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第57回ロカルノ国際映画祭

ロカルノ映画祭はスイス最大の映画祭。ピアッツァ・グランデでは毎夜オープンエアで各国の映画が上映される。 Keystone Archive

8月4日から14日まで、スイス南部ロカルノ市で国際映画祭が開催されている。「金のレオパルド賞」を競うメインコンペティション部門には、スイスから「約束された土地」(Promised Land)(ミヒャエル・ベルトラミ監督)、日本から「トニー滝谷」(市川準監督)を初め、欧州各国、香港、インドなどから19本の作品が参加している。

審査はスイスの写真記者ルネ・ブーリ審査委員長ほか、映画関係者7人があたる。映画祭ではメインコンペティションのほか、「ビデオ映画部門」、「ジャーナリズムと映画」など10以上の部門に分かれ、およそ250本の映画が上映される。

国際映画祭といえばベネチアやカンヌなどが、世界的に有名な監督やハリウッドの映画スターも集まることで、注目度は高い。一方、スイスでは最大とはいえ、ロカルノの国際映画祭はこれらの華やかなものと比較すると地味だと毎年言われてきた。開催者のイレーネ・ビニャルディ氏は、「スタッフと気に入った映画を選んだ結果である。特に自分が社会派とは意識したことはないが、映画は常に政治的なものであり、政治的な思想を持っている」と言う。上映される映画の半分は米国製だが、ロカルノ映画祭の特徴は国際性にあり、全世界を網羅していると言えよう。「スターを見に来たいのか、映画を観たいのかは観客が決める。映画好きを魅了する映画祭にしたい」(ビニャルディ氏)というロカルノ国際映画祭。10日間に20万人の観客が訪れると見込まれる。
日本映画として、荒牧伸志監督のアニメ「アップルシード」が映画祭メーンの大広場で上映されるほか、「CASSHERN(キャシャーン)」(紀里谷和明監督)や「SURVIVE STYLE5+」(関口現監督)も上映される。

ピアッツア・グランデ(大広場)の上映が呼び物

 ロカルノはイタリア語圏のチチーノ州に位置し、夏になるとテラスで食事する人たちを多く見かけるといった南欧の文化がある。映画祭もメインとなるのは街の真中にある大広場、ピアッツア・グランデ。日がすっかり落ちた9時半から大スクリーンで上映となる。ここでは、マーロン・ブランド追悼映画として上映される「ケマダの戦い」(ジッロ・ポンテコルヴォ監督)や「9日目(Der neunte Tag)」(フォルカー・シュレンドルフ)の作品など、250本のうち19本が上映される。

 これまでは雨が降ったら広場での上映は延期となっていたが、本年からは雨天決行で、雨に濡れたくない人は別の会場でも観ることができるようにした。初日は雨が降ったものの、やはりロカルノ映画祭はピアッツア・グランデで観るのが一番と、映画祭の呼び物の一つとなっている。

「トニー滝谷」

 「トニー滝谷」は同じ題名の村上春樹の短篇小説を映画化したもので、メインコンペティションに参加している。監督は市川準氏で、コマーシャルの演出家として多くのヒットCMを生み出し、1985年にはカンヌ国際広告映画祭で金賞を受賞した。87年には映画監督としてデビュー。以来「病院で死ぬこと」(93年作)、「竜馬の妻とその夫と愛人」(2002年作)などを製作した。

 「自分から映画祭に作品を売り込んだわけではない」と言う市川準監督だが、「ロカルノ映画祭は57年の伝統があり、小さい映画祭の中では重要な映画祭だろう。コンペティションに参加したというだけでも、良かった」と語る。「トニー滝谷」では、「引っ込み思案で、人とのコミュニケーションを怖がるような、典型的ないまの日本人を描きたかった」。

 映画を製作するに当たっては必ず、小津安ニ郎の映画を何本か観て「精神を整える」市川準監督。映画の製作を通し、「人は一人で生まれ、一人で死ぬ。人は孤独で、人生ははかない。それでも意味があるのだということを言い続けたい」と語る。一般に日本映画に対する評判は良いスイスであるが、特殊セットの中で撮られた「トニー滝谷」が今回の映画祭でいかなる評価を得るであろうか。結果は最終日14日に発表される。

スイス国際放送 ロカルノにて 佐藤夕美 (さとうゆうみ)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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