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ロカルノ金豹賞は、メキシコの「道の公園」

第61回ロカルノ国際映画祭の金豹賞はメキシコの「Parque Vía」に。エンリケ・リベロ監督が金豹賞を手に笑顔 Fotofestival / Pedrazzini

第61回ロカルノ国際映画祭の金豹賞に選ばれたのは、メキシコ人エンリケ・リベロ監督の「道の公園 ( 仮訳 / Parque Vía )」だった。富豪の家を管理するインディオを通し、異なる階級の人間関係を描く映画だ。新鋭監督賞はスイスのドキュメンタリー「要塞 ( 仮訳 / La Forteresse ) 」( フェルナンド・メグラー 監督) が受賞した。

金豹賞受賞作品について、今年の審査員を務めた小林政広監督は「ミニマムな映画で、好きな映画の1つだ。リアルで感動する。主役の演技も良い」と評価し、審査員全員の支持を得て決められたことを明らかにした。

日本の短編「BABIN」

 短編が参加する明日の豹たち部門では、「若い審査員による特別賞」と「字幕製作会社賞」が日本の平林勇監督の「BABIN」に贈られた。森の中、下半身を地面に埋められた男を通して生命・世界観を描いた短編だ。受賞後、平林氏は
「日本では認められないアバンギャルドが、ヨーロッパでは認められたのだと思う。上映会場での観客や映画関係者の反応が大変良かったことから、受賞は嬉しい反面、もっと上の賞が取れなかったことは残念だ。ロカルノ映画祭は巨大で、ライバルの映画もレベルが高かった」
 と感想を語った。

 一方、新鋭監督部門に参加した「症例X」は残念ながら今回は受賞を逃した。
「いろいろな方と出会い、とても素敵な経験になりました。映画が僕に、広い世界を見せてくれました。今回のロカルノでの体験は、僕にとっての貴重な財産になると思います」
 と監督の吉田光希氏はロカルノでの体験に満足の様子だ。

スイスの映画

 今回もロカルノ映画祭では、スイス映画デーを設けたり、スイス映画部門なども設置し、スイスの映画産業への後押しもしている。しかし、スイス国内における映画産業は、ほかのヨーロッパ諸国に比べてもいまだ後塵を拝している。

 今回、金豹賞の国際部門にスイスフランス語圏から参加した「別の男 ( 仮訳 / Un Autre Homme ) 」 ( リオネル・ベヤー監督 ) は受賞を逃したが、すでにフランスの映画配給会社との契約を済ませ、一般公開に先鞭をつけた。ロカルノ映画祭は常に、一般受けよりも自主映画で質の高い作品を評価してきた。このため、受賞作品でも街の映画館で一般公開されるチャンスが無い映画も多い。

 「別の男」の主人公は、にわか作りの映画評論記者の出世物語だ。才能が無いので、ほかの記者の記事を丸写ししながら仕事を続ける。周囲の友人との文学や映画についてのウィットのある会話が、観る人の苦笑を誘う。結局、大手マスコミ社長令嬢のおかげで、どうにか記者としての道を開くことになる。

 主催者のマルコ・ソラーリ氏によると、雨に見舞われ続けたため今年の映画祭は、およそ10万フラン ( 約1000万円 ) の損失を計上するもようだ。しかし、ソラーリ氏は大スターなどを呼んで映画祭を華やかにすることはきっぱりと否定する。スイスにはいくつかの映画祭がある。9月末にはメジャー志向の強い第4回チューリヒ映画祭も開催される予定だ。しかし、伝統、格式、そして質の上でもこうした映画祭からは逸脱したロカルノ国際映画祭は今後も、質を重視した自主制作映画の発掘を続けていくことだろう。

swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ )

第61回ロカルノ国際映画祭
金豹賞 ( 賞金9万フラン ) 「道の公園 ( 仮訳 / Parque Via )」エンリケ・リベロ監督、メキシコ
審査員特別賞 ( 賞金3万フラン ) 「人生の33のシーン ( 仮訳 / 33 Sceny z zycia ) 」マルゴスカ・ツモヴスカ監督、ドイツ / ポーランド
新鋭監督賞 「要塞 ( 仮訳 / La Forteresse ) 」フェルナンド・メグラー監督 、スイス

今年で61回目を迎えるヨーロッパでも歴史ある映画祭。
ロカルノはチューリヒから電車で約3時間、ミラノから約2時間。スイスイタリア語圏、ティチーノ州にある人口1万4000人の小都市。
開催中は映画祭のシンボルである黄色に黒い斑点の豹のエンブレムで街が覆われる。
8000席あるピアツァ・グランデでは、毎晩9時半から映画2本が上映される。
そのほか映画館などの会場で、10のスクリーンで上映される。
入場料 1本に付き15フラン、ピアツァ・グランデは32フランだが、1本だけの観賞なら22フラン。ピアツァ・グランデでも有効な1日フリーパスは47フラン。
( 1フラン約100円 )

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