や企業、個人が美術館や博物館を経営していることが多いのだが、ここはスイスでは珍しく国立の博物館だ。スイス連邦政府の肝入りで国内外からの観光客を楽しませている。

チューリヒ中央駅を駅前通り側に降りて右を見ると、中世の城のような美しい建物が目に入る。ここは単なる博物館を超えて、パーティやダイアナ・ロスのコンサートまで開かれる市民憩いの場所だ。

 観光ガイドにはスイスの歴史を様々な角度から展示していると載っていたが、実際行ってみると、展示はなんと45億年前の地球誕生から始まる。はじめに置かれたショーケースには、10万年ごとに0.2ミリの間隔で地球の歴史が展示されている。人類が誕生したのは、長いショーケースの最後からたった0.1ミリ手前だ。我々の歴史なんて、地球規模で言えば、たったこれくらいのものでしかないと実感させる。

マンモスが歓迎

 石器時代に関する真面目な説明が続くと思いきや、哺乳類が出てくる時代には哺乳瓶(!)が陳列されていた。日本人の我々が馴染んでいる博物館に比べ、スイスの国立博物館はユーモアたっぷりだ。陳列台の角をひょいと曲がると、今度は巨大なマンモスが突然現れ、ぎょっとさせられる。

 石器時代の見所はいろいろあるが、なんといっても等身大のマンモスは圧巻だ。子供たちが大喜びするこのマンモスは、実は考古学上、非常に貴重なもので、発掘された本物の骨や身体の一部を使って再現された。

 広報担当部長のコンラット・イェッギ氏に「この美術館で最も貴重な展示品はなんですか」と聞くと紀元前400年の金のペアのブレスレットを見せてくれた。ジュラ山脈周辺の町で、市民が「家を改築する時にこんなものを見つけたのですけれど」とイェッギ氏の知り合いに渡したのがきっかけで、陽の目を見ることになった。これを見た時、博物館の芸術員は、皆まさに息を呑んだそうだ。

 「大掛かりな発掘作業をしても見つからないのに、偶然とんでもなく貴重なものが見つかることが結構あるんですよ」とイェッギ氏は笑う。スイスは考古学の研究上、宝の山の上に乗っている国なのかもしれない。

 石器時代のアクセサリーは2006年のパリ・コレクションにも使われていそうな斬新なデザインだ。それもそのはず、多くの世界的デザイナーがここに来て参考にするという。

一見素朴、その実態は最新ハイテク

 本物を見ながら人類の歴史を勉強できるとあって、学校の先生に引率された子供たちが引きも切らない。本物のがい骨も当時の方法で埋葬されており、大人にとっては少々気味が悪いが、子供たちは目を輝かせるそうだ。墓にはがい骨が太陽に向かって座る格好で、何体も一緒に埋葬されている。イェッギ氏によると、1つの墓に1人が横たわった格好で埋葬されるのは、人間の歴史から言ったら比較的新しい現象なのだそうだ。

 ローマ時代の展示は木の枠で素朴に囲まれている。これを設計したデザイナーは舞台装置の美術家だそうだ。博物館という概念に縛られず、展示品を最も効果的な方法で見せることを第一の目的にした。ガラスなどで展示物が来場者と仕切られておらず、砂の上に石器が散らばっている。一見無造作に置かれているように見えて、綿密に照明や位置が考えられているそうだ。

 それにしても、すぐ手に取れるような位置に貴重なものが置かれているが、子供や心無い人たちがひょいと持って行ったりしないのだろうか。「そこは見えないところで厳重な安全体制が敷かれています」とイェッギ氏はウインクする。一見、素朴でユーモアたっぷり、でも実はハイテクにしっかり守られているということか。試しに誰もいないところで展示物に近づくとアラームが鳴って係員が飛んできた。

1600年前のビジネスマン

 2000年前のブロンズ製水道管は、最先端の技術できれいに汚れが落とされて展示されている。まるで最近まで使われていたかのようだ。土の重さにも耐えられる高い技術を持ち、しかも使われなくなった水道管は他の目的にリサイクルされたそうだ。現代の私たちが最近になってやり始めたことを、2000年前の住人がすでに行っていたとは驚きだ。

 ローマ時代のヘルメットもこの特殊な技術で洗浄されているため、使っていた本人の名前もちゃんと読める。まるでレプリカのようだが、すべては本当に発掘された本体だ。

 1600年前のメモ帳も展示されている。小さな木で枠を作り、粘土が詰まっている。この粘土の板に、石器を尖らせた「ペン」を使って文字を書き込む。1600年前、「ビジネスマン」がこれを手元に持って、必要事項を書き込むところを想像してほしい。

見えない相手からのユーモア

 美しい中世のキリスト教聖像や絵画の中を歩いていると、突然壁に穴がくりぬかれており、古い石壁がむき出しになっていた。「これは何ですか」と聞くと、「この建物は歴史的にも貴重なものなので、中がどうなっているか見せているのです」との答えだった。何の説明も付いていないので、ただ単に修理中なのだと誤解されないのだろうか。イェッギ氏によると、設計者はわざとこのように茶目っ気を出したらしい。

 1898年設立、ここはスイスで最も格式高い博物館の一つなのだが、漂っている雰囲気はいたずらっ気たっぷりの若者のようだ。見学者は見えない相手に冗談を投げかけられているような気分になるかもしれない。日本語によるガイドの説明がないのは残念だが、英語やドイツ語、フランス語などのサービスはあるので、なるべくガイドを受けながら廻ることをお勧めする。

 ユーモアは続く。突き当たりの部屋ではキリストの絵の後ろになぜか18世紀の薬屋が再現されている。絵の後ろに細い入り口があって裏に廻れることに気づかない人も多いだろう。なぜここに薬屋が?「そうですねえ、ここを作った設計者独特のユーモアなのでしょうねえ」とイェッギ氏も苦笑する。

単なる博物館を超えて

 カフェテリアは窓がたくさんついた明るい雰囲気だ。窓辺にはそれぞれ8本のキャンドルが揺れる。半年ごとに壁紙が変わるそうで、これもアートの一種なのだそうだ。カフェテリアの横にあるお土産ショップも充実している。前述した1600年前のメモ帳のレプリカや、エーデルワイスの成分が入ったオーガニックの石鹸などは良いスイス土産になるだろう。ひまわり油と小麦のぬかで作られた石鹸は、魚のにおいを消すそうで、魚料理の際に大活躍するかもしれない。

 半年ごとに開かれる特別展もお見逃しなく。スイス人画家、アドルフ・ホドラーがデザインしたドアをあけると豪華な大ホールが現れ、特別展はここで開かれる。このホールを過ぎると青を基調にした「青の間」だ。映写機などを持ち込んで会議場として利用できる。次の部屋は「赤の間」だ。シャンデリアまでが赤を基調にした部屋で、ここでは特別なディナーや結婚式、クリスマス・パーティなどを開くことができる。シーズン中はほとんど毎日予約でいっぱいだそうだ。

 国立博物館の庭では、ファッション・ショーやコンサートも多く開かれる。「私がここに勤めている理由の一つは、仕事をしながら、窓の外で生のダイアナ・ロスやBBキングが歌っているのを聞けることですよ」とイェッギ氏の目はひときわ輝いた。イベントの多くは7月に開催される。夕焼けが古城のようなこの博物館を金色に染める時間に始まるので、サンセット・ライブと呼ばれる。

swissinfo、遊佐弘美(ゆさひろみ)

キーワード

同博物館は、1898年設立、スイスで最も古い博物館の一つ。
1年間で50万人の入場者がある(コンサートなどのイベント来場者も含む)。

補足情報

‐開館時間:火曜日から日曜日、午前10時から午後5時まで。

‐チューリヒ中央駅から徒歩5分。

‐入場料:大人5フラン(約450円)、失業者、年金生活者、学生は3フラン(約270円)。16歳以下の子供は無料。15人以上の団体は1人3フラン。

‐毎年7月にはコンサートやファッション・ショーが開かれる。

-夕方の美しい時間に開催されるので「サンセット・ライブ」と呼ばれる。

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