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スイスの花火はロックのノリで

ジュネーブの花火 Hans Hamberger AG

スイスでは建国記念日の8月1日の夜に集中して花火が上がる。そのほか、7月から8月まで、夏の祭りとして花火を上げる自治体も多い。

特にジュネーブ、モントルー、トゥーンなど湖畔での夏の花火大会は大規模だ。スイス最大といわれるのは3年に1度催される「チューリフェシュト ( Züri Fäscht )」。今年は7月2日と3日の2晩、それぞれ30分間にわたって花火が上がった。

1時間で6000万円

 チューリヒ市が主催したチューリフェシュトでは、2日金曜日の夜に3万発、3日土曜日の夜には2万発の花火が、スペインの作曲家、マヌエル・デ・ファリャの「魔術的愛」や映画「キル・ビル」のテーマソングなどに合わせてチューリヒ湖畔の空を飾った。特に2晩目は、ヘリコプターから花火を打ち放すというスペクタクル付き。花火、船の上に設置する花火の仕掛け、音楽などの費用総額70万フラン ( 約6000万円 ) が一瞬のうちに煙と消えた。主催したチューリヒ市のローラント・シュタヘル氏は
「すべてが完璧だった。市民の反響も最高の最高だった」
 と満足そうに語った。

 スイスで花火を製造している会社は現在3社しかない。中でも創業1863年と伝統のある「ハンス・ハンベルガー ( Hans Hamberger ) 」の最高経営責任者 ( CEO ) のクルト・アベックレン氏を訪ねた。ハンス・ハンベルガーはインターラーケンから電車で20分のブリエンツ湖畔にある。年間売上はおよそ600万フラン ( 約5億円 ) 、従業員25人の中小企業だ。

 ハンス・ハンベルガーはスイスの観光産業とともに大きくなった。ブリエンツ湖畔にあるホテルに宿泊する客を楽しませるため、滝を炎で照らし出したのが同社の始まりだという。花火とは言えるものではなく、滝をカラフルな炎で5分から10分間照らし続けるだけだったが、電気がなかった当時、観光客は十分に楽しんだはずだという。1897年には、シャムの王様に花火を見せ、1912年にはチューリヒでドイツの皇帝のために行われた花火大会を請け負った。

 現在は扱う花火の4割が自家製のロケット花火と噴火花火で、残りは中国からの輸入品だ。人件費から材料費まで、スイス製は高くつく。
「1990年まで日本からも輸入していましたが、日本製も高くなってしまいました」
 とアベックレン氏は少し残念そうに語った。

もっとスペクタクルに

 ハンス・ハンベルガーの自慢の花火は「ダイヤモンドの雨 ( Diamanten Regen )」。空から流れ星のように落ちて来るときに滝のような形を作る。一つ一つはたばこ1本の大きさ。これを導火線でつなげて並べることで効果を狙う。2008年にスイスとオーストリアが共同主催した欧州サッカー選手権のためにベルンに作られたスタジアムの開場式のアトラクションを請け負った。サッカーのラインコートの上、30センチメートルおきにこの花火を置いて次々に点火。
「私の代で請け負った仕事の中で最も大変な仕事でした。複数の導火線でつなげたのですが、小さな花火の一つが点火しないだけで大きな穴が空きますから」
 最後まで結果が分からないのが、仕掛け花火の難しさだとアベックレン氏は語る。

 ところで、アベックレン氏が特別だと感じるのは日本の花火の中でも菊物。火薬の玉である星が菊のように尾を引いて広がる。
「菊物は花火のハイライトです。正確な球体として広がります。中心がしっかりとしていて、星が均等に広がり、色が正確に変化して、観ている人の方に迫ってくるというような感じにしてくれる。そのためには、それぞれの色の光る時間が統一され、一つ一つの星が、例えば赤から青へ一斉に変化しないといけません」
 
 ヨーロッパではロケット花火や噴火花火が主流。扇形に広がるが、日本独特の完璧な球形にはならない。このため、見る角度が違うと花火の形も違って見える。中国からは、ハートやケーキの形を作る花火も輸入されている。
 
 アベックレン氏の説明によると、日本の花火とヨーロッパの花火の楽しみ方は違うという。
「日本は、一つ一つの花火を愛でるようですね。スイスも以前はそうでした。今はより多く上げることを要求されるようになりました。ロックコンサートのような効果が必要です」
望まれるのは質より量。しかし、打ち上げのタイミングや複数の花火の組合せの正確さが望まれるという。特に音楽と合わせる場合はなおさらだ。

 花火師のアベックレン氏にとっての醍醐味は、花火が広がった後に大勢の観客が一斉に「わーあ」と感動してくれることだという。花火で人を笑わせたこともある。ブルブル、シュルシュル、そして最後にブーッという音を出す花火を作った。
「観客は大笑い。最高に嬉しかったです」
 
 8月1日の夜の注文は100件を超える。外からの技師も頼んでこれをこなしていくことになる。

佐藤夕美 ( さとうゆうみ ) 、オーバーリート・アム・ブリエンツ ( Oberried am Brienz ) にて、 swissinfo.ch

1863年創業 
所在地 オーバーリート・アム・ブリエンツ ( Oberried am Brienz )
1989年ドイツ資本になる
従業員 25人
年間売上高  約600万フラン
花火は自家製4割、中国からの輸入6割。そのほか空砲や松明なども製造。
パーティーや結婚式のイベントから、自治体などで催される花火大会まで花火すべてを請け負う。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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