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ロダンを新しい視点から

『考える人』、『地獄の門』の1部、1880〜1917年作、ブロンズ、クンストハウス所蔵

160点のデッサン、石膏、ブロンズの作品を堂々と並べた「ロダン展」がチューリヒのクンストハウス ( Kunsthaus ) で開催されている。

初めて「ロダン展」を開催した1947年から60年ぶりの展示にクンストハウスは力を入れている。2004年の「モネ展」に続き、印象派展をテーマの1つに掲げる同館は「実はロダンも印象派的な彫刻家なのです」と言う。

 「愛人カミーユ・クローデルとの関係など複雑な人生を送ったことも、ロダンの創作に関わる1つの要素ですが、今回はあくまで創作方法、作品そのものの意味に集中して展覧会を構成しました」と語るのはクンストハウスの広報担当、ビィヨルン・ケレンベルグ氏。19世紀の彫刻家としての全ての要素を持ち合わせながらも、それを飛び越えるロダンのアバンギャルド的要素をじっくりと味わえる大展覧会である。

『地獄の門』

 「今回の展覧会のためにクンストハウスが200万フラン ( 約1億9000万円 ) かけて修復した『地獄の門』は共催の王立美術アカデミー ( ロンドン ) から戻って、クンストハウス入り口の横に堂々と照明も明るくして展示されています」とケレンベルグ氏。

 世界中に同じものが8つあるというこの6.8メートルの高さのモニュメントを、クンストハウスは1947年に購入した。有名な『考える人』は、実は門を構成している186のエレメントの1つなのだ。

 同展では、これらのエレメントのうち『考える人』を含め『接吻』など10点が大型の彫刻に作り変えられ展示されている。

現代的かつ教育的な展示

 「今までのロダン展と異なるのは、全生涯に渡る作品を現代的かつ教育的に展示した点です」とケレンベルグ氏。

 現代的という意味は、自然光を取り入れた1300平方メートルの開放的空間に、「接吻」、「考える人」、「扉」など6つのテーマ別に彫刻を分け、そのグループの中の彫刻を自由に巡ることで観る人は色々な発見ができるようになっていること。

 また教育的という意味は、1つの作品が出来上がるプロセスを分かりやすく展示していること。たとえばある作品はデッサンから石膏へ、また違う石膏へ、そして最後にブロンズになるという創作過程を経ているが、それが視覚的に観られることだ。

ロダンのアバンギャルド的要素

 「ロダンはたくさんの実験を行い、近代彫刻への道を開き、そして現代のアーチストに多大な影響を与えました。1つはアッサンブラージュの手法、2つ目は印象派的手法などです」とケレンベルグ氏はロダンを現代的視点から観る鑑賞法を教えてくれる。

 アッサンブラージュとは、ある作品に使った腕の表現、別の作品の足の表現などを集め、組み合わせて ( アッサンブラージュして ) 、新たに1つの彫刻を作るやり方。ロダンはそういうことをしていたのである。

 また、ロダンの彫刻の表面が波打っているように、凹凸があって驚いた経験を持った人は多いことだろう。これをケレンベルグ氏は「まるで印象派の画家が筆で点を並べて描いていくように凹凸をつなぎあわせ、それで独特の陰影を作りだすのです」と言う。

 さらに、19世紀の彫刻は台座が堂々とあって見上げるようなものが普通。ところがロダンは台座を取りはずし、鑑賞者と同じ高さに彫刻を並べた。

 最後に、『歩く人』のように頭のない彫刻など、「完成していない完成作品」を作ってもいる。

 こうしたロダンのアバンギャルド的要素を想いながら自由に彫刻から彫刻へと巡ってみるのは楽しい散策である。

swissinfo、里信邦子 ( さとのぶ くにこ )

<クンストハウス ( Kunsthaus )>
ロダン展 2月9日〜5月13日
火〜木曜日 10〜21時
金〜日曜日 10〜17時
閉館日 4月5〜9日と5月1日
入場料 17フラン ( 約1600円 )、割引券11フラン( 約1000円 )
カタログ 72フラン ( 約6900円 )
交通手段 チューリヒ中央駅から3番のトラムでクンストハウス ( Kunsthaus ) 下車
<出展作品>
出展作品はロダン全生涯に渡るもので、デッサン30点、石膏60点、大理石2点、ブロンズ68点

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