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雅楽でポップス


東儀秀樹、古澤巌、coba、本質の音がスイスで爆発




「私のお気に入り」の演奏に渾身の力を込める東儀さん(左)とcobaさん。ボーダーシャツを着るのは船乗りに敬意を払うためとcobaさん。船乗りがいなかったらアコーディオンは長崎の出島に届かず、「今の僕もいない」から (swissinfo.ch)

「私のお気に入り」の演奏に渾身の力を込める東儀さん(左)とcobaさん。ボーダーシャツを着るのは船乗りに敬意を払うためとcobaさん。船乗りがいなかったらアコーディオンは長崎の出島に届かず、「今の僕もいない」から

(swissinfo.ch)

それは静寂な雅楽の舞で始まり、最後はポップスのリズムに酔いしれた観客が総立ちでブラボーの声を鳴り響かせるものだった。ジュネーブで22日開催された雅楽の東儀秀樹、バイオリンの古澤巌、アコーディオンのcobaというトップ奏者の演奏会だ。楽器の音の可能性を真摯(しんし)に追求しながらも、「音楽とは観客を楽しませること」という哲学は決して崩さない3人のコラボ。東儀さんを軸に各々に聞いた。

 「みなさんが総立ちで拍手をしてくれ、うれしかった。僕のやってきた方向がまちがっていなかったと実感した」と、演奏後に東儀さんは顔をほころばせた。

 何と言っても、東儀さんが奏でる2千年もの歴史を持つ篳篥(ひちりき)と笙(しょう)の音は衝撃だった。特に篳篥は聴き慣れた西洋のメロディーに独特の色を加え、はるかかなたの地平線に意識を飛ばせてくれる。

 両手に包まれた超小型のパイプオルガンのような笙も、サウンド・オブ・ミュージックの「私のお気に入り」の曲を奏ると、そのきらめくような多様な音に会場は静まり返る。そこにcobaさんのアコーディオンが入り、その音色を継承する。「二つの楽器がマッチするのは当然。笙はアコーディオンの元祖だから」と、演奏後に東儀さんが説明する。笙の原型は2千年以上も前に東南アジアで生まれシルクロードを経てヨーロッパに伝わりダブルリード楽器を生み、そしてアコーディオンが生まれた。

 そんな「シルクロードの楽器」を弾く東儀さんだからこそ、西と東が出会う作品を作曲・編曲できるのでは?「僕の曲を古今東西のものがミックスしていると人は分析するが、でも別にそれを狙って曲を作ろうという気負いもなく、もともとロックやジャズ、クラシックといろいろな音楽を聴いてきた人間が随分後になって雅楽を習得するということになり、両方ミックスしたものが自然にひらめいただけ」との答え。

 「私のお気に入り」のような曲の選択も、「好きで選んでいるだけ」。しいて言えば、雅楽の楽器がいろんな形で無理をしないで生かされれば楽しいなといったスタンスで選んでいる、という。


ポップスで雅楽の音を発見

 ただ、笙や篳篥もこうしたポップスで使われて初めてその独自な音色を発見できるのでは?との問いには、(ポップスやジャズの)コラボを入り口にして古典の本物の部分に興味を持つ人が増えているという意識はすごくある、と話す。ただし、観客のこうした発見を助けるための「伝道師」になっているという意識はないと釘をさす。

 それでも、今回のコンサートでは東儀さんがお面をつけ雅楽を舞い、その楽器や装束の説明なども、要所要所でされた。「日本の伝統というと、外国人も日本人も江戸時代辺りを想像する。そうではなくて2千年も前の、今はシルクロードにもなく日本にしかないものを知ってもらうこと。しかもそれが今も継承され、新しいコラボにも順応できる可能性を持っていると知ってもらうことが必要だと思った。それができると幅広いコンサートになるのではと」

笙などが伝わった奈良時代の楽師の姿で登場した古澤さん(左)と東儀さん。スーツ姿で自由に動いていた古澤さんが急にかしこまっているので、「似合っているよ」と東儀さんが声をかける。「でも着心地がもう一つ…」と答える古澤さんに観客は大笑い (swissinfo.ch)

笙などが伝わった奈良時代の楽師の姿で登場した古澤さん(左)と東儀さん。スーツ姿で自由に動いていた古澤さんが急にかしこまっているので、「似合っているよ」と東儀さんが声をかける。「でも着心地がもう一つ…」と答える古澤さんに観客は大笑い

(swissinfo.ch)


雅楽でバイオリンに秘められた音と出会う

 東儀さんが「僕の曲を表現するのにとてもいいバイオリンを弾いてくれる」と信頼を置くバイオリンの古澤さんは、今もベルリンフィルの日本公演に呼ばれるトップのクラシック奏者。その彼が東儀さんに出会ったのは自分のコンサートに招待したから。「笙や篳篥の音は何となく聞いたことはあるけれど、この音は何だ?と初め思った。こんな2千年もの楽器が継承されていることにも衝撃を受けた」

 ただ、いざ雅楽と合わせる段になって、「どうやったらいいのか、幼いころから神社などで耳にしている身近なはずの雅楽の音がなぜ分からないのか」と苦しんだ。雅楽と合わせられるような演奏法は習ったことがなかった。さらに、雅楽と同じくらい古い中国の胡弓(こきゅう)のような音を東儀さんからは求められた。

 その後、試行錯誤するうちにバイオリンに秘められた「もう一つの音」を発見し、演奏法もいろいろできるようになったと古澤さん。「雅楽と一緒に弾けるような技術を身に着ければ、大概のものは弾けるようになる」。それは、クラシックの教育でも基本となるバロックの古楽をやれば、それ以降のものは簡単に弾けるようになるのと同じだという。

 「僕は今の方がうまく弾けるんです。本来は若い時の方が弾けるものなんですが」。雅楽と合わしたり、ポップスを学んだりといろいろやったから。ポップスをやることでクラシックの音符の秘密もどんどん分かってくる感じ、という。

 そして、東儀さんとのコラボも18年ぐらいになるが、経験を積んで今やっとここまで来たと言う。また、「自分自身がもっと自由になってきている」と感じている。

コラボは必然性があってやるもの

 cobaさんが1年前に2人のツアーに新しく加わったことを、古澤さんは「彼がテンポの速い華やかな曲をやるので、ゆったりとした音が持ち味の東儀さんも負けずにはり切って吹くようになった。それで曲幅が広がった、良い化学反応が起こった」と評価する。

 「コラボは必然性があってやるもの」という哲学を持つcobaさん自身は、誘われたときに、やるんであれば3人でしかできないことをやろう、そして3人にしかできないオリジナル曲を作ろうと提案した。(cobaさんは実際自ら多くの曲を3人のために作っている)

 なぜ必然性にこだわるのか?それにはアコーディオンという楽器の不遇さが関係している。「のど自慢の伴奏楽器としか見なされてこなかった、楽器の世界のみにくいあひるの子のアコーディオンを白鳥にして輝かせたい、それを自分の手でやりたいと願った僕は、まずこの楽器の音の本質を探っていった。アコーディオンの音とは何か?何を出せるのか?しかもかっこいい新鮮な音とは何かと」。そして、「本質を見て、本質が引き起こす必然性がない限り、行動は起こさないという考え方が生まれた」と続ける。

 では将来は?3人は今後もコラボを続けていくのだろうか?実は来年のことははっきりしない。興味があるかと聞かれれば、あるとcobaさん。ただ、「3人でやるという必然性があれば続けていきたい。それに正直でなくなるとアートは死んでしまうから」。

 東儀さんはこう言う。「コラボは続いていくかもしれないし、これで最後かもしれない。転がってみないと、転がっていく先がどこか分からないことも僕はよしとしている。(結局は)転がるということはいい方向に行くと僕は思っているから」

 そして、今も昔も自分のやっていることを自分からまず最大限に楽しむということ、自分のやっていることが好きであるということに、「胸を張っているし、誇りとか、責任とか、自信を持っている。そんなところです」と、またも流れるようにさらっと括った。

コンサート概要

雅楽の東儀秀樹、バイオリンの古澤巌、アコーディオンのcobaというトップ奏者3人のコンサートは、日本・スイス国交樹立150周年にちなみジュネーブで10月22日、ベルンで24日、開催された。

3人は9月に新しいアルバム「TFC55」を発表。同時に日本で全国ツアーを始めており今回のコンサートはその一でもある。TFCは3人の名前の頭文字から、55は3人が55歳の同い年であるから。

東儀さんと古澤さんは18年前から、東儀さんを古澤さんのコンサートに呼ぶような形でコラボを続け、6年前から東儀さんの全国ツアーに古澤さんが参加。cobaさんは1年前から、2人にジョイントしている。

なお、記事に挿入されている「Love Hat Trick 」はジュネーブで演奏された曲の一つ。cobaさんが作曲しアルバム「TFC55」に収められている。サンバのリズムにのって篳篥、バイオリン、アコーディオンが軽やかにスウィングする。

swissinfo.ch

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