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第69回ロカルノ国際映画祭2016


ロカルノ映画祭で、塩田監督のロマンポルノ「風に濡れた女」に熱い拍手


里信邦子, ロカルノ


「7日間の撮影中、アクションが多いために主人公の男女2人はたくさんあざをつくってやっていた。しかし、一言も文句は言わなかった」と塩田監督 (pardolive.ch)

「7日間の撮影中、アクションが多いために主人公の男女2人はたくさんあざをつくってやっていた。しかし、一言も文句は言わなかった」と塩田監督

(pardolive.ch)

塩田明彦監督の「風に濡れた女」が、第69回ロカルノ国際映画祭のコンペティション部門で上映され、観客から熱い拍手で迎えられた。同作品は、1971~88年に公開された日活ロマンポルノを蘇らせるリブートプロジェクトの一環で制作されたもの。映画祭の芸術監督を務めるカルロ・シャトリアン氏は、選考理由を「映画のジャンルには関係のない、この映画独自の表現力と芸術性だ」とし、高く評価した。また作品は、従来の成人映画での定型化された男女の役割が逆転している点でも人を魅了する。

 「風に濡れた女」は、過去を忘れようと山で隠遁生活を送る高介が、ある日出会った野性的魅力に溢れる女性、汐里(しおり)のとりこになっていくといった話だ。

 そして映画では、何と言ってもこの汐里が光輝いている。美しいだけではなく、精神的にも肉体的にも強く、高介や複数の男性をリードし、いわば「引っ張り回す」。

 塩田監督によれば「ネコ科の動物の化身」というこの汐里を演じる間宮夕貴さんは、その圧倒的な演技について問われこう答えた。「今しかできないものをやりたかった。また、こうありたいという願望を含めての自分らしさを出したかった。肉食動物のように男性をリードする今の日本女性の象徴のような汐里を演じるが、それは自分らしさを出しやすいキャラクターだった」

 ロカルノ映画祭の、しかもメインのコンペティション部門に招待されたことを、「僕の作品が評価されただけでなく、日活ロマンポルノという日本独特のジャンルに対するリスペクトを感じてうれしかった。それに、いい映画なら成人映画であろうと一般映画であろうと差別なく上映するという、この映画祭の心意気にすごく胸を打たれた」と語る塩田監督に聞いた。

女性が見ても楽しめる成人映画にしようという意図があった」と語る塩田明彦監督 (Pardolive.ch)

女性が見ても楽しめる成人映画にしようという意図があった」と語る塩田明彦監督

(Pardolive.ch)

swissinfo.ch: 中国の本からインスピレーションを受け「動物の化身としての人間を描こうとした」ということですが、それとエロチシズムの表現とは、どう結びつくのでしょう?

塩田明彦: 映画全体をどういうイメージで作るかと考えたときに、これは、「大人向けのおとぎ話なんだ」、そして「女の人がとにかく強い話なんだ」ということを基盤にしました。獰猛なトラのような、ネコ科の動物の強い女の人に男がコテンパンにやられる話を撮ろうと思ったのです。そして、それがうまくいきました。

これを演じてくれた間宮夕貴さんという女優が見つかって、本当に良かった。彼女はすごく度胸のある人で、普段はおだやかな笑顔の可愛い人なのですが、カメラの前に立つとキリッと変わる。芯のある度胸の据わった女性に見えてくる。あれはすごく不思議です。

swissinfo.ch: つまりは、強い女性が男性を振り回すことでエロチシズムを表現されたのですか?

塩田: 昔のロマンポルノは、女性を押し倒して性的に興奮するというシーンを描くことが多かったんです。とはいえ当時も最終的には女性が勝つというか、肉体的には負けても精神的には女性の方が強いという作品が多かったのですが。

そして今回は、女性が見ても楽しめる成人映画にしようという意図があって、精神的にも肉体的にも、男を圧倒する女の人を出そうと思いました。その女の人に感情移入して、女性のお客さんも楽しめるというものです。

男の人は男の人で、あんなにきれいな女の人ならやられてもいいんじゃないかっていう…(笑い)、そんな楽しみ方ができるという感じでしょうか。

swissinfo.ch: 今回の作品は、(約1100本も公開された)70~80年代のロマンポルノを現代に蘇らせる企画の一環ですが、では現代性をどう吹き込むかという点において、この「強い女性」も現代性の一つになりますか?

塩田: 確かに、この「肉食的な強い日本女性」という現代性は、この作品に無関係ではないです。実際、今の日本では男女の力関係が20、30年前とははるかに違ってきていて、女性のほうが圧倒的に強くなってきていますから。

一方で、個人的趣味として男性が女性を虐待しているようなイメージがあまり好きではない。むしろ、女性が男性を虐待するほうがおもしろいという僕の個人的な理由もあります。

swissinfo.ch: 確かに、汐里は高介をたたいたり、蹴ったりと凄まじいアクションを展開しますね。

塩田: アクションの場面は、2人の俳優と相談しながら作っていったのですが、永岡佑という俳優は、アクションの演技のことを良く知っているんです。だから、本当に蹴っても痛くない蹴り方を教えてくれたりと、お互いのアイディアを出し合いながら一緒に作っていたんですね。

普通はシナリオを書き上げた後に詳細なコンテを作りますが、今回は2人の役者に場面場面を考えてもらって作ったのです。

一本の棒を一緒に握って、相手の力の流れを探り合う汐里と高介 (pardolive.ch)

一本の棒を一緒に握って、相手の力の流れを探り合う汐里と高介

(pardolive.ch)

swissinfo.ch: ところで、アクションの一つに、一本の棒をお互いに握り合って相手の力の流れを探り合う場面が強く心に残りました。まだ間に棒があるので、肉体的には一つになれない。あそこで2人は恋に落ちたのではないかと思ったのですが…。

塩田: 確かに、感じていただいたように、あそこで精神的な愛というものが電気のように流れていると思いますね。

なぜあのようなイメージを思いついたのか自分でもよく分からないのですが…。あのシーンは結構気に入っています。

swissinfo.ch: その次に続くベッドシーンですが、「肉体と肉体がぶつかり合うようなものを作ろうとした」と言われましたが、その点をもう少し詳しく教えていただけますか?

塩田: 女性が、観念とか意味とかではなくて、本当にそこにいるんだという、そこにいることの強さというのかな…。例えばセリフとセリフのぶつかり合いで、愛情関係を示すのではなくて、本当に肉体と肉体がぶつかり合って、最終的にはもう2人で1人みたいになってしまうようなイメージが欲しかったんですね。

swissinfo.ch: 2人で1人といえば、例えば一体になったままでトマトを食べたりビールを飲んだりと、その徹底感はすごいですね。

塩田: 日本映画では、あのようにセックス中に食べたりするシーンはまったくなかったわけではないのです。日本には昔から春画の伝統があるからで、またロマンポルノというのは、セックスの最中をどう描くかということをあの手この手で追求してきた歴史があるので。なにしろ約1100本も公開されたわけですから(笑い)。

swissinfo.ch: その日活ロマンポルノですが、長さは70分。10分ごとにヌードシーンを入れるといった、まるで俳句のような制約がある。それは、日活がエロチシズムを追求し続けた結果なのでしょうね。

塩田: 制作開始時にはそんなに深く考えていないと思いますが、作っている監督や脚本家、俳優やスタッフが様式化していったというか…。

また逆に言うと、そのルールさえ守れば、どういう内容のお話を描くかは結構自由だったのです。だから、約束はきちんと果たす。その代わり好きなことをやるという、そのバランスが洗練されていったのではないでしょうか。本当に、ある意味で俳句みたいなものですね。

そして今回僕自身も制約があるからこそ、いろんな手を思いつき面白くなったと思います。

ところでこの日活ロマンポルノですが、これを今、名画座のようなところで上映すると若い女性がたくさん見に来るそうです。理由は、はっきりしていないのですが、一つには女性にも性欲があるし、性欲があることが全く恥ずかしくないということが、ロマンポルノを見ると肯定されるのかもしれない。70年代の衣装とか生活感とか、そういうものをファッションとして若い女性が好むからという話も聞こえてきますが。

swissinfo.ch: 今回の作品は、神代辰巳監督の「恋人たちは濡れた」という日活ロマンポルノからインスピレーションを得て制作されましたが、それは例えばどういった点ですか?

塩田: もし端的に言うとすると、神代監督は自転車の使い方がすごくうまい監督なんです。僕の映画でも自転車が印象的に出てきます。

神代監督は、ちょっとした小道具を使って、思いもよらないような動きを俳優たちにさせて、そういう俳優たちの動きを見ているだけでもおもしろいという映画を作る方なんですよ。その感じが僕は好きで、この映画を作るにあたってなんとなくイメージしていましたね。

swissinfo.ch: 最後になりますが、ロカルノのメディア関係者のための上映会で、たくさんの記者が何回も大声で笑っていたんです。エロチシズムを基盤としながらも、見ていて楽しいし、また小さな劇が挿入されたりして、「これはフィクションなのだ」と伝えているような愉快さもありました。

塩田: コミカルなオフビートな笑いを作ろうという意図はありましたね。とにかく陽気な映画にしたいと思いました。登場人物の数が少ないお話ですが、ある種カーニバルの陽気さを出したかったのです。

一方、メタフィクションの感じは、始めはあんまり考えていなかったのです。当時たまたま東京の映画学校で俳優コースの講師をしていて、そこに演劇関係の先生もいて、生徒に教えていた。それを見て「演劇っておもしろいな」とすごく思い、その体験を取り入れました。このような色々の偶然が集まってできたようなところがあります。

今回の実験のような映画の作り方は今後、他の映画制作においても挑戦してみたいと思っています。

塩田明彦監督略歴

1961年、京都府生まれ。立教大学在学中より黒沢清、万田邦敏らと共に自主映画を制作。その後、多数のロマンポルノ作品で脚本を手掛ける。 大和屋竺の下で脚本を学ぶ。劇場映画デビュー作「月光の囁き」(99) と「どこまでもいこう」(99)がロカルノ国際映画祭に正式出品。

2001年、宮崎あおい主演「害虫」(02)でナント三大陸映画祭審査員特別賞・主演女優賞を獲得する。「黄泉がえり」(03)、「どろろ」(07)が興収30億円を超えるヒットを記録するなどメジャー大作も多数手掛ける。

 著書に「映画術・その演出はなぜ心をつかむのか」(イーストプレス)、「映画の生体解剖×映画術 何かがそこに降りてくる」(Amazonにて電子書籍として販売中)など。近年の作品に「抱きしめたい」(14)などがある。


「ネコ科の動物の化身」のような強い女性を描きたかったという塩田監督。こうした形でエロチシズムを追及しながらも、笑いのある「軽さ」がこの作品の魅力。インタビューは、監督の映画作りの片鱗を覗かせてもらったようで興味深く、たくさん勉強させてもらった。そして過去のロマンポルノを見たくなった。皆様からのこの記事に対する感想をお待ちしています。

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